車窓の星

 今日、県中部ブロックの高校演劇部が集まる大会が終わった。結果は金賞だが皆の顔は暗かった。当然だ、二年生の先輩が話し合いとは名ばかりの喧嘩を突然始めた末、二人とも黙って帰ってしまったのだから。僕以外の一年生も迎えに来た家族の車で帰ってしまうと言うので、独り列車で帰ろうと駅に向かった。すでに誰もいない、田舎の無人駅。その正面にあるロータリーとも言えないような広場にぽつねんと立ち尽くして、僕は夕陽を眺めていた。じりじりと照り付けていた日差しが、僕を置いて地平の果てへ逃げていく。背後の空を振り返れば、もう一番星が見えるほどに夜である。

――夏が終わる音がする。夏休みは始まったばかりなのに、アブラゼミが鳴いているのに、玉虫が電柱に止まってきれいなはずなのに。夏の終わりを、夢の終わりを、夕陽が告げている。

 そんなことを思いながら、僕は太陽が沈んでいくのをただ眺めていた。こんなに大変で、こんなに非情な結果を見せられたのに、それでも茜に染まる空は、紫紺に揺れる雲は美しいんだ。

「君は……一年生の浅川くん、だっけ?」

 その声に振り替えると、今日がほぼ初対面だった三年生の先輩がそこに立っていた。

「もう帰ったと思ってましたよ」

「私もだよ。今日は大変だったでしょう」

 先輩はそう言って、僕を促して駅舎に入った。モルタルの駅舎に入ると、蜘蛛の巣が幾重にも掛かった天井で蛍光灯の明かりがナイフの刃のように冷たく明滅する。

「君はどこまで?」

 そう尋ねる先輩に「大丈夫ですから」と切符を見せると、準備がいいねと言って先輩は笑った。来たときに買っておいた帰りの切符は、こんな気持ちで使うはずじゃなかったのに。

 駅のホームでベンチに座って、穴の開いた切符を握りしめながら、先輩と部活の未来について語り合ったのもつかの間、帰りの列車が来た。列車の中で無言のまま自分の手を見つめながら、うつつとの狭間を行き交う幻のような夢を見ていると、先輩はいつの間にか列車を降りていた。ターミナル駅に近づくにつれて乗客が多くなっていく列車の中が、ひどく寂しい空間に感じられて、僕は窓に視線をそらした。車窓からは夏の淡い夜空が見える。淡く輝く星々は、少し前に壊れてしまった大切なもののように、しかし壊れることなく、ただそこで輝いていた。

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夏影のパレヱド(短編集) 古井論理 @Robot10ShoHei

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