第2話 神様系Vチューバー
「――誰だよお前!?」
即反応したのは「再生ボタン」を押したヤリチン誠司だった。
天井に現れた少女はアバターで、アニメのキャラクターみたいな姿。
ピンク色の髪を肩まで伸ばした少女は、ぎこちなくその顔を左右に揺らした。
双眸は真っ白な仮面に覆われている。
『はいー。質問ありがとねー。でも長身クソ野郎、人に名前を尋ねる時はまず自分の名前から名乗るもんだよー』
めちゃくちゃ上から目線で返す仮面の少女。
本当に上から話しているのだが。
「くっ……、わあったよ。俺は三宅誠――」
『なーんてね。この部屋のメンバーは全員アタイが選んだから名前も知ってるんダヨー。三宅誠司。女の敵。ヤリチンクソ野郎』
「あああっ!? なんだよテメェ! 犯すぞ」
『うわー、暴力的〜、引くわぁ〜。一体全体、股の緩い女たちはこんな男のどこがいいんだろうね〜』
「なんだよ。お前もそこから出てきたら、俺の良さをたっぷりちゃんと教えてやるぜ」
『えー、いいよー。アタイ、男だし』
「え? マジかよ?」
『嘘だよ? ヤリチンクソ野郎』
中央で展開される突然かつ最低の応酬。
誠司のことをよく思っていなかった悠は、少しばかり胸のすく思いがしなくもない。
突然現れた不可解なアバターの少女。
「ということは、君が僕たちをこの部屋に閉じ込めたのか? ここはどこだ? 君は誰だ?」
声を上げたのは生徒会長の藤堂久遠だった。
悠の正面。一番遠い場所にいる。
『さすが生徒会長。頼りになるニャー! でも質問はそんなに一気にされると答えにくいニャー! 質問は一回一つまでって、習わなかったニャ〜?』
「わ、わかった、……一つずつにしよう」
眼鏡を動かしながら少女に合わせる久遠。
自然と他のメンバーは、優等生として有名な彼に、まず任せることを選んだ。
先輩であるし、生徒会長でもあるから。
誠司も「ちっ」と舌打ちをしてからそれに倣う。
天井が揺れて、空間に声が響く。
「――君は誰だ?」
『アタイはお茶の間にゲー厶実況をお届けする神様系Vチューバー、略して神チューバーの【いざなみん】ダヨッ!』
「神チューバー……? ゲーム実況って、なんだ?」
久遠と天井の中の神チューバーが対峙する。
『はい。ゲームはゲームで〜す。突然ではありますが皆さんにはこれからリアルなゲームをプレイしてもらいます。で、アタイが実況しちゃうの』
「ゲーム? どうしてそんなことに僕たちが付き合わないといけないんだ?」
『生徒会長ぉ〜。君がそんなに聞き分けないようじゃダメだよぉ〜。君はリーダーなんだから家畜たちを先導してくれなくちゃぁ〜』
「ハァ!? 家畜だと、テメェ、殺すぞ!」
誠司が吠えると、天井で神チューバーがブルッと震えた。
『もう〜、誠司くんったら野蛮だなぁ。ビックリしてオシッコ漏らしちゃったよ』
「ケッ、また嘘なんだろ?」
『あ、今度はマジです。美少女、尿漏れ起こしました』
突然の失禁告白に真顔になる8人。
意味がわからない。
『さて、美少女の失禁に興奮する変態のヤリチンは放置しておいて、説明を続けるね〜』
仮面の少女は淀みなく話し続ける。
『アタイの動画チャンネルって結構神チューバー界隈では人気で、結構な収益あげてんだニャ。でも最近マンネリだから新しい企画を立てて、人気ブーストしてイイねとチャンネル登録者数稼ぎたいなって思ったワケ。その企画っていうのがこれから皆にやってもらうゲームってことだニャ!』
「どうして僕たちがそれプレイしないといけないんだ? どうして見も知らないお前に協力しないといけない?」
『はあ。凡人が何いってんの? 神様とオメーらが対等な訳ねーだろ。協力とか頼んでねーよ。やれって言ってんの。嫌なら、閉じ込められたまま、餓死して、死ね』
「……この部屋に出口は、無いのか?」
中央へと歩きながら左右を見る久遠会長に、柊真が近づく。
「先輩。多分、マジですよ。僕が一番に起きて、かなり徹底的に調べましたが鍵穴一つ見つけられませんでした。――マジでどうやって僕らが運び込まれたのかも謎です」
「――そうか」
柊真の声に、久遠会長は眼鏡のブリッジを押し上げ、一つため息を吐いた。
「いいだろう。仕方ない。付き合ってやろう。他の7人がどう判断するかはそれぞれが決めることだけどな」
『それを統率しろって言ってんのニャ! 使えない群れの頭ニャァ。……まあいいや。じゃあ、皆に教えてあげるにゃ。プレイしてもらうゲームは――』
悠の背をぞわりと厭な感覚が駆け上がる。
様々な小説や映画で見た設定。
密室への監禁。
そこから始まるゲーム。
もしかしてもしかすると。
次の瞬間、大きく息を吸い込んだ神チューバーいざなみんの顔がどアップになり、唾を飛ばしながら、声が放たれた。
『【リアル恋愛シミュレーションゲーム】だニャァァァァァッッ!』
八角形の密室に、一瞬の沈黙が訪れた。
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