第3話 リアル恋愛シミュレーションゲーム
『ルールは簡単。よくあるゲームのチュートリアルみたいな感じで、プレイしながら説明していくニャ〜』
天井でいざなみんのアバターが小さくなる。
中央には黒板のような画像が現れた。
そこに①という数字が現れ、その後にテキスト列が現れ始める。
「テメーふざけんなよ。何が恋愛シミュレーションゲームだ!? やってられっか」
「あれ、アンタびびってんの? それとも恋愛上手は噂だけかしら」
「何いってんだよ、調子のんなよ宮下」
「調子のってんのはアンタ。この状況で恋愛ゲームでいいって言ってるんだよ? あいつの気が変わらないうちにさっさと従って、出してもらうのがベターだって」
最後は少し声をひそめて宮下鈴羽は囁く。
三宅誠司はようやくいからせた肩を下ろした。「……まあ、そうかもな」と。
『恋愛シミュレーションゲームはいわゆる一つのフィーリングカップルみたいな感じ。まず【①各参加者は自分がこの中で一番好きな異性の名前を書いて中央の投票箱に投票する】んだ――』
「わっ! 何これ!?」
言葉を遮ったのは鈴羽だった。
彼女の前には突然、銀色の直方体が現れていた。
さっきまで、そんなものは無かったのに。
『あ、それが『投票箱』だニャ。投票箱と書いてラブレターボックスと読みたいところだけど、まぁ、面倒くさいから投票箱でいいニャ』
好きな人の名前を書いて投票する。
その言葉を悠は反芻する。
眼の前に立つ美那がちらりと柊真を盗み見た。
その視線に気づいた柊真が彼女のことを見つめ返す。
悠はベッドの上の右手を、押し付けたまま強く握りしめた。
「ねえ、悠くんは、誰か好きな女の子とかいるの?」
「志乃さん、なんですか、突然?」
「ん? なんとなく? ほら、恋愛ゲームらしいから?」
「――秘密です」
「そっか」
本当は言ってもよかった。
俺は結城美那が好きなんだって。
小学生の頃からずっと。
ただ幼馴染の関係に胡座をかいていただけ。
両想いなんだって、信じていた時期もあった。
でも今はもう自信がない。
知るのが怖い。
美那が誰のことを好きなのか。
「――でも、私はいつでも悠くんの味方だよ」
「……ありがとうございます。志乃さん」
だから、この投票が、怖い。
『あ、それからルールの説明を続けるニャ。【②誰に投票したかは絶対に口にしてはいけない】。ルール違反はシンプルに死んでもらうニャ』
死、という言葉。
悠は、生唾を一つ飲み込んだ。
友人と交わす冗談の「死んでもらう」とそれは違った。
降ってきた言葉は、どこか異質だった。
――本当なのかもしれない。
『誰が誰に投票したのかは基本的には秘密だニャー』
悠はほっと胸を撫で下ろす。美那の気持ちを知らずに済む。
しかしその安堵は一瞬でひっくり返る。
『だけど見事に両思いのカップルがいたら【③両想いだったカップルのことだけは公表する】、ニャ! その上で二人には何か一つプレゼント企画を受け取ってもらうニャ!』
天井にルール①から③までの項目が並んだ。
まだ少し下の方にスペースが空いているのが気になった。
しかし、やるしかなさそうだ。
悠はベッド縁を両手で押して両足で立つ。
八角形の部屋の中央へと歩きだした。
先を行く美那と柊真を追って。
それを志乃が追う。
前方からは久遠会長とが来る。
その後ろかたら、まだ一言も話していない佐野栞が無言で来る。
中央に集まった8人はあらためて簡単な自己紹介をした。
ほとんどのメンバーは顔見知りだった。
でも久遠などは半分くらい知らなかったようだ。
生徒会長が司会するような形で、これまでの状況認識を共有する。
そして8人は、神チューバーを名乗る少女――「いざなみん」のゲームに乗ることに合意した。
――というか選択肢なんて初めから無かったのだが。
「い……『いざなみん』って多分、日本神話の伊耶那美命からとってますよね。カッ…神チューバーだからって、神様にあやかりたい気持ちはわかりますケド、ちょ……ちょっと不遜ですよねっ! ハァハァ」
その間、佐野栞が話したのはこの一言だけだった。
なんだか神話に詳しいらしい。
「わかった。僕たちは君のいう恋愛シミュレーションゲームに付き合おう。……ただし、一回だけだ。一回だけプレーしたら解放してもらう!」
久遠会長は堂々と、そう言い放った。
『いいヨー。まぁ、もともと一回の予定だったしね、一回で十分楽しめるからね〜』
仮面の少女は天井のディスプレイ内で飛び跳ねた。
子供が玩具を与えられて喜ぶように。
悠はその姿に違和感を覚える。
「どこか、おかしい」と。
そもそもこんな大掛かりな状況をセットしているのだ。
それが何の変哲もないフィーリングカップル一回の実況で元が取れるのだろうか。
悠は、そこで頭を左右に振る。
考えても仕方ない。
今はやるしかないのだから。
それに、誰に投票するかなんてとっくの昔に決まっているのだ。
やがて部屋中が七色に光り、陽気な少女の声が部屋中の響いた。
『それじゃあ、
悠は投票用紙を一枚手に取り、名前を書き入れた。
結城美那――ずっと好きだった幼馴染の名前を。
彼女がまた、――自分の名前を書いてくれることを願いながら。
それが微かな望みだと、どこか気づいてはいたけれど。
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