第15話 誘拐作戦
「この子も一緒に、誘拐します」
その一言に、ロレンツさんは目を見開く。
「どうしてだ……!? これ以上私から、大切なものを奪わないでくれ……!」
「大丈夫。誘拐するとはいっても、あくまでカタチだけ。マリアちゃんはあなたの自宅から誘拐した後、お母さんのいるサナトリウム付近の組所有施設で暮らしてもらおうと思っています。もちろんそこには、同じような年代の子達も沢山いる。お散歩に出かければお母さんに会えるし、寂しくなんてないですよ。ロレンツさんも好きなときにお越しください。もちろん、ひっそりとね」
「しかし……!」
「言ったでしょう。このままでは、あなたの陰謀論により王宮内に反対勢力が生まれると。だからこその、『娘の誘拐』です。王家の重役、中核に対する犯罪組織のテロ行為――あなたはただの被害者だ」
「!」
「現宰相も娘もいなくなってしまった中、それでも王家を支えようと奮進するあなたに心打たれ、ついてくる者は多いはず。協力しようとするものも。特に、もとから懇意にしている第二王子――ピエロ様は友達が少ない。あなたが『喋り相手に』と、ときおり連れてくるマリアちゃんとの会話を密かに楽しみにしていると、王宮侍女(組員)が言っていましたよ」
「それ、は――」
「マリアちゃんの誘拐を受け、ピエロ様が奮起してくれればこれ以上はない。政権は、あなたとピエロ様で動かしてください。ちなみに現王と第一王子は――」
ちらり、とクリストフさんを見ると、視線でにこりと、「端的に言って邪魔です」との返事がかえってきた。
うん。僕もそう思う。
「
「ゲスツィアーノ二級魔術師? ギルド屈指の天才発明家の? いやしかし、彼には世界最強の剣聖――聖剣使いのギリダがついていて……」
そのギリダが。「お礼に」と流してくれるんだ。
「おかげで夢のような毎日だ」とね。
「義理堅く、正義感の強いギリダを懐柔するなど、可能なのか?」
「ええ、可能で――いや、可能でした。彼は僕らの味方です。彼は僕らの思った以上に、正義感と『愛』に燃えるお方でしたので。この国を良くしたいと願う僕らに、賛同してくれました。今は主であるゲスツィアーノが(ギリダという名の)病に伏せり、彼の面倒を見なくてはならないため表立った活動は控えているようですが、万一ギルドが彼に出動要請を出しても、彼は僕らを捕まえない。率先して力を貸してもらえるわけではありませんが、最強の剣聖が手を出してこない――それだけでもう、十分すぎるでしょう?」
「だが、その話が本当ならば、私を含め、この国の勢力はもはや大半があなた方の手に――?」
その言葉に、僕らはゆったりと頷く。
「――そう。だから、仲良くしましょう。新宰相さん」
◇
それから誘拐作戦はどうなったのかって?
天下のステラ組とアーティ組の頭が手を組んだんだ。
失敗するわけないだろう。
王宮の護衛もなんのその。
シアノの身軽さとクリストフさんの器用さがあれば、どんな兵もグズのノロマに見えてしまう。
僕はそれを陰ながらサポートし、
誘拐する際に彼女たちを怖がらせない、騒がせないのも、僕の得意な仕事と言えた。
おかげで作戦はまぁ成功。
ロレンツさんは手筈通り新宰相に就任し、徐々に手駒を増やしていっている。
僕は、久方ぶりの本土での仕事を終えて、街外れのアイスクリーム屋で買ったアイスを手に、シアノとベンチに腰かけていた。
シフォンケーキを食べたカフェでの一件以来、僕とシアノは、仕事終わりに一緒にスイーツを楽しむ仲だ。シアノも僕も、それを毎回楽しみにしている。
このあとは、クリストフさんにも飲みに誘われているし、近くにできた焼き菓子屋さんで、愛璃へのお土産も買わないと。
「成果は上々。今月の魔物駆除薬、伝染病の解毒薬も売れ行きは好調だし、ウチの者でも作れるように、ゲスツィアーノがレシピを書いてくれたんだ。『サルでもわかる!ワクチン接種!』だなんてものも用意してくれた。見てよ、これ」
そう言って一冊の本をシアノに手渡すと、シアノは「まったくわからないわ……」と目をぱちくりさせる。
「あの人の言う『サル』は、魔術大学高等課程をすっ飛ばして、研究課程を首席卒業するレベルの『サル』だからなぁ。ほんとイカレてる。でも、教会はコレを主要
「でも、どうせその従事者の半分も理解できないんでしょう? コレ」
「多分ね」
「詐欺じゃない!」
「まぁいいじゃないか。人の為になるんだし。ほんと、あの頭脳が二度と悪い意味で世に出ないように、これからもギリダにはきちんと監視――栄養管理してもらわないとなぁ。過労死されたら僕も困るし」
「完全に手綱握ってるわね……」
「まぁ、ギリダとは(決して性的な意味でなく)結構マブだよ。それなりに仲良くさせてもらってる」
「なにそれ妬いちゃ――ちがっ。凄いわね……」
「でも、薬とクリストフさんの伝手、【逃がし屋】に頼り切りもよくないから、なにか新しいシノギも見つけないと……」
「それよりエイスケ。なんか最近、喋り方がクリストフに似てきたんじゃない……?」
「ええ~。そんなことないですよぉ」
わざと声真似してみせると、シアノは楽しそうに「あはは!」と笑った。
銀糸の髪と長い睫毛が夕陽を反射して、きらきらと綺麗だ。
――ああ。
こんな顔を見れたなら、僕があの日、きみたちを逃がす為にがんばったのも無駄じゃなかったんだ……
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