後編

傭兵の笑い声と罵倒が未だに脳裏に焼き付いている。


「コイツの親は

お前にも責任があるんだぞ」


そうか、の娘か 


俺が殺したアイツの


だったら俺はこのイカれる生き方しかできなかったガキに何をしてやれる?


╫―現在―

―地下ドーム方向 海岸―


消息不明の桂が気がかりなのだろう。


彼はEBEが出現してからのメッセージはなかった。

だが、桂はこのガナクトに訪れていたことだけは周囲の人が証言していた。


地下ドームの出入口は海沿い付近に建てられている。

その海沿いに何人かがEBEの花粉の毒により倒れて見えた、おそらくここにいる全員が研究員だろう。


羽虫の音のような呟きが聞こえた。

「まさか…こんなことに…」


「おい、しっかりしろ」

1人の男はかろうじで命が残っている様子だった。


「…イー…バ、ズ…か…

これを…」


そう言って男は息を引き取った。

ナナシの手に手帳を握らせて 


「もう、行こう

その人死んじゃってるよ」


「…俺は…


    トイレに行ってくる」


「は?」


     「正念場だからな」


「うわぁ この上なくカッコよくねえ正念場になったわ」


どうしても、自分の中で渦巻く予感に従いナナシは人気ひとけのない場所を確認すると、

先ほど手に取った手帳を開いた。


╫―桂の助手 浜崎孝治ハマザキ コウジの記録―


 ┇


我々は勘違いをしていたらしい。

天災というのを甘く見ていたのだ。


朝里隕石が飛来した時から、海を汚していたのだ。

最早、各地にはメテオウィルスが蔓延しているだろう。


 ┇


桂博士によれば、元々EBEとは寄生生物であったがために、生物がEBEを体内に宿せばそれがEBEとなる仕組みであるらしい。 


 ┇


桂博士は、過去に実験で自身をEBEと接続した経験から一番の適任者だと名乗りをあげた。

桂博士によればガナクト島の地下ドームで、EBEの残留3%を摂取する実験を行うとのこと

とても常人の発想と思えないが、EBEを作るこの上ない好奇から私も協力を申し出た。


 ┇


私は桂博士の助手を請け負った。

しかしEBEが完成しても量は足りるのか?

時間もない、その逡巡から


私は桂博士に指示以上のEBEの残留15%を摂取させていた。


 ┇


彼は私の想像を絶するほどの変異を見せた。

なんてことだ…一体、私は何を作り上げてしまったんだ?

恐怖のあまり私は島を後にしていた

 ┇


一度島を出たが、ここまでしたのならば責任を取らねばならない



「ここを出ろ」戻ってきたナナシの第一声は唐突なものだった。


「お前はまずEBEの残骸をガナクト島から持ち出すのが最優先だ。」


「え?」彼女の言葉を被せるようにしてナナシは捲し立てる「先生と他EBERSは俺に任せろ」


彼はEBEの残骸を専用の保存バックを研究員たちが乗ってきていたプレジャーボートに乗せて言う。


この船に乗りEBEを回収した澪が最寄りの日本に行き、この先の桂とEBERSの救出はナナシが1人で行う。

それが彼の提案だった。


「なあ、さっきから…」


「澪、本当にマズイ状況なんだ

メテオウィルスはこの先、きっと世界中に広まってもおかしくない」


ナナシが一度離れてから様子がおかしいのを澪は感じていたが、状況が危険なことを執拗に訴えてくる。


「あーっもうっ  わかったよ!」


「戻ったら、仲間を連れて迎えにきてくれ」


そう言って澪の乗る船が出航したのをナナシは見届けた。


╫地下ドーム―


ナナシの1人の足音が地下ドーム内に響く。

図書館の非ではないくらいにEBEの侵食が進行していた。


コンクリートが壁には蒼白の花と草が生え繁っていた。


冷凍保存されているEBERSたちがいる部屋を見ると保存ケースまでビッシリと根が張っていた。


無意味には触れない、植物が内部まで侵食してたら生命維持装置まで壊しかねない。


最下層の手前の扉を開けると、部屋一面にツタを張り巡らせる奥にはイスに座る桂の姿が見えた。


さながら茨の王の様に、そこに鎮座しているが、もう桂の意思がそこにないことを物語っていた。


もう一つの解決方法が記載されていたことを思い返す。


EBERSEBE


もしも、自分が中に入ってEBEの暴走を止められるのならば…


そう思い、手を伸ばす。


EBEの操作権はもはや桂にはなく、この本能のままに暴れる宇宙外生物の寄生先と成り果てた姿には生気はなかった。


には桂を殺せばEBEは直近の人間に寄生する時に意識を保てば、ナナシが操作権を得ることができる。


そして、EBEの中で自分の意識だけが生き続けることとなる。


だが

こんな姿となった恩師を解放しなければならない。


「先生、

あの頃、俺は死ぬつもりでした


澪と来られた、あの日です


けど、アイツはそんな暇なんてくれやしないほどの問題児でした


ありがとうございました」


そうして、彼は完全にEBEと同化した。


╫プレジャーボート―


「仲間ってさあ…他に誰がいるんだよ」


数100㍍を航走するなか、澪はナナシの鬼の面越しからわかる声色の変化が気がかりで、こっそりとナナシのポケットからスッた手帳を取り出した。

確実にこれが関係してるはずだと。


数分し、手帳は手の中からこぼれ落ちる。

「ナナシ…?」


その中にはあらゆる情報が書かれていた。

そしてナナシの、あの言動を裏付けていた。


もう知るものか、世界のことなども、人類なども


澪は急ぎガナクト島に引き返す準備をする。


勝手に格好を付けてオサラバとはとんだ薄情者だ


そう思い最後のレバーを持つと手帳が操舵席から落ちた。


それを忌々しげに見ると、噴き上がった頭が停止した。



     【逃げてもいい

     お前が生きる限り、

   俺たちにはまだ希望がある】


手帳の一番最後の文字のないまっさらなページに書かれていた。


「ちくしょう…!

ちくしょう、何もできなかった…

何も…!」


澪という1人の少女は2つの意味で死んだ。


その日、ガナクト島に訪れたEBERSは全滅したと政府は結論付けた。


   「だが、アタシを逃がしたこと


       損はさせない…!」



╫2年後―


     あれから月日は流れた。 


     そして世界はかわった。


EBEの危険性からさらにガナクト島への封鎖を強められ、メテオウィルスは現在進行形で人々に侵食している。


╫―


廃工場で気絶させられているEBERSのテロ組織の人間たち。

しかし、全員死んではいなかった。


「生き残っていたのか政府のEBERS!」


「いいや?

ここにいるのは生きても死んでもないゾンビだ」


セーラー服に刀を携える少女がいた。



「俺らを殺しに来たか!」

組織の1人の青年が叫ぶ、しかし目の前の少女はヒラヒラと笑う。



「あー  ちがうちがう

もう悪いEBERSも殺さない


ただ


ガナクト島についてきてくれる人を探してる。」


少女の快進撃は始まったばかりだった。


     「仲間にならない?」

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人工生命体EBERS[イーバーズ] 本童マコト @0729momoya

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