○○は見た!

@tonari0407

それは僕たちに生きる活力を与えた。だが……

 僕は確かに見たんだ。

 あれは夢じゃない。


 あいつは欲望に満ちた醜い顔をしていた。やつはヤバい。今すぐ逃げなければ!


 僕は本能的に生命の危機を感じたんだ。だから仲間を一生懸命説得しようとした。


 でもみんな信じてくれないばかりか、熱弁をふるう僕を冷たくあしらう。


「そんなのどうでもいい」

「いずれ死ぬのが私達の運命だよ」


 そんな寂しいこと言うなよ!

 生きることを諦めるな!


 凍えるような世知辛い世界世の中では、僕の声は届かなかった。


 僕たちは無言で身を寄せあうが、それでも寒さは増すばかり。次第に僕の心も冷えて何も感じなくなっていく。



 僕の危機感が再燃したのは、悲劇が起こってからだった。


 やつは再び僕たちの前に現れたのだ!


 あいつは女型の巨人だった。口を大きく開いて不気味に笑う。僕たちをネットリと見渡している。


 獲物を狙うケダモノの目だ。


 僕の目の前で仲間たちが次々と連れ去られる。相手の巨大さに彼らはなす術もない。


 恐怖に震える仲間たちを、あろうことかやつはキレイに整列させる。


 その行為にみんな嫌な汗をかいていく。


 酷い……、なんて残酷なんだ!


 薄いビニール越しに見える公開処刑に僕は涙を流した。


 しかし、悲劇はまだ終わらない。


 仲間たちはどこかへ連れ去られていく。


 下手な歌を歌い始めた巨人は、ルンルンと何かを用意している。


 あれは……なんだ?


 おぞましい音が聞こえ始めるころには、生き残った仲間と共に、僕は元の世界へ戻された。


 ○


「なぁ、さっきの見ただろ!

 仲間が半分も持っていかれた。今度は僕たちだ。何とかしないと」


 再び説得を始めた僕に対し、みんなうつ向いて何も言わない。


「何とかって何よ? 」

 唯一言葉を返してくれたのは、いつも隣に座っていた子だった。


「えっと、それは……」

「何もないなら、何もできないのと同じ。

 諦めて、残りの時間を楽しみなさいよ」


「そんな……」

「でも私、あんたのそーゆー暑苦しいとこ、嫌いじゃないよ」

 彼女の少しだけ熱を帯びた視線に僕はたじろぐ。


「ねぇ、あんたの名前教えてよ」

「僕は――」


 ガコンッ!


 甘い雰囲気は、やつによって壊される。

 何と、あいつは理性のない巨人だった。


 欲望のままに生きているのが、そのだらしない顔から見てとれる。


 僕たちは再び、巨人の世界に連れていかれた。


 彼女も僕ももう逃げられない。

 死を覚悟をする時間さえ、やつはくれなかったのだ。


 まるく向かい合うように整列を強いられる。

 彼女は何も言えず、恐怖に涙していた。


「こわい! こわいよぉ」

「わたしたち、どうなっちゃうの? 」


 気力がなく冷たかった仲間たちも次々と弱音を吐き始める。


 そして僕たちは運ばれ、閉じ込められ、くるくると回り、あの音を聞いた。


 チーンッ


「熱いっ! 心が燃えるようだ」

「今なら何でもできる気がする!」


 仲間たちは何故か熱く元気になっていた。

 命を吹き込まれたようだ。

 もちろん僕も。


「あいつを倒す! この命にかえても」


「いや! 死んじゃ嫌よ。

 私……あなたのこと愛してる!」


 向かい側にいる彼女からの熱烈な告白。

 僕の心はトキメキで燃える。


 だが敵は容赦なく襲ってきた。


 トロリとした茶色い液体。

 にゅるりと出された薄黄色のクリーム。

 ふわふわとした小さな薄い紙。

 そして、懐かしい匂いのする緑の粉。


 僕たちは美味しくトッピングされた。


 巨人は、僕たちを前に両手を合わせ

「いただきます」と小さくつぶやく。


 食欲の自己制御はできないやつだが、僕たちに対する礼儀はあるらしい。


 やつを返り討ちにするべく、僕は先陣をきった!


「たこ焼きさーん! 」

 彼女の声が後ろから聞こえる。


「くそー! やけどさせてやるっ」


 それが僕の最後の言葉だった。




 僕たちの戦いは終わらない。欲望に満ちた巨人冷凍たこ焼きは便利で食べ過ぎる作者がいる限り……。


 いつか、やけどで泣かせてやるんだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

○○は見た! @tonari0407

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ