パンケーキ

 休みの日は、色々なスイーツを食べ歩くのが最近の楽しみ。先日ネットの記事で絶品パンケーキを見つけて、その店に行くことにした。最寄りの駅からバスに乗り、元梨乃バス停からは徒歩と、かなり交通の便は悪いところだった(車なら良いのかもしれないけど)。

 周囲は空き地やポツポツ個人宅がある中で、このパンケーキ店だけが2階建ての建物だった。見た目からもかなり前に立てられた物だというのは分かる。蔦が絡まり雰囲気はある感じ。1階部分はピロティになっていて、車を停めるスペースになっていた。平日ということもあり、客の車は一台も停まっていなかった。後ろ側の方に従業員の車と思われるのが1台止まっている。建物の端の方に扉があり「OPEN」の看板が下がっていた。扉もまた古い感じの鉄製の扉で、引くのに少し力が必要だった。階段は昭和の香りたっぷりの濃いブルー。冷たい感じしかしなかった。階段を上りきるとアルミサッシのドアで、押して入った。店員が「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」と言ってくれた。他に客はいなかった。一人で来てるんだ、窓際に座ろう。そう思い、窓際のペア席へ座る。

 窓からは外の空き地などが見えるだけ。特に風景が良いと良いというわけではないが、のんびりするには良いだろう。テーブルには既にメニューが置いてあり「一番人気のパンケーキ」と書いてあった。これだろう。店員が来て「いらっしゃいませ。ご注文お決まりですか」というので「あっ、このパンケーキください」と伝えた。「焼き上がりに20分ぐらいかかりますがよろしいですか?」と尋ねてくる。もちろんそんな時間は構わない。「いいですよ。お願いします」と言い、注文を繰り返し言い、厨房の方へと戻っていった。出来上がるまでは暇だ。店の中は写真で撮りたいほどのおしゃれ感はない。窓の外も感動する風景ではない。写真を撮る楽しさは何もない。店内もBGMは流れていないし、決しておしゃれ感はない。パンケーキが来るまではスマホでもいじっているか。ニュースを見たり、SNSを見たりしていた。何も変わったことは起こらなく、暇を持て余しているだけだった。

 ふと窓の外を見る。下側を覗くと、従業員の車の屋根が見えてた。その横で男性がこちらを見上げてみていた。あぁ、ここの従業員かな。休憩でもしてるんだろう。そう思って、視線をまたスマホの画面に移した。そして視界にさっきまでなかった影があったので窓を見てみる。後ろが鏡のようにうっすら映っているが、そこに男性の姿が。あぁ、店員さんが立っているのがこっちに映っているのか。まあ、私以外客もいないし、暇なんだろうなぁ。

 ある程度時間が経ったが、出てくる気配はない。パンケーキの焼いている匂いもしてこない。窓に映っている男性の姿がこちらに近づいていた。「あっ、そろそろ出来たのかな?」窓に映る影は、私の後ろに立った。でも何も言わない。不思議に思い振り返るとそこには誰も立っていなかった。えっ?っと思い窓を見るとやはり男が立っていて、手を私の方に伸ばしていた。もう一度振り返っても誰もいない。私はパニックになって、椅子から転げ落ちた。それと同時に、入り口のドアが開いた。それに驚いた私はもう泣きそうだった。入り口にいた初老の男性。


 「あんた!こんなとこで何してるんだ?」


 言ってることがよく分からなかった。色んな驚きで喋る事が出来ない。初老の男性は私の元に駆け寄ってきて「ダメだ、一緒に出るぞ」と無理矢理私を立たせ、私をぐいぐい引っ張っていき階段を下ろされ外へ出た。

 外に出た私は、完全に腰が抜けてしまっていた。初老の男性も息が乱れていた。私の顔を見ながら「あんな、なんでここに入ってたんだ?」と尋ねてきた。「なんでって、パンケーキを食べに来たんですよ。そしたら、訳わかんない状態になって…」すると初老の男性もその場に座り込んで話し出した。

 「あのなぁ、ホットケーキだかなんだかしらないが、ここにはもうその店はないんだよ。あんたで3人目だよ」一体何を言っているのか理解出来なかった。「だって、ここ人気の…」と言いかけると、「2年ぐらい前まではね。この店、女の子が一人で店やってたんだけど、強盗だかが侵入して、暴行されて殺されちゃったんだよ。前々からこの建物は何かあるって、地元じゃ有名なところで、買い手が付かないところだったんだよ。たまたま通りかかったら、窓際に人影があったから確認しに行ったらあんたがいたんだよ」「私、パンケーキも頼んだし、店員さんもいたし、後ろに男の人が立ってて、でも窓にしか映ってなくて…」ただ出来事を言うだけしかできなかった。

 オーダーを来た女性は、今もこの場所で自慢のパンケーキを食べに来てくれるのを待っているのか。しかし、あの影は一体何だったのか…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る