第2話

 蒼生くんと出会った日から、早くも三年。今でも交流は続いている。


 この三年の間にキャストの変更があったりだとか、悪役の人気が伸びたりだとか、演出が豪華になったりだとか、いろんな変化はあった。だけど、花ステのコンセプトである『なんでもあり!』は当初から変わらずにいて、あたしも蒼生くんもそんなところに未だ惚れっぱなしだ。


 蒼生くんと出会ってからは公演後の飲み会も込みで、あたしの楽しみになっている。

 出会って少ししてから、蒼生くんは成人を迎えた。お酒はあまり強くないみたいで、一度道端で吐いてから、ほとんど飲まなくなった。


 ここ二年くらいは公演後でなくとも、飲みに行ったり遊びに行ったりしている。蒼生くんもあたしも特定の相手がおらず、時間を持て余しているからだ。


「ねえ、今さらなんだけど。蒼生くんって花ステに出会ったきっかけってなんだった?」


 蒼生くんはジンジャーエールをこくんと飲みこむ。出会って三年も経つのに、そんな話をしていなかったことに気づいて、なにげなくたずねた。


「マジで今さら。でも、そうねえ。俺が好きだったバンドが解散して、そのメンバーが花ステの楽曲を担当しててさ」

「ああ、あのヴィジュアル系バンドみたいな。えーと……」

「うん、リベリオンってバンド。そのメンバーのリオさん。その人のこと大好きで、舞台の内容よりもその人の仕事を追いかけたくて、花ステの初演を見に行ったんだ。それで、落ちた」


 蒼生くんの推しであるハヤテくんは、メンバーカラーが青で、物静かながら舞台に対して情熱を秘めている──という設定のキャラクターだ。


 初演から同じキャストが演じている。初演のときはキャストの中では最年少で、歌も演技もダンスも拙く、SNSでは顔だけと揶揄されていた(あたしも正直そう思っていた)。


 だけど彼はだんだんと実力をつけ、今や花ステの顔となっている。あたしの推しであるリオンくんと歌うまペアとして、コンビ的な人気も出ている。


「最初からハヤテくん推しだったの?」

「うん。顔だけキャストとか言われてたけど、声の感じは最初からすごくよかったし、なんだろう、光るものがある気がしたんだ。すっごいがむしゃらって感じが伝わってきて、勇気もらえた。あーでも、亜由(あゆ)さんの影響でリオンさんも最近いいなって思い始めてる」


 蒼生くんは普段クールだけども、花ステの話になると饒舌になる。ときどき厳しい意見も言うけれど、花ステへの情熱はきっと誰にも負けない。


「ああ、今日の公演もよかったな。まさか宇宙にまで飛び出すとは……って感じだったけど」


 そう。今回の花ステは宇宙が舞台だった。宇宙で悪事を働く敵を倒すため、彼らは地球を飛び出し戦いつつ宇宙の芸能文化を取り入れ、花道男子としてパワーアップするという、相変わらず意味がわからない設定ではあるものの、かなり挑戦的な内容だったので満足できた。


「ラストのリオンさんの歌唱パートはやばかったなあ」

「わかる。蒼生くん、目がうるうるしてたよね」

「あれは泣くだろ。亜由さんこそ……あ、目の下になんかついてる」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る