階段の上で

待つ女

 待ってます、あなたを。

 ここで、ずっと……。


 つらかったよね、私は分かっているよ。

 知っているよ。


 大丈夫、私は分かってる。


 私も同じだったから。


 あなたの温もりを頂戴。

 私はあなたに、甘美な安らぎを上げるから。


 痛かったよね、何より心が。


 みんなわかってくれないよね。

 がんばっているのに。

 歯を食いしばって、それでもなお。

 でも、思い通りにいかない。

 そう。

 世界はあなたのためにはない。


 世界に置いてけぼりにされている。

 がんばっても、がんばっても。


 孤独ひとり


 ううん、違う。


 私がいるわ。


 ここに。

 あなたのすぐそばに。

 その階段を上ってきてくれれば。


 私は待っています。

 いつまでも。

 いつでも。


 ああ、来て。

 今すぐ、来て。

 あなたを慰めてあげる。

 あなたを受け止めてあげる。


 甘美な、とろけるような、恍惚の、世界へ。


 苦しい現実からなんて、逃げ出しましょう。

 私も、逃げたから。

 あなたも逃げたっていい。


 ……


 ああ、来てくれた!


 あなたは来てくれた!!


 来て。


 私のもとに。


 私のなかに。


 あなたの温もりを頂戴。


 一歩。一歩。

 一段。一段。


 そう、そうよ、迷わないで。

 止まらないで。

 振り返らないで!


 私のところにだけくればいい。

 戻らなくていい。

 私の世界へ、いらっしゃい。


 もうどこにもいかないで。


 さあ、私と一緒に夢のなかへ。


 ともに甘美な、甘美な……。


 こんな、そんな、痛くて辛くて重くて苦しくて。


 光のない世界なら、いっそもっと。


 楽に、なりましょう。


 さあ、私のもとに飛び込んできて!


 ……


 あなたは気づいていなかった。

 あなたを見ている人がいることに。

 あなたを待っている人がいることを。


 あなたのがんばりも、つらさも、痛みも、知っている人がいること。

 そばにいる人。

 支えてくれる人。

 それが何より大切なことかを。


 あなたを光にいざなってくれる、私にはない暖かさを持つ人。


 帰りなさい。

 戻りなさい。

 いきなさい。


 私はもう、あなたをつなぎ止められない。

 私では受け止められなかった。

 私じゃなかった。


 ああ、あなたは降りていく。


 あなたの温もりを得ることはできなかった。


 いいの。


 私は待つだけ。


 あなたが来るのを、待っています。


 ……



 私はまた、待っています、あなたを。

 あなただけを。

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