ムゲンチョコとドーナッツホール

高黄森哉

無限

 ☆



 □□□□□

 □□□□□


 チョコレートを真ん中で、斜め四十五度に等分してみる。


 □□□/□□

 □□/□□□


 片方のそれを真っ二つに割る。


 □□□/ □□

 -- / □□□

 □□/

 ↑

(その片方を割る)


 □|□

 ↑

(その片方が割れた物)




 ☆



 と、ながなが説明しておいて、その次の工程が雑なのは申し訳ないのだけど、それを組み合わせると、同じくらいの大きさの板チョコが出来るのに、不思議と一個余る。私は、丁度そんな感じだった。クラスが無茶苦茶に分裂して、それで仲直りして、元の鞘に戻ったかと思えたが、私の居場所はそこには無かった。闘争の責任を負わされたのだ。

 ぴったりと、収まった形。でも、それは少しづつ歪で、その歪が私の居場所を、無くす原因となったらしい。それが、なぜ私であったかは分からない。家が貧乏であったからだろうか。そんなはずない。友達にその事情を話したことはない。じゃあ、成り行きだろうか。嫌がらせに積極性がないのは、単に、その気が無いのかもしれない。その気がないのに、責任上、リーダーを責めなければならず、消極的なのは同情も含まれているのかもしれない。


 そうだ、他に似たパズルがあった。こちらは、三角形のパズル。ここで、説明する気にならないけど、それは、切って貼ってで、元の大きさと変わらないのに、一マスの隙間が出来る代物。それはとても奇妙な歪みなのだ。

 私の心も似たようなもので、ハブられた孤独は、友達に溢れていた以前と、実はそこまで変わりはないのだけど、ぽっかりと穴が開いたような感覚がする。原因を詳しく探そうと逆算するが、かの三角形のように、その穴の材料は見当たらない。その穴の材料、私はそこまで考えて、吹き出しそうになった。例えばドーナツの穴に材料なんかない。嗚呼、さっきから何もかもが可笑しく感じる。


 そこまで考えて、表情をいっそう曇らせる。私はドーナツの穴だ。ドーナツの穴のように、私は定義されていて、私という形は、私を囲うもの達が作った虚像なのかもしれない。元気な私、気丈な私、陽気な私。それらは、全て、他の人たちが作り出した幻想でしかないのである。だから、リーダーとしての責任に耐えうるという、風潮には穴がある。正直、そろそろ限界だった。

 そこまで考えて、今度は難解そうにする。みんなだってそうだ、みんなだって、同じ。あの人たちも、私と違わず、ドーナツの穴なのだ。生まれたときから、あんな風ではなかった。だから、嫌うことは出来ない。優しさだけが想定どおりか。

 私は屋上へいたる階段の窓から、空に巨大なドーナツを見た。それは、ここからも見える、私の学校を覆う円環だ。学校社会全体を覆える、窮屈な輪っかの鋳型があって、それがガチャンと音をたてて振り下ろされそうに見えた。いや、それは、幻想でしかない。



 ☆



 チョコを齧る。ドーナツを片手に持ちながら。チョコはいくらだってある。切って貼っての繰り返しで、その結晶は無限になる。学校は小さな、欠片でしかない。世の中の巨大な板チョコから弾かれた一部分でしか。ここでの終わりが、全世界のお終いではない。

 つまりなんだって話、お金が許すなら、両親に許可をもらって転校すればいいだけさ。あそこでのお終いは、全体の死を意味しない。それは、ドーナツの落とし穴。一貫の終わりという幻想の穴。そんなものはない。そんなものはない。そんなものはない。………… そんなことはない。

 幻想幻想、そう言い聞かせて、口にチョコの欠片を運ぶ。あんパンも、アイスも。すると、巨大な空に浮かぶドーナツが明滅し始めた。そして、フワリと宙に浮いて、地上から離れ、私は屋上へいたる窓から、輪っかの中心へ吸い込まれてしまった。あの、虚構のはずの穴へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ムゲンチョコとドーナッツホール 高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る