番外編:愛しい存在

翌日あたしは日がすっかり昇ってからゆっくりと起きることになった。


ルドはせっせとあたしの世話や家事をしてくれている。


「大丈夫でしょうか?」

と声も掛けてくれて、一緒にいてくれている。



「大丈夫くないです」


だるい体を起こすのもしんどいので、ベッド上で過ごす。


「すみません。無理をさせてしまってことは反省してます」


「冗談よ。あたしの世話ばかりじゃなく、自分のしたい事もしていいんだからね」


せっかくの休みなんだから、ルドにもゆっくりとしてもらいたい。

普段護衛の仕事で休めないんだから、羽をのばしてもらいたい。



「したい事は、チェルシーの側にいることです」


真面目な顔で隣に座ってくる。



優しく頭を撫でられる。


思わず甘えるようにすり寄ってしまう。



「もう怖いとかそういうのはないですか?」

「…本当言うと、まだ少し」


さすがに昨日の今日で落ち着くわけがなかった。


「それはそうですよ。攫われたなんて、恐怖でしかありません。助けに行き、生きている姿を見た時はホッとしました」


ルドの手に力がこもった。


「チェルシーに触ったあの男は許せませんでしたね。生かしておくつもりはありませんでしたが、もっと苦しませればよかった」


怒っているオーラが半端ない。


「マオみたいなこと言わないでよ。何もされなかったし、それにルドが来てくれて、嬉しかったよ」

「チェルシー…」



「今後はなるべく俺と一緒に出掛けましょう。俺でなくとも、誰かと一緒にでいいです。一人は危険だ」


「そりゃあルドが一緒なら嬉しいし頼もしいけど。人手足りなくなるでしょ?」


屋敷の守りは意外と少ない。


少数精鋭といえば聞こえはいいが、人材確保がまず難しい。

何人か雇った者たちの中には、ティタン様がいない隙にミューズ様に手を出そうとしたものもいる。


身辺調査をしてから雇ってもそうなのだから、なかなか難航するものだ。


「改めて人を雇うことを検討していくとティタン様もおっしゃってます。そうすればもう少し余裕は出るはずだなので、無理はしないでくださいね」


唇を重ねられ、顔を赤くしてしまう。


「チェルシーだって、誰に見初められるかわからない。俺を捨てないでくださいよ」

「絶対にそんなことあるわけないわ、ルドに言い寄る人はいると思うけど」


「俺が浮気などあり得ません。こう見えて誠実さが売りですから」

「自分で言うの?」


確かに誠実だけれど、ルドが自分で言うとは思っていなかった。


嘘嫌いで真っすぐな人。間違ったことは言ってないけれど、違和感半端ないわね。


「おかしいでしょうか?チェルシーが安心してくれるかと思って言ったのですが、どこか間違ってますか?」


超がつく真面目さはこういう時にずれて感じちゃう。


まぁひねくれ過ぎるよりは断然いい。


「いいえ、誠実なルドがいいわ。ピンチな時には助けにきてくれて、今だって側にいてくれる。あたしの騎士様は真面目でとても頼りになって、大好きな人だわ」


言ってて自分でも恥ずかしい。

顔が赤くなってしまう。



「不意に言うのは狡いです…」

ルドも体を強張らせ、耳まで赤くしていた。








至れり尽くせりの休日だった。



ルドも疲れてると思うのに、そんなことは微塵も感じられなかった。



その夜もたっぷりの愛情をもらい、次の日は寝ぼけ眼での出勤をする。

からかう声はほぼほぼ無視したけど。




屋敷の護衛についてはなかなか条件が合わず、すぐには決まらない日々が続いたが、めでたいことは色々と重なって起きた。





ミューズ様が第二子を懐妊した。

そして公爵家で働く新たな護衛が決まった、しかも女性。




教育係としてライカが就いたのだけれど、どうやら想い人だったらしい。


義弟に春も来て、あのライカの初々しい様子に、あたしとマオはにやにやしながら二人を見守り、もといガン見していた。


ルドはいつも通り、穏やかに優しく弟のライカを応援している。





良いことが続くことは喜ばしい。



ティタン様の兄弟であるエリック様のところも三人目が出来たそうだし、リオン様もお祝いをしにしょっちゅう来てくれている。



「これから公爵家はもっと賑やかになるわね」


これからの来る忙しさを思えば大変さはあるだろうが、わくわく感しか今は感じられなかった。



あたしはこの時まだお腹に宿る小さな命に気づくこともなく、ますます仕事を頑張ろうと思っていたのだ。


後々に自分の事のように泣いて喜ぶミューズ様や過保護なルドにお姫様のように扱われることになった。



一番の驚きはマオがしれっと出産したこと。


「まぁ、言わなくてもいいかと思って」


お腹が大きくなることもあまりなく、あたし以外もびっくりだった。


リオン様が頻繁に屋敷にきていたのもマオの体が心配だったかららしい。



驚きすぎて声も出なかったが、同い年の友人が出来たのは嬉しい。


よく泣くうちの子と、ほとんど泣かないマオの子と、差はあるもののとても可愛い二人。

大きくなってからも仲良くしてくれることを望むわ。


ほわっとしたミューズ様の下の子も含め、これからはママトークにも花が咲きそう。







願わくば幸せなこの時が、ずっとずっと続きますように!








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赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話 しろねこ。 @sironeko0704

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