「待ち合わせの階段」逢いたい気持ち
帆尊歩
第1話 逢いたい気持ち
「奥さんと娘に逢いたい」男は、驚きと、あきれ顔と、同情の表情を合わせて三で割ったような顔をした。
この男は言うところの先輩で、ここ最近の分からないことを大体聞いている男だ。
「やめとけ。やめとけ。そんなことしたって何もかわらないし。逆に傷口を広げるような物だよ」
「傷口って」
「未練ってこと。ここはすっぱり断ち切らないと、いつまでもうだうだ考えていると。辛いだけだよ」
「いやでも、やっぱり」
「もう新しい生活って、考えを切り替えないと。(待ち合わせの階段)に行ったからって、逢えるとはかぎらないし、変に期待して行くと、逢えなかったときのダメージは大きいよ。いや実際いるよ。足繁く通っているやつが。でも逢えないことの方が多いし、逢ったら、逢ったで、未練が残り、また(待ち合わせの階段)に行くんだよ、初め何度か逢えていたのに、急に逢えないと初めから逢えなかったのの十倍辛いよ」
先輩の言うことは十分すぎるほど分かっている。
でも妻の美智と幼い娘の砂羽に逢いたい。
会えなくなくなった家族や恋人に会うことが出来るという場所がある。
その名もズバリ(待ち合わせの階段だ)ここに行くと、いつでも結構な人数の人が愛しい人に会いたいと、階段に座っている。
ここは磁場だか、エネルギー高のゆがみがあり。現実世界と霊界をつなぐことが出来るらしい。
僕は美智の事を心から愛していたし、美智との間の砂羽のことは可愛くて仕方がなかった。良く目の中に入れても痛くないと言う表現をするが。
僕にとって砂羽は目の中に入れて、ゴロゴロされても痛くない。
三人での暮らしは幸せそのものだった。
そうあの日までは。
「やっぱり、(待ち合わせの階段)に行きます。たとえ未練が残ろうと、十倍辛くなろうと、僕は二人に会いたい」
「どうなっても知らないぞ」
「かまいません」
僕は先輩の心配と、助言をよそに(待ち合わせの階段)に向かった。
(待ち合わせの階段)はなんて事のない公園の中の大きな階段だ。
入り口から上の広場に行くための大階段で、噂を聞きつけてかかなり大勢の人が思い思いに座って、逢いたい人を待っている。
僕は、かなりの人数の人を順番に見て行く、かなりの時間が経って、半分くらいの人を確認したところで、並んで座っている、美智と砂羽を見つけた。
いるじゃ無いか。
「美智、砂羽」僕は駆け寄る。
でも二人には僕の声は聞こえないらしい。
そして美智を抱きしめようとすると、僕は美智の体を突き抜けてしまった。
そして今度は砂羽を抱き上げようとして、また砂羽が手からすりぬける。
「美智。砂羽」僕は力の限り二人の名前を呼ぶ。
二人には僕の声が聞こえない。
だんだん僕の声は大きくなり、叫び声になり、そしてその声は嗚咽へと変わる。
でも二人に僕の叫びは聞こえない。
「ねえ、ママ。パパは本当にここに来るの?」
「来るよ、絶対に来る。パパは、ママと砂羽に絶対に逢いたいはずだから。絶対に来る。
「美智、僕はここにいるよ。砂羽、パパはここにいるんだよ。ここに来ているんだ。二人に逢いにきたんだ、どうして聞こえないんだ」
「でもパパはお空にいるんだよね。なんでパパはママと砂羽をおいてお空にいっちゃったの」
「パパはね。ママと砂羽を守ってくれたんだよ。パパがお空に行ってしまったせいで、砂羽もママも。こうやって元気でいられるんだよ」
「パパ、砂羽のせいで、お空に行っちゃったの」砂羽が急に泣き出す。
「違うよ砂羽。違うよ。砂羽泣かないで、泣かないで砂羽」美智お前の方が砂羽より泣いているぞ、でもそれより僕はもっと泣いてしまった。
でも僕の声は二人には届かない。
三人で泣いているのに、その姿は美智と砂羽には見えないし、聞こえない。
どれくらい時間が経っただろう。美智も砂羽も僕も、なんとなく落ち着き、僕も階段に座っていた。
僕と美智の間に小さい砂羽が座っている。
でも美智と砂羽は、二人で階段に座っているとしかおもわない。
前のように三人で並んで座っているのに。
僕だけがそこにいないように、美智も砂羽も思っている。
「砂羽。そろそろ帰ろうか」
「もう帰るの、まだパパ来てないよ」
「パパ、今日はご用があるんだよ。また来よう」
「ここにいるよ」その叫びは、美智と砂羽をすり抜けて行ってしまう。
「さあ。砂羽、帰ろう」と美智が行ったとき砂羽が座っている僕の方を見た。
見えるのか?
と僕が思ったとき。
美智が言う
「どうしたの砂羽」
「なんかね、今、パパが隣に座っていたみたいなの」
「誰もいないよ砂羽」
いるよここに。僕はここにいる。
「そうだねママ、パパ、今日はご用があるんだもんね」
「そうだよ砂羽、また来よう。」
「うん」そう言って、美智と砂羽は階段を後にした。
僕はそのまま座って、帰って行く二人の後ろ姿を見つめていた。
「だからやめとけって言ったんだ。精神衛生上良くないよ」
先輩は、心配とも同情とも付かない顔で僕に言った。
「待ち合わせの階段」逢いたい気持ち 帆尊歩 @hosonayumu
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