二人が映る鏡

 複合施設の立体駐車場は、入り口に近いところは車の出入りが多く、上階や入り口から離れたところはガラガラだ。私は上階の入り口から離れた場所に車を停めてた。エンジンを切り、スマホをいじっていた。隣に見慣れて車が一台止まった。運転席の男性がこちらをちらっと見て軽く手を上げた。私は車から降りロックをして隣の停まった車の助手席にさっと乗り込む。「お待たせ」と私の手を握りながら車を出す。これはいつもの事だった。彼の運転する車も慣れてきた。そう、私と彼は婚外恋愛…いわゆる不倫。時間を合わせて、二人の時間を楽しむのです。今日はお互いあまり時間が無いので、愛を確かめ合うことに。そう、ホテルへ。彼も私もラブホテルという特別な空間が大好きで、あの独特のスペースが時間を止めてくれる。きっと周りは時間が止まっているのではないかと思うぐらいのあの時間が好き。その中で二人が一つになる、お互いの生活の中で足りない部分を補い合っている、これが彼と私をつないでいる理由なのかもしれない。

 車の中では、お互い殆ど話をしない。何があるわけでは無いが、会話をしないのが暗黙の了解になっている。彼の運転は旦那のに比べたらとても丁寧だ。彼の車に乗っていることに緊張しているだけで、運転は信頼している。色々と考えているところで、車は街中を抜け、ちょっとした峠道へ。すると数件のラブホテルが見えてきた。一番手前にあるホテルに車が入っていく。[ホテル ]きれいめな感じではあるが、やはりラブホテルの入り口というのはなんとも言えない後ろめたさがある。彼は「空」のランプが付いている建物の脇にある駐車場に車を止める。エンジンを切ったところで私も彼も車を降りる。駐車場脇にあるドアを開け中に入る。ドアの鍵がガチャッと自動的に閉まる。玄関のところにある自動精算機が「画面の内容に従って、精算をお願いします」と無機質にリピートしている。彼は精算をし、私は部屋の中に入っていく。内装はログハウス風の作りでシンプルだった。私はソファーに腰をかける。精算を終えた彼が入ってきて、私の隣に座る。少し話をして、後はイケない関係になっていく。

 部屋の中を薄暗くし、ベッドの中で求め合った。ふと脇を向いたとき、そこには鏡があった。さっきは気がつかなかったが、ベッドに横になっていると二人が映るようになっている。その動きにまた興奮をしていくのである。私も彼もうっすら映っている。夢中になっていて、また鏡に目を向ける。二人が映っている。私は鏡を見ている。私が映っている。彼も鏡を見ている。お腹の辺りで動きを止めて鏡を見ている。違う、彼は今私に夢中になっている。薄暗いので再度じっと見てみる。

 お腹のところの顔は、彼じゃない!鏡に映ってるんじゃない、鏡から私たちを見ているのだ。私は悲鳴を上げてしまった。彼は驚いて「どうしたんだい?」と聞いてきた。「鏡、誰か見てる!」そう言って指を指した。指さした先(彼は鏡に気がついていなかった様子)を見て、彼もじっと見た。そして「うぉ!女が覗いている!」と言った。女?私は男の顔が見えていたが…二人して見ると、男の顔と女の顔がこっちを見てニヤァ~と笑っていた。慌てて部屋の灯りを明るくするも、その顔は消えなかった。とても気持ちが悪く、二人して急いで着替えて部屋を出て車に乗り込み、そこを後にした。車の中で「あれ、一体何だったんだろう…」と私が言うと、彼は押し黙ったままだった。

 複合施設の駐車場に戻り、私の車の隣に彼は車を停めた。私は無言のまま車を降り、自分の車に乗り込んだ。彼はそのまま発進していった。帰り道、私は追突事故を起こしてしまった。ルームミラーを覗いたときに、あの鏡から覗いていた男の顔が映って、驚いてアクセルを踏み込んで追突してしまった。彼も帰り道で、追突事故を起こしていたとのことだった。やはりルームミラーに女の顔が映り込んでいて、おどいいて 複合施設の立体駐車場は、入り口に近いところは車の出入りが多く、上階や入り口から離れたところはガラガラだ。私は上階の入り口から離れた場所に車を停めてた。エンジンを切り、スマホをいじっていた。隣に見慣れて車が一台止まった。運転席の男性がこちらをちらっと見て軽く手を上げた。私は車から降りロックをして隣の停まった車の助手席にさっと乗り込む。「お待たせ」と私の手を握りながら車を出す。これはいつもの事だった。彼の運転する車も慣れてきた。そう、私と彼は婚外恋愛…いわゆる不倫。時間を合わせて、二人の時間を楽しむのです。今日はお互いあまり時間が無いので、愛を確かめ合うことに。そう、ホテルへ。彼も私もラブホテルという特別な空間が大好きで、あの独特のスペースが時間を止めてくれる。きっと周りは時間が止まっているのではないかと思うぐらいのあの時間が好き。その中で二人が一つになる、お互いの生活の中で足りない部分を補い合っている、これが彼と私をつないでいる理由なのかもしれない。

 車の中では、お互い殆ど話をしない。何があるわけでは無いが、会話をしないのが暗黙の了解になっている。彼の運転は旦那のに比べたらとても丁寧だ。彼の車に乗っていることに緊張しているだけで、運転は信頼している。色々と考えているところで、車は街中を抜け、ちょっとした峠道へ。すると数件のラブホテルが見えてきた。一番手前にあるホテルに車が入っていく。[ホテル ]きれいめな感じではあるが、やはりラブホテルの入り口というのはなんとも言えない後ろめたさがある。彼は「空」のランプが付いている建物の脇にある駐車場に車を止める。エンジンを切ったところで私も彼も車を降りる。駐車場脇にあるドアを開け中に入る。ドアの鍵がガチャッと自動的に閉まる。玄関のところにある自動精算機が「画面の内容に従って、精算をお願いします」と無機質にリピートしている。彼は精算をし、私は部屋の中に入っていく。内装はログハウス風の作りでシンプルだった。私はソファーに腰をかける。精算を終えた彼が入ってきて、私の隣に座る。少し話をして、後はイケない関係になっていく。

 部屋の中を薄暗くし、ベッドの中で求め合った。ふと脇を向いたとき、そこには鏡があった。さっきは気がつかなかったが、ベッドに横になっていると二人が映るようになっている。その動きにまた興奮をしていくのである。私も彼もうっすら映っている。夢中になっていて、また鏡に目を向ける。二人が映っている。私は鏡を見ている。私が映っている。彼も鏡を見ている。お腹の辺りで動きを止めて鏡を見ている。違う、彼は今私に夢中になっている。薄暗いので再度じっと見てみる。

 お腹のところの顔は、彼じゃない!鏡に映ってるんじゃない、鏡から私たちを見ているのだ。私は悲鳴を上げてしまった。彼は驚いて「どうしたんだい?」と聞いてきた。「鏡、誰か見てる!」そう言って指を指した。指さした先(彼は鏡に気がついていなかった様子)を見て、彼もじっと見た。そして「うぉ!女が覗いている!」と言った。女?私は男の顔が見えていたが…二人して見ると、男の顔と女の顔がこっちを見てニヤァ~と笑っていた。慌てて部屋の灯りを明るくするも、その顔は消えなかった。とても気持ちが悪く、二人して急いで着替えて部屋を出て車に乗り込み、そこを後にした。車の中で「あれ、一体何だったんだろう…」と私が言うと、彼は押し黙ったままだった。

 複合施設の駐車場に戻り、私の車の隣に彼は車を停めた。私は無言のまま車を降り、自分の車に乗り込んだ。彼はそのまま発進していった。帰り道、私は追突事故を起こしてしまった。ルームミラーを覗いたときに、あの鏡から覗いていた男の顔が映って、驚いてアクセルを踏み込んで追突してしまった。彼も帰り道で、追突事故を起こしていたとのことだった。やはりルームミラーに女の顔が映り込んでいて、驚いて追突をしたとのこと…。

 それ以来、彼との関係は自然に消滅しました。私は色々と怖くなり、車の運転をやめました。ルームミラーにあの顔がいつ出てくるかと思うと怖くて…。


一体、あの男女の顔は何だったのか、未だにそれは分からないままです。

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