出会いは雑踏の中で

阿滝三四郎

出会いは雑踏の中で

それは『初夜』から2年前の出来事であった

そして『真珠婚式と門出』から32年前の出来事でもある




今でこそ、一人一人が、携帯電話やスマートフォンを持つ時代となった

でも、その頃と言えば、各家庭に一台だけある、固定電話に電話を掛けることが、男としてドキドキする時間の始まりだった

電話を取ってくれるのが、誰なのか、緊張する瞬間なのだ

父親らしき男性が電話に出たときは、電話を切ってしまうこともあった

耳に当てた受話器から流れてくる、ベルの音と心臓がドクドクと奏でる音が同時に、大きく聞こえる時間だった






出会いは、親友の紹介だった

今で言う合コンではなく

お前に、お似合いの女の子がいるけど会ってみるか、という話だった





親友の恋人の友達だという、女の子を紹介してくれた





「お前から電話しろ」という親友の一言と、名前と電話番号が書かれたメモを一枚、渡された






ドキドキしながら

夜は何時頃に電話したらいいのだろうか。どうやって本人に繋いでもらえればいいのだろうか。

どうやって、何を話したらいいのか。頭の中パニックになるほど、ぐるぐる回転していた




やっと決意をしたとき

「風呂入れ」の一言に刺されて、我に戻り

「明日にしよ」と、頭の中で、つぶやいた


どっと疲れを感じ、お風呂に入りにいった







次の日

あらためて決意をして、受話器を取ったのはいいけど

時間はもう、夜の10時近くになっていた


受話器を取った手は汗をかき、もう片方の手は、電話番号を押すことができない

耳からは、「ツーーーーー」という電子音が聞こえているはずだったが

緊張していたのだろう、何も聞こえてこなかった

そして昨日と同じく「明日にしよ」とおもい、受話器を置いた




そのついでに、親友に電話をかけてみた




親友からは、まだ電話していないのかと、ドヤされ

恋人からの伝言として

その友達も「電話来るのかな」と心配していたぞ。という話だった


お前には、もったいないくらい、いい子だと言われ

「必ずGETしろよ」とドヤされて、電話は切られた







次の日

午後8時ごろ、受話器を耳に当てて、意を決して、電話番号を押した



「もしもし」

「あっ、すみません。あの~」

「はい」

「あの~、え~と」


「はい?いたずらですか?」

「いや、いたずらではないです」

「では、なんですか?」

「えっとですね」

「はい」



「あの~、美嘉さん」

「はい?誰ですって」

「美嘉さん、いらっしゃいますか?」

「美嘉ですか?ちょっと待っててください」


電話には、母親が、出てくれた





「はい。電話変わりました」

「美嘉さんですか?」

「そうですが」





その後は、何をどうしてこうなったのか

なぜ、今日ここにいるのか

あの時の電話の内容は、まだら模様のように覚えていたり覚えていなかったり

ただ、待ち合わせ場所だけは、何度も確認したのを覚えている







待ち合わせ場所は「新宿駅東口駅前広場に繋がる階段の上」


スタジオアルタでは、平日のお昼に国民的バラエティー番組を生放送でやっていることもあって

スタジオアルタ前は、待ち合わせの場所としても有名な所、混雑もしているだろうということで

道路を挟んだ場所にある、東口駅前広場につながる階段の上で、待ち合わせをすることにした





日曜日の昼下がり、続々と階段を上り下りする人々に、あっけにとられ、初めて会う、女の子を探しきれるかどうか、不安だった


お互いにどのような服装でくるかどうかを、話したつもりだったけど

服に疎い僕としては、半分も理解していなかった

その反面、僕の服装といえば、ジーパンに、ジャケット姿

これもまた、多くの人が同じような格好をしている




不安そうにキョロキョロしていると、声をかけられた




「あの~、美嘉ですけれども」

「あっ、あ、どうもどうも。こんにちは」




「はじめまして」


「今日は、よろしくお願いいたします」

と、口を滑らしたら


「変なの」

と、言って、彼女は笑った



その笑顔は、ものすごく純粋で綺麗な笑顔だった






ちなみに、なぜ、この雑踏のなか

女の子が、僕を探しきれたかというと

事前に、親友と一緒に写っている写真を

見せられていたということだった

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出会いは雑踏の中で 阿滝三四郎 @sanshiro5200

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