中編
「アタシもわるいイーバーズ殺したい」
「は?」
ナナシは彼女が何を言ってるのか、理解できなかった。
後ろからドアが開けられた。
軍靴がこの部屋に入ってくる。
桂は「まだ話が終わってない!」と傭兵に言う。
傭兵たちはこのドームでおよそ20人は監視役をしている。
今、ここに来た意味は一瞬でどういうことか理解した。
「おい74番。
わざわざ桂博士に依頼させたのに何を躊躇っているんだ?
対EBERSとして、このEBERSの育成を行ってもらうってのが上の命令なんだよ」
四方を傭兵が囲む。
そういうことか…こんな子供一人に…
呆れから天を仰ぐ。
「本来のEBERSはこの地下ドームで冷凍保存されてるはずだ
外にいるのはテロを仕組む反逆者か、それを対処するヤツだけってわかってただろうが?」
傭兵たちは威圧を持って交互にしゃべる。
(たまにいる…俺たち相手に無駄に気合い入れてくるやつは…)
そして傭兵はある言葉を吐いた。
「コイツの親はお前の――からお前にも責任があるんだぞ」
桂はその傭兵に怒鳴ったのをナナシはよく覚えていた。
澪はただ表情のない顔ををこちらに向ける。
(ああ―くそったれ…!)
澪はナナシの右手を掴んで離れず、じっと見つめて真顔で宣言した。
「よろしくね、ナナシ」
(ああ…もう クソ…
子供は苦手だ)
╫―現在―
ナナシは、過去を思い返しため息を吐いた。
(その日からずいぶんと経ったが
ちゃんと俺は保護者でいられただろうか?)
その時わずかに聞こえた異音を聞き逃さなかった。
ガラスの割れる音が響き渡ると同時に、破片を撒き散らしながら食虫植物らしき形のEBEが突っ込んできたのを刀で受け流した。
『ギャギン』
「澪!」
少し離れたテレビのあった方向であろう澪を呼んでも返事をしない。
「あいつ どこへ行った…!?」
ここから一枚の壁を隔ててトラックのある場所に行けるはずだが、目の前の植物は刀に噛みつき離さない。
そうこうするうちに同種の個体が割れたガラス窓からスルリと入ってきた。
噛みつこうとするのを寸前で身を捻ってかわし
刀から離れない個体に膝蹴りを与えてるが、執拗に刀身を噛む力が増すだけだった。
その時、轟音と地響きのような衝撃が図書館を揺らす。
爆弾が爆発したことだけはわかった。
土煙の向こうからトラックが見えた。
駐車場から館内の壁1枚をトラックの荷台につめてあった爆弾を使用したらしい。
澪は車体を食虫植物に衝突させる勢いで発進させた。咄嗟にナナシが避けたことで直撃した。
「な に してんだオラァ!!」
『ゴシャア』
トラックに衝突された2体の食虫植物にはダメージが足りないのか、踏みとどまる。
『バンッ ババンッ』
澪は運転席からハンドガンを取り出し、食虫植物の弱点であろう喉奥や茎を正確に狙い撃つ。
その甲斐あってか、ついに刀を離し大きくのけぞった。
澪の危険運転にタイヤは悲鳴をあげ車体は火花を散らして、再び激突を食らわす。
『ガシャアン』
トラックの全開の窓に掴まってナナシは食虫植物から逃れた。
『ギュ ギャア!』
車体は図書館から抜け出し、食虫植物を横切っていき、後ろから追ってくる前歯を刀で斬り払った。
ナナシは、食虫植物には頭を上げてから口を開けて襲う習性があることを洞察した。
『ギャウアア』
来る。
突っ込んだ食虫植物の上顎の接合部を一閃した。
上部を失った頭部は地べたに落ち、動きが止まる。
トラックの荷台で息を吐き、一時の静寂な空気に安堵する。
静かになったことで根本的な疑問が湧いた。
「このEBEはどこから来たと思う?」
「そんなの いつものテロ野郎共なんじゃねえの?」
「逆だ EBEはメテオウィルスの特効薬だ
それなら、この状況は世界にとって都合が良すぎる」
「んん~? 意味わかんない」
通常ならば反逆したEBERSの仕業と見るのが妥当かもしれない。
しかし それで終わっていいのか?
ナナシは思案する。
今回のメテオウィルスの事件の後に、ちょうど良くEBEが出現したとのことだ。
各地のメテオウィルスとEBEの出現は何かしらの結び付きがあるはずだと、ナナシは予感をしていた。
「アタシ、こうして戦ってるのが一番幸せなんだよな
だからEBEがどこから来たかなんてどうだっていい」
「お前の場合は楽しみすぎだろう
少しは落ち着け」
「外で遊べる機会なんて今しかないから、今のうちにイカれるほど遊んでやるんだ。
ほら、勝手にこの島から出れば舌に埋め込まれた爆弾がボーンだもんな!」
外部との接触を許されたEBERSは全員、舌根にマイクロ爆弾が仕込まれている。
ナナシは自分同様、澪がそれを仕込まれているのに不快感があるが彼女によれば「ごはんの味変わんないし どうでもいい」とのこと。
ナナシという大の男がそれぐらいのことを気にするのか?と煽られた。
(バカ野郎
ガキが爆弾つけて平気なのが一番腹立つんだよ)
「あまりはしゃぐと、その制服も汚れるぞ
そしたら先生も悲しむだろ」
「あー…それは困る…
…
先生に会いたい…」
╫
「すまなかった澪、
これだけの道しか、君たちに与えられない私を…どうか」
桂は澪に跪き抱きしめた。
涙しながら言った「許さないでくれ」
その日は、澪は12歳で重火器の扱いはナナシを越え、正式に対EBERSを認められた日。
仕立て屋に頼んだ正式な学校の物ではないオリジナルのセーラー服を渡しにきた。
昔から学校の制服を着たいとワガママを言っていたことを忘れてなかったらしい。
そこで桂は澪に「服を大事にしてほしい」と約束をさせた。
澪という少女は破天荒で自分の身よりも好きな事を第一にする。
だから桂のこの言葉ほど澪の身を守るものはなかった。
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