第6話 マッチングアプリで、iさんの正体

 週末。俺は原宿にいた。


「最後の確認。お兄は、変に格好つけない、中二病発言は厳禁っ! それのせいで途中で帰られても、うちは知らないよ?」


 iさんと顔合わせするために、俺はiさんが指定した原宿駅前にいた。そして妹の苺愛も、俺の事が心配なようで、付いて来た。


「無理かもしれない。なぜなら、レッドアイズブルードラゴンが分かる人だぞ。話が弾んで、思い切りブラックアイズブルードラゴンの討伐に行こうと――」

「回転寿司に行くのは勝手だけど、とにかく中二病で会話したら、周りからも冷ややかな目で見られるからね?」

「苺愛。ブラックアイズブルードラゴンが、回転寿司でたくさん食えることが分かれば、俺と仲間――」


 そして苺愛は、顔を真っ赤にして、俺の膝を蹴ってから、俺と別れた。苺愛は、俺の尾行をしながら、原宿に売られているカラフルな綿あめとか、フライドポテトや唐揚げを食べているらしい。


「……そろそろか」


 約束の昼の11時。俺は、何も映っていないスマホで、スマホを見ているふりをして、誰かと待ち合わせているように見せた。原宿なんて、俺にとっては場違いすぎる。若い女性ばかりで、俺が悪目立ちしている気がしているので、これから女性と待ち合わせと言う感じを演じていた。


「……」


 平然を装っているつもりだが、俺はスマホを握る手汗が止まらない。さっき行って来たばかりだと言うのに、もうトイレに行きたくなってきた。そして更に腹も痛くなってきた。そもそも、大学の時も陽キャたちのグループには入らず、ひっそりとキャンパスライフを送っていた。どちらかと言うと、陽キャの俺が、いきなり27歳の女性と知り合いになって、デートをするなんて、ハードルが高すぎる。


「あ、今はスパイに見つかりそうな感じですか?」


 急用が出来たという事で、俺は帰ろうとした時、長い黒髪で、片目は眼帯、黒マスクをして、白と黒の2色しかないゴスロリのような衣装、最近では地雷系ファッションと言う女性が、俺に話しかけてきた。


「アイコン通りの、可愛い顔ですね。†あああああ†さん? それとも、†あああああ†ぎみ?」


 俺が運命を感じた、マッチングアプリで知り合った女性は、地雷系女子だった。


「あ、貴方がiさん?」

「まあ、ここじゃ騒がしいですから、どっかのお店に入りましょうよ~。どさくさ紛れに、†あああああ†君がスパイに、狙撃されそうですからね~」


 iさんは、そそくさと原宿駅から離れ、竹下通りに入って行く。週末なので、更に人が多い中、俺はiさんを見失わないように、しっかりと後ろについて歩いた。


「ここの中にある店に予約したんですよ~」


 竹下通りの店には、全く目もくれず、iさんは色んな店舗は入ったビルの中に入って行き、そしてiさんは回転寿司チェーン店の前に止まった。


「秋刀魚の寿司は無いけど、魚料理好きなんなら、ここで鱈腹食べましょうか~」


 そしてiさんは、見せの中に入り、そしてテーブル席に案内された。


「私は、本宮もとみやあいって言いますよ~。埼玉から毎日のように新宿に出てきて、オフィスビルでコールセンター業務をしていま~す」


 備え付けのおしぼりで手を拭きながら、愛さんは自ら名乗った。


「あ、愛さんはどっちを好みますか……?」

「中二キャラを無理しなくても、普通で良いよ~。私は別に、中二的に自己紹介しても良いけど、†あああああ†君のメンタルが持つならやっても良いですし、入ってすぐに、店員さんに怒られても良いなら、私は止めませんよ~」

「田中春秀です。毎日せっせと、生活費を稼ぐために働いています」


 そう言うと、愛さんはレーンに流れてきた、えんがわを取っていた。


「本名嫌うなら、タナハルはどうですか~?」

「そこはご自由に……」

「はい、タナハルの分ですよ~」


 愛さんは、俺にもえんがわを渡してきた。


「アイコンと違い過ぎて、驚いています? それとも引いていますか~?」


 愛さんは、確かにアイコンの画像とは全く違う。女優のような人だったのに、実際に会ってみたら、まさかの地雷系ファッションをする女性だった。


「いや。俺は、むしろ嬉しいです」

「ほうほう。それはどうしてですか~?」

「ありのままの姿、偽りの無い姿で、盛らずに初対面の俺と出会ってくれた事です」


 俺はそう言うと、愛さんは食べていた縁側を飲み込んだ後、少しだけ口元を緩ませていた。


「私、小さい時に呼んだ漫画の影響で、こう言ったファッションが好きなんですよ~。けど、私も27で、こう言った格好をするのは止めろって、周りから言われているんですよ~。いい歳してとか、メンヘラとか、痛々しいとか。このファッションでお金をかけるぐらいなら、婚活で使えって、口うるさい身内がいて~。あ、その人の名は、くそババアって言うんですけどね~」

「分かります。俺も、口うるさい会社の上司がいるので、愛さんの気持ちは、すっごく分かります」


 俺もそう言うと、愛さんはゆっくりと頷いていた。


「俺は、個人の趣味にとやかく言いません。一応、中二病は去年卒業しましたが、今でも黒色が多めのファッションがイケると思います」

「大学生まで中二病って、それは私も引きますね~」


 そして俺と愛さんは、可笑し気に笑い合った。

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マッチングアプリから始まる恋は、間違っていますか? 錦織一也 @kazuyank

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