最終話 僕がきみを守る
◇
世間(主に裏社会)から【逃がし屋】だなんて肩書きをもらったからといって、僕は大したアクションをするわけではない。
ただ『逃げたい』と望む誰かを、指先ひとつでこっそりと助けて、ときに射撃で援護する。アーティ組としての仕事や顔出しは主にシアノが行っているし、僕は補佐官がせいぜい。実働部隊に所属することは滅多にない。
僕は、ただ――
「おかえり、永くん!」
「ただいま、愛璃」
(呼び捨て……まだ慣れないな。こそばゆい……)
面倒をみる子が皆卒業し、ふたりきりになってしまったこの島に、たくさんの甘いお土産を持って帰宅する。
南のプライベートビーチに佇む、一軒家。
商店や
新婚さながらに僕から背広を受け取る愛璃に、お土産とケーキを手渡す。
「愛璃……その、これ……今日で一周年だから……」
そう。僕らがこの異世界に来て、もう一年が過ぎようとしていた。
あれだけ残酷で憎たらしかった世界が、今は僕に有利なように動いてくれる。協力してくれる。
苦労を重ねた日々ですら、いい思い出というわけだ。
いまとなっては、あらゆる方面に顔のきく僕は『世界最強の【逃がし屋】』だなんて呼ばれているけど。褒めてもなにも出ませんからね。
それもこれも、少しの勇気と決断力、謎の魔法と努力と筋肉、愛璃のおかげなんだから……
僕はちょっと、本気をだしてがんばっただけ。
その本気は、きっと愛璃がいなければ出せなかったんだと思う。
そうして、今日は同時に僕と愛璃が結婚して一か月の記念日になる。
今から一ヶ月前、ロレンツさんが新宰相に就任し、追われることがなくなったのをきっかけに、僕はプロポーズした。
『これからも、ずっと隣にいて欲しい』
愛璃は、その告白を涙を流して喜んでくれて、何度も何度も『ありがとう、永くん』って、僕を抱きしめてくれた。
僕は、異世界にきてから学んだんだ。
たとえどんなことだろうと、自分の決めた道を信じてコツコツやれば、きっと誰かは見てくれている、報われるって。
僕は、他の誰でもない、大好きな幼馴染の愛璃にそれが認められて幸せだよ
「たとえどんな世界に飛ばされたとしても。愛璃は、僕が……守るよ」
心地のいい波の音に耳を澄ませながら、僕らは夕陽の沈む浜辺でもう一度キスをした。
(完)
※あとがき
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!この作品は現在カクヨム『お仕事コンテスト』応募中です。
あくまで中編なのでお話は一旦ここでお終いですが、よろしければ感想を、作品ページのレビュー、+ボタンの★で教えていただけると嬉しいです!
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世界最強の【逃がし屋】 南川 佐久 @saku-higashinimori
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