10品目 ベビーサーペント酒 10年 (5)
「もしかして、オカミサンって有名な人なんですか?」
「私も知りたいです! あんなゴツい人たちを秒で倒しちゃうなんて、普通じゃないですよ!!」
お行儀の悪いトリなんとかを放り出してから、グィードくんとレオラさんのテンションが異常だ。
「いいのよ。過去は過去なんだから。今は食堂『ヴィオレッタ』のオカミサン。それでいいじゃない」
と、もう5回くらいは言ったのだけど、なかなか諦めてくれない。
「別に隠すような話でもねぇだろ。女帝ヴィオレッタと言えば、王都で知らないヤツなんか――」
「ゲーンさーん」
「おお。こわい、こわい。それにしても冒険者やめても腕が鈍ってねぇっつうか、むしろ熟練の域に達したっつうか」
「当たり前じゃない。お酒と女は熟成するほどイイ味が出るのよ」
本当に口が軽いんだから。
私が女帝と呼ばれていたのは、かれこれ10年以上も前の話だ。
もちろん本当に女帝――国を治める女の皇帝――だったわけではない。
ただ、その……男ばかりの冒険者たちを統率して、凶悪なデーモンを討伐したときについた、いわゆる『二つ名』というやつだ。
もう冒険者は卒業したのだから、いい加減『忘れられる権利』が認められても良いと思うのだけど、いまだにゲンさんのような当時の私を知る冒険者のお客さんが絶えない。
「女帝ってなんですか!?」
「ヴィオレッタさん、冒険者だったんですか!?」
などと食い下がってくるグィードくんとレオラさんのことは無視することにして、私は黙ってベビーサーペント酒をショットグラスに注ぐ。
「はい、ゲンさん」
「え? いや、俺は頼んでな――」
「はい、ゲンさん」
笑顔でただショットグラスを突きつけて、私はゲンさんにプレッシャーをかける。
口の軽い男にはちゃんとお仕置きをしておかなくちゃ、ね。
「弟子も飲んだんだから、師匠が飲めないってのは格好つかねぇんじゃねぇか」
「美味しくはないですけど、飲めないこともないですよ。ゲンさんも美肌になりましょうよ」
今度はマルコさんとレオラさんの悪ノリに、ゲンさんが追い詰められている。
さっきまでグィードくんをからかっていたときと立場逆転だ。
「美肌なんかいらねぇよおおおぉぉぉ!!!」
ゲンさんの悲鳴とみんなの笑い声が、食堂『ヴィオレッタ』をあたたかく包んだ。
10品目 ベビーサーペント酒 10年(了)
――――――――――――――――
10品目はちょっと変わったお酒でした。
ハブ酒とか、オオスズメバチ酒とか、たまに置いてあるお店がありますけど、あまり美味しいものではないです。なのできっと、モンスター酒も同じ感じなんじゃないかと思います。
主人公ヴィオレッタの過去が少し見えたこの10話で、約6万字に到達しました。この作品はここで一旦の区切りとさせて頂き、『「楽しくお仕事 in 異世界」中編コンテスト』の結果を待つことにします。
(2023.01.12追記)
無事に中間選考を突破することができました。来月の最終選考が楽しみなような怖いような。
https://kakuyomu.jp/contests/kadokawabooks_isekaiworking
ここまで全部お読みいただいた方も、つまみ食いでいくつかの話をお読み頂いた方も、皆さまの応援のおかげでここまで書くことができました。本当にありがとうございます。
この料理『ベビーサーペント酒 10年』のお代は♡、評価は★、口コミはレビューでお願いしますね。
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【完結】王都の路地裏食堂『ヴィオレッタ』へようこそ 〜オカミサンとちょっと変わったお客様たち〜 石矢天 @Ten_Ishiya
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