第10話 事件の真相
村長は、ゆっくりとした口調で話す。
「この子の両親は、普通のエルフです。しかし、何の因果かこの子はダークエルフとして生まれてきました。でも、この子は邪悪な心など持っていません。本当に優しい子なのです」
村長の話によると、ダークエルフの孫リディ―の両親は事故で亡くなってしまったらしい。そのため、村長が引き取ることにしたのだ。
火事が起きたあの日、村長は村人全員を集めて話をした。リディ―を村で育てることに協力して欲しいと願い出たのだ。
しかし、村人の中で1人だけ反対する者がいた。それが、ザッパートだった。彼は、反対するだけでなく「ダークエルフは邪悪な存在だ! 生かしておいてはならない!」と、リディ―を皆の前で殺そうと剣を持って襲いかかったのである。
リディ―は、自分の身を守るために炎の魔術を使った。その炎は、ザッパートを焼き殺し。さらに、村を焼き尽くした。
村人たちは全員集まって外に出ていたので無事だったのだ。殺されたザッパート以外は。
そんなことがあったにも関わらず、他の村人たちは村長に協力してくれた。リディ―を受け入れ。そして、ザッパートの死体をダンジョンに運んで捨てた。
「この子は…… リディ―は、確かにザッパートを殺した。しかし、自分の身を守るためにやむを得なかったのだ。今回の事件の責任は、全て村長であるわしにある。バネットさん。ミネアさん。本当のことを隠していてすまなかった……」
村長は、バネットとミネアに深々と頭を下げる。バネットが声をかける。
「頭を上げてください。村長。我々は、あくまで保険会社の調査員です。あなたたちを裁く権利はない」
村長は、頭を上げると覚悟を決めたような顔をする。
「はい。今回の事件について、本当の事を王国の代官所にも全て話しに行きます。もう隠し事はしません」
そして、ミネアとバネットは難民キャンプを後にした。降っていた雨はいつの間にかやんで、外は晴れていた。
道中、ミネアはバネットに尋ねた。
「これでよかったんでしょうか? 先輩。今回の事件、真実を知っても誰1人報われない気がします」
「いいんじゃないのか。俺たちは、俺たちの仕事をしただけだ。保険調査員の仕事なんてそんなものだ。それより、帰ったら報告書の作成が待っているぞ! 俺たちの仕事は、まだまだこれからだ」
☆ ☆ ☆
後日――――
エルフの村の村長は、王国の代官所に全て話したようだが。ダークエルフの子リディ―が処罰されることはなかった。あくまで自己防衛のために、やむを得ず魔術を使ったことが認められたようだ。
しかし、ザッパートの遺体をダンジョンに遺棄した件について、村長は軽い処罰を受けた。いくらかの罰金を支払うことになったらしい。
そして、今回の火災保険についてだが…… 保険金は下りないことになった。炎の魔術を使ったことについて、重大な過失ありとのことになったのだ。
でも、村の人々は最初から保険金を当てにはしていなかったようだ。
「わしらは、森エルフですから。森があれば、どこでも生きていけますわい!」
元気な顔でそう言って、村の復興に取り掛かっている。
そして、ミネアとバネットだが……
「ちょっと待ってくださいよー! 先輩ー!」
「グズグズするなよ! ミネア! 今回の現場調査依頼は、ダンジョンの地下2階層だ」
それを聞いて、ミネアは嬉しそうな顔をした。
「あ! 先輩! 今、私のこと『新人』じゃなくて、『ミネア』ってちゃんと名前で呼んでくれましたね! 嬉しいです!」
「うるさい! 早く来い! 置いて行くぞ!」
2人は、今日も元気に出動する。次は、どんな事件が彼らを待っているのだろうか?
~ 完 ~
保険調査員ミネアの事件簿 倉木おかゆ @kurakiokayu
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