第三話 【神様はね、本当にいるのよ?】

 「神様はね、本当にいるのよ?」



 ──私たちが生まれた理由は、神様が私たちを創造したからと伝えられた。


 何のために、この過酷な森しんえんのもりの中に?


 ──それは、神様が与え賜うた試練の一つだから



 そう教わった。



 この森の中で生まれた私たちは、森から出る事は叶わない。

 何故なら、この森から生まれ出る"〇$□%"が、私たちの糧であり命の源でもあるからだ。


 その糧を得られないと、私たちは光の粒となって消えてしまう。


 そんな私たちの存在は小さい。

 小さいからこそ、"〇$□%"の量は少なくて済んでいる。


 けれど、小さいというのは弱いという事でもある。


 小さくて弱い私たちは、魔蟲や魔獣たちからも隠れる様に、この深い森の片隅でひっそりと暮らすしかなかった。


 けれど、あの日、私たちが隠れ住んでいた場所に大きな存在が訪れた。

 訪れたのは、魔蟲が闊歩する場所にすらめったに現れない"狂獣"と呼ばれる存在。



 狂獣は"〇$□%"を喰らう存在であると教わった。

 それも際限なく。欲望のままに。



 だが、狂獣は狂獣は深い森に来る事などなかった。

 大きな魔蟲から避けるように、本能なのか勘なのか……


 けれど、そのはずなのに、地を這うその狂獣は、深淵の片隅に隠れる様に存在していた私たちを襲ってきた。


 いつもなら、私たちが深い森から出た時でさえ、私たちの事なんて一切見向きもせず歯牙にもかけてこない、そんな取るに足らない存在として扱われたのに、その日だけは、まるで飢えで狂ったかの様に襲い掛かって来た。


 当然、住処の仲間たちは逃げるしかなかった、追ってこない思った深淵の中心へと……

 しかし、狂獣は普段は侵入することもない深淵の中にまで追ってきた。


 それは、深淵を抜けきるその時まで──


 その時になると、仲間たちは散り散りに逃げ去っていたため、追われているのは、自分たちしかいない恰好になっていた。


 少ない犠牲で、みんなが生き残る、今までもそうやっていたこと

 その順番がワタシたちの番になっただけのこと



 けれど、ワタシの手に捕まっている、ワタシよりも小さな存在だけは……




────────


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「どこまで、にげれば……いいの……?」

「わかんない……わかんないけど……逃げなきゃ……」

「おとーさんと……おかーさんは……?」

「わかんない……わかんないって……」

「おとーさん……おかーさん……」



 襲われた隠れ住んでいた皆は、当初は深淵部へと逃げ込んだが、それでも執拗においかけてきた狂獣に驚き、散り散りに逃げだしてしまった。


 ワタシも、小さな妹を連れ出しては逃げ出した。


 小さな妹も、訳も分からないけれども、危険であるという認識を持ったのか、わたしの手をしっかり握り返して一緒に逃げ出した。


 ワタシたちよりも大きな狂獣からすれば、食糧の一つでしかないのかもしれない。


 そんな相手から、今まで身を隠すように生きていたのに、そして、見つけられても、一切こちらに興味を示す事なんてなかったのに……いつものように、気づかないか、無視してくれるものだと思っていた。



(けど、なんで?なんで?なんで?)



 疑問がたくさん生まれてくる、けれど、今は見つかれば其れまでで……

 だから、逃げないと、逃げ延びないと、せめて妹だけでも助けないと……


 そう強く思っては、森の中を逃げ惑った。


 けれど、小さなワタシたちの飛翔能力では、逃げる速度も限られる。

 隠れては逃げて、隠れては逃げてをしていたが、追いかけてきた狂獣に追いつかれる。



 それでも、ワタシたちは逃げるしかなかった。

 だけど、小さな妹を連れて逃げるには限度があった。



 だから、ワタシは決めた──



 妹を、大きな大木の切れ目の中に隠し、


「お、おねえちゃん?」

「いい?息を潜めて、ジーっとしていたら大丈夫だからね?」

「いや、いかないで!いかないで!!」

「大丈夫よ。あんな狂獣なんて、お姉ちゃんが撒いてくるから……ね?」

「ちがう、ちがうの……」

「それに、かくれんぼは大得意だったでしょ?」

「そうだけど、ちがうの……」



 妹は、何かを察してはいるみたいだけど、それを口にさせちゃいけない。

 ワタシの決意が揺らいでしまうから──



「これ、お守りね。大事にもっていてね」

「えっ?これって、お姉ちゃんの宝物で……」

「いいからいいから、あなた、欲しがってたでしょ?」

「いらないっ!いらない!!」



 拒絶する言葉を聞いた時、近くで狂獣の咆哮が聞こえた。


 もう、迷ってる時間なんてない、お守りとなる細工品を妹の手の中に無理やり押し付けてその場を離れる。




 遠くで、「お姉ちゃん!」という声が聞こえたが、それ以降は聞こえなくなった。



 なにしろ、いま自分は狂獣の目の前に出て、相手の注意を引き付ける必要があったから……




───────────────


 ……ぬぅ


 なんか、変で嫌な雰囲気を感じ取ったから来てみれば、あれはファンタジーお約束の西洋風ドラゴン(飛べない奴)ってやつかな?


 というか、"T-レックス"だ!すげぇ!動いているの初めて見た!おら、ワクワクしてくっぞ!

 以前見た、コモドオオトカゲもどきとは全然迫力が違うな!


 って、そのT-レックスの奴めは、何かを追っかけている感じか?


 なんつーか、台所に現れたGを、殺虫剤を片手に追いかけている様な雰囲気とでもいったような?どれどれと観察してみると、そこには、二つの光点が木々を縫うように飛んでいる?


 む、むむむ?あれは……

 ふむ、その追いかけている相手がいかんな。

 ああ、ああ、いかん。


 こんなファンタジーの世界において、その存在が十二分にアリエールな存在を追いかけているとは言語道断!



「とうりゃぁ!!」

「ッ!?」



 飛び出すついでにT-レックス(?)の側頭部にドロップキックをぶちこんでやる。

 その痛みによる怒りの矛先がコチラに向いたのを確認し、半身ずらしの自然体で睨んでおく。



「チッチッチッチッ……いけない、いけないねぇ~。こんなファンタジーの定番である羽根で飛んでる妖精さんフェアリーを追いかけるとか、いけないねぇ~お・し・お・き、しちゃうぞ~?」



 人差し指を左右に揺らしてで示しながら言葉を投げかけたと同時に、T-レックスから不意打ちのごとくブレスをぶち込まれる。


 しかも、避けたら妖精さんに当たる位置で。



「うぉっっと……小賢しいっ!!オカン直伝!消火拳ぃ!うぉらっしゃぁ!」



 説明しよう。消化拳とは!

 オカンの家事は、たまーにデンジャラスになるときがあるが、その掌に込められた魔力(?)と、魔力(?)の乗った風圧によって炎そのもの方向性をコントロールしては、消火をも行う拳技なのである。


 発動した見た目が、"閃光しゃいにんぐ"で"掌底打ふぃんがー"な格好になるのは、まぁ、致し方ないものとする。



「いっちょあがり!」

「!!?」

「#1e丫?」



 それでも、こちらを睨み込んでくる火を吐くT-レックス。

 今度は火の玉ではなく、火炎放射と来ましたか。

 けど、やる事はかわらん!



「炎の扱いには、慣れてんだよぉ!!防火掌底ぁ!」



 説明しよう!防火掌底とは!

 掌底に集めた魔力(?)によって、それ以上、火が燃え移らない様にする技である。

 火元に返すという事も出来るが、これ、密閉場所だとバックドラフトみたいな事なるから危ないから、みんな、マネしちゃだめだぞ?


 なお、見た目は"十二"の"王方牌"で"大車併"を出す前のモーションとでもいえばいいのだろうか、そんな感じの技である!



 さて、このT-レックスが放ってくるこの炎の熱さ……


 うむ、熱い、熱いぞ!

 こう煮えたぎる熱さ……うぉぉぉ、燃えてきたぁぁ!!



「もっと熱くなれよ……熱い血、燃やしてけよ……熱くなった時が、本当の自分に出会える……だからこそ!もっと!もっとぉぉぉ!!熱くなれよおおおおおおおお!!」



 炎に当てられてしまったのか、ついついそう言い放っては魔力(?)のほんの一部を放出してしまった。



「!?」

「uuyq@]……」



 そしたらT-レックスが急に首をすくめて小刻みに震えて、まるで生まれた手の小鹿みたいな?と思ったら、急に尻尾巻いて逃げ出しちまった。



「……なんで?」



 ポツンと取り残される自分と弱い光になっている存在がひとつづつ……


 よくわからないままに、見送る恰好になったラーマです。


 というか、炎吐くTーレックスなんだし、もっと火力上げてもよかったのに?

 オカンのたまに暴発する火力なんて、この火じゃない…もとい、比じゃないのにさー



 まぁ、いっか。

 そ・れ・よ・り・も



 妖精さんですよ?妖精さん!フェアリーって奴ですよ?


 某、女神が転生する奴でも、上位にランクインするレベルで相棒とも称されるアレでございやす。


 こりゃもうね、友好的かつ紳士的……いまは淑女的にか?で、第一印象を大事に接触を図るべ……と振り返って確認してみれば……



「気絶してらぁ……」



 さて、どうしたもんだか……




───────────────



 何も聞こえない、何もわからない……けれど、けれど、何かが私の手を握っているを感じる。


 静かに目を開けると、白い空間に、白い天井に、白い壁に……


「おねえちゃん!!」


 ふと、手に降れる感触を見ると、妹がそこにいた。


「えっ?って、隠れてなきゃ!!……って、ここは?」

「わかんない……」


 妹から詳しく聞くと、魔力禍といえる物を感じたから、わたしに何かあったんだろうと思って隠れるのをやめて探しに来た時、わたしを連れて行こうとする相手から、助けようとしたら一緒につかまって、ここに連れてこられたと。


「ワタシたち、どうなるの?」

「わからない……わからないけど……悪いようにはならないって、思う……なんとなくだけど」

「……?」


 擦り傷や切り傷など、逃げる時に負っていた物が全てなくなっている。

 それに、この部屋の魔力の感じは、居心地が良いし、温かいし、まるで慈愛に満ち溢れている様な感じさえする。



「#GA0#B*Z~=_」



 大きな部屋の扉から、誰かが現れる。

 何を言っているかわからない、わからないけれど、その持っている魔力の質は、私たちを敵対する気配を感じない。

 むしろ、温かく包みくるむかのような、優しく、まるで上位の存在のソレであったから。 


「お姉ちゃん……」

「大丈夫よ……"併せ"を」

「う、うん……」


 私たちの種族にある、言葉を知る為の相手との併せを行う。

 何を伝えようとしてくるのか、それを理解するためにだ。

 狂獣にも行ったけれど、"食う"や"喰らう"としか返ってこなかった……再び、そんな恐怖が蘇る。


 "安心していい。T-レックスはもういないよ"


 T-レックスというのが何なのかはよくわからないけれど、優しくそう語りかけてくる存在に、包み込まれる優しい"〇$□%"に……涙を零していた。

 そして、ふと思い出した。



────試練を乗り切った時、その目の前には神様は現れる

────慈愛と感じる優しき"〇$□%"と共に現れ、われらを導いてくれるだろう



 伝え聞いていた伝承を思い出した。

 まるで、この時、この状況を表すかのように……



「お姉ちゃん?」

「降臨されたのですね……導きの女神様……私たちの"主"」

「えっ?あの方が、女神様……"主"様??助かるの?」

「ええ、そうよ?私たちは、こちらの"主"様に出会うために、その命があったのよ……」

「な、なら、おとーさんと、おかーさんも……助かるの?」

「えぇ、えぇ、きっとそう、そうなるでしょう」

「よかった・・・よかったよぉぉぉ」




 妹と二人、女神様に会えた奇跡に感謝で泣きだしてしまった。





───────────────


 あかん、こういう涙ボロボロ流されてる、お涙頂戴モノってのはあかんねん。

 中身おいちゃんだと、こういうの弱いねん。



 優しく妖精さんたちを抱きしめては、あやしてしまうねん。



「もう、大丈夫、大丈夫だからね」



 なんかね、姪っ子の面倒みてるぐらいカワイイすぎてね、犯罪者にすらなり……いや、なったらダメだな。


 ただ、あやしてる時に、こちらの服をつかんで何かを訴えてきていたのは解った。


 訴えてきているのはわかったのだが、いかんせん、何を言っているのかが、わからないというか、何語なん?それ。という始末です。


 しばらく、問答を繰り返して、こちらが理解していないのがわかったのか、今度はボディーランゲージで訴えてきたのだが、えーっと、何だこの、お遊戯みたいなの、すっごく微笑ましく見てしまう。


 まぁ、なんとなーく妖精さんたちが困っているってことは、わかった。

 そう、妖精さん|たちである。



 つまり、もっと存在しているであろうと推測する。



 するってーことはだ、あの"T-レックス"もどきの奴、こんなカワイイ妖精さんたちを"いぢめている"とかあるのかね?あるのだろう。



 なるほど。



 なるほど……



 ……




 《ゆ゛る゛さ゛ん゛!!》(某"太陽の子"の声)


 こうしてはいられない。


 善は急げとも言うだろうから、速攻で外に出てはTーレックスもどきのトカゲたちを〆てくることにした。


 そして、一匹、一匹に"てめぇら、よそのシマは知らねーが、うちのシマで妖精さんたちに手出しすんじゃねーぞ?!アァン?"と、睨みガン飛ばしと魔力(?)みたいなのを強く飛ばしてぶつけておいた。


 なにせ、あいつら魔力(?)でサーチしたとたん、大小さまざまにいるし、なおかつ、このアジト周辺にも蠅や蚊の様にわんさか沸いていたので、もうね、ぶっとばしおはなししまくりですわ。


 というか、アジト作ってる最中には出会うことなかったというか、いなかったというか?いつのまに増えた?移動してきた?……わからん。



 まぁ、そういう何やかやあっては、元・妖精さん《たち》を保護する事になりもうした。



 ただ、マドハンドレベルで「なかまをよんだ」という奴を経験することになったが……




───────────────


 私たち、妖魔族は「我が"主"」に出会える事になった。



 当初、一部の者たちは、我が"主"を信じられないという事で、疑心を抱いていた。



 そこで、老の一人が"伝承の通りならば、契約の儀を執り行う事で、私たちの種族は、上位の存在へと至るはず……"と口にした。


 だが、"それが違えば、その身は"〇$□%"へと還元され、消えさっていく"とも。


 誰もが、自分という存在が消えるのが怖い。


 立候補する者は当初、だれもいなかった。

 けれど、ワタシは、ようやく訪れた主の降臨を否定することが、もっと怖かった。


 だから……


「私が行います」

「お姉ちゃん!?」


 私は、確信を得ている。

 なにしろ、我が主は、わたしのキズを無かったものにする程のお力をお持ちなのだから。

 そうして、ワタシは契約の儀に赴く。


「大丈夫。大丈夫だからね」


 我が主の温かい"〇$□%"が、内包している私の"〇$□%"と混ざり合う。

 その"〇$□%"……いえ、正確に言えば、主との神力と私の"〇$□%"が絡み合い、ワタシという存在が、違う存在へと、階位を超えていくのを感じる……



 あぁ……とても慈悲深く、慈愛に満ちているというのに……



 目を開けると、妹が小さく……違う、私が大きくなったとわかった。

 それよりも、我が主よりも高い視線になっていた事に恐れを抱き、すぐに地へと首を垂れる。


 身体が大きくなってしまったものの、背中の羽根が消えて……いえ、羽根じゃなく、翼になっている?


「おぉ、おおぉぉ……伝承は、本当だった……」

「「「おぉぉ……」」」


 それからは、みんな、我が主と契約の儀を執り行った。

 みんながみんな、大きくなった姿となっていった。

 翼は出したりできるようになったため、この神域にいる時は仕舞う事にしている。


 一通り、契約の儀が終わった後、私たち一族は"我が主(神)"に仕える身とし、御使いとしての役目を果たそうと決めた日でもあった。



 そして我が主は、自身にも"神力"を使い、逞しい程に変わられた。


 ただ、御身の胸元を触れながら「バスト……バルク……バスト……」や「悲しみのサイド・チェストゥ」と涙声で呟いておられましたが、何を意味していたのかは、誰もが解りかねていた。





 もしかして、私たちへの挨拶だったのかもしれない……のでしょうか?





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