俺たちの階段

紫陽花の花びら

第1話

 お前はどうして俺を置いて行った?

「直也!下りてきなさい!危ないんだから」

「判ってます!もう降りるから」

母親は、いまだに心配いてるんだよ。

お前を追って、飛ぶんじゃないかってさ。

 流石にそりゃしないでしょう。

お前が逝って暫くは、無意識に登って来てたからな。

もの干し場を乗り越えて、屋根に寝そべる俺を見るたび、心臓止まるかと思ったとさ。

お袋、本当ごめんな。


然し話したいよ。

声を聞きたい! 寂しいんだよ。

やっぱりお前に逢いたい。

逢いたい!

「直也!」

怒鳴り声と共に、階段を登ってくる母親の足音が腹に響いてくる。

あの人痩せねえよ、何してもぷくぷく膨らんでいくんだよ。

見せてやりてぇアハハ。


「いい加減にしてよ!危ないし……しんぱ……馬鹿なんだから、足滑らせて落ちたらどうする?」

「はいはい……」

じゃ、またな。

俺は、母親に引っ張られるように一階に降りた。


 俺は気付くと考えてる。

俊は、今頃なにしてるのかな? 雲の間をフワフワ舞っているのか? それとも虹で遊んでいるのか? 俺なんか、つまらない大学生活送ってるよ。

 良い大学入って、良い会社に就職してって~いつの話しだよ。

コロナなんて訳わからん病気が流行り……なんか世の中、様子が変わっていくよ。

 お前は良いよな! こんなウイルスに戦々恐々としなくてもいいんだから。

まあそうは言っても、俺は、最低限の予防しかしてないよ。

そうそうマスクは、もはや常識だぞ! お前は嫌いだったな。

ひ弱な癖に、口だけしか覆ってなかったのを思い出したよ。

それで、インフルエンザにかかって、馬鹿丸出しだっうの。

 ところで、夜はやっぱり寝るのか? いつになったら化けて出てくるの? 俺は待ってるのに。

 もう三年経つよ。

あの日も星が綺麗だった。

話したいことがあるなんて言うから、だったらバイト先に迎え来い!なんて言わなきゃ、お前はあんな事故に巻き込まれないですんだのに。

ごめんな……本当にごめんな。

結局何の話かは判らずじまい。

おい! 話しに来いよ! 俺待ってんだぞ!俊!

そうだ……言い損ねたけど、怒るなよ。お前の好きだったあの子、

ほら七山さつき、結婚すんるんだと……相手? 知らない奴だ。

早くない? 別に良いけど。 

俺は振られっぱなしだよ。

理由? 判んない? イケメンの俺が夜な夜な屋根の上で、お前とグダグダ話しているんだから、女の子は興醒めだろう。

「直! いい加減にしろ! 馬鹿」

煩い兄貴が来た。

「入れ!」

「おっす」  

すげぇ剣幕! また明日な。

「兄貴、覚えている? 小さい時親父が良く話してた童話」

「はあ? あれだろう? 空からか階段が降りてきて、登ると大好きな人と逢える。お迎えの時は独りで登って、まだその時ではないと、大好きな人が降りてくるんだよって。そして一晩中遊んで帰って行く。あっ!最初に約束するんだよ。明日からは上ばかり見ないで、前を見て歩き出すことだっけ? 良く判らん話だよ」

「そう!それ……俺はさ、俊に逢いたくて毎晩待っているのに、あいつ来ないんだよ!」


 その夜俺は夢を見た。


なんて綺麗な所なんだ。

ほうき星がそこここに落ちていく。

「直也! 来てくれたの?」

俊は、思いっ切り抱きついてきた。

「おいおい~俺らそうだった?」

「ハアア、近い物はあったよ。これってブロマンスだろ?」

俺は俊の顔をまじまじと見た。

「そうだよなぁ、何でも一緒だったしな。でも、お互い好きな子はいたんだよなぁ」

「俺が話したかった事は、これこれブロマンス。初めで聞いた言葉でさ……意味を聞いたら、まさに俺たちだよって思って。早く教えてやりたくて、そしたら~あら~気付いたらここにいた。アハハ」

笑うな、辛ぇよ。

俺は離れたくないんだ。

「なぁ……一晩中傍にいられるのか? 俺たち」 

「勿論。ただ約束して欲しいことある。明日からは俺を待つ事はしない。直也の人生を生きて見せて欲しい。そして、俺が迎えに行く時がきたら、この待ち合わせの階段を降ろすからね。 おじさんの話しとは少し違うんだよ。この階段の途中で俺は待ってるから、登っておいで」

「俺にも見えるの?」

「勿論!俺の声も聞こえるよ」

俊が待っていてくれるんだ。

俺は心底ほっとした。

 

 俺たちはあの頃のように、駄弁りに駄弁り久々に大笑いした。

楽しかった時は、無情にも終わりを告げる。

白々と夜が明けて行く。

 目を覚ますと俺の部屋だ。

俊!俊? 判ってる約束した。

お前が、待ち合わせの階段を降ろし、迎えに来るまではがむしゃらに生きるって。

俺とお前の人生を足して二でわるんだ。

もう湿気た面なんてしてはいられない! 次お前と逢ったとき、山の程土産話をしてやるからな。

そうだよ! 好奇心の塊となり生ききってやるぞ! みてろよ俊! 嫉妬で早く迎えにきたなんて言わせないぞ。

ああ~なんだ!この気持ち!

堪んねぇ。

「直也? 最近屋根に行かないね」

「当たり前よ~そんな暇無し」

「あら、それはそれは……」

家族はなんたか嬉しいそうだよ。


俊! たまには顔出せよ!



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