第9話 〈解決編〉エルフの村の殺人事件
2日後の朝――――
その日は、朝から雨が降っていた。ミネアとバネットは、再び難民キャンプにあるエルフの村長のテントを訪れていた。
「朝からすみません。村長。どうしても確認したいことがありますので伺いました」
バネットが村長に頭を下げる。村長は、首を振って答えた。
「いえいえ。わしらにできることは何でも協力させてもらいます。それで、何か分かりましたかな?」
「ええ。今回の村が燃えた火事ですが…… 現場を検証した結果、炎の魔術によって火災が起きた可能性が高いことが分かりました。こちらは、専門家の魔術師に確認してもらった結果です」
バネットの言葉に、村長は驚いた顔をする。
「何と!? それでは、わしらの村は何者かによって放火されたということですか!? いったい、誰がそんなことを……」
「それについては、こちらの新人…… いえ、調査員のミネアから説明させていただきます」
バネットが、ミネアに目配せをする。ミネアは、頷いてから村長に言った。
「村長。率直に言います。あなたは、私たちに隠していることがありますね?」
「な、何をおっしゃるのですか? わしらは隠し事などしておりません。今回の火事の調査については、あなた方に全面的に協力しております!」
「では、お聞きしますが…… 今回の火事で、村人たち47名は全員無事に避難して、死んだ者はおろか怪我人すらいなかった。あなたは、そうおっしゃいましたね?」
ミネアが聞くと、村長の目は一瞬泳いだような気がした。
「え、ええ。そうですとも! 間違いありません。村人は、わしも含めて47名。全員無事に避難できました。運が良かったのでしょうな」
「それは嘘ですね。今回の火事で、少なくとも1人お亡くなりになった方がいます。その方は、ザッパートさんという名前の方です」
「うッ……」
村長が言葉に詰まる。ミネアは、淡々とした口調で説明を続けた。
「これは、偶然だったのですが。私たちは、数日前に行方不明者の捜索のため、ダンジョンの地下1階層を訪れていたのです。その時に、エルフの方の焼死体を発見いたしました。この死体こそが、この村のザッパートさんの死体だったのです!」
それを聞いて、村長は突然笑い出した。
「はははッ! 面白いことをおっしゃるお嬢さんだ。ダンジョンの中にエルフの死体があったからといって、わしらの村の者とは限りますまい。ただのエルフの冒険者の死体ではないのですかな?」
しかし、ミネアは動じずに冷静に答えた。
「いいえ。その死体は、ザッパートさんです。……村長。あなたは、左手に指輪をされていますね? ちょっと見せていただけますか?」
「こ、この指輪が何か……?」
ミネアの言うとおり村長の左手には指輪があった。鉄製の指輪と思われる。ミネアは、村長の目を覗き込むように見た。
「一昨日、私たちは村長…… あなたも含めて46名の村人から話を聞きました。その時に、気づいたのです。村人たちは、全員左手に指輪をされていました。たぶん、それが村人の証なんですね?」
「そ、そうです…… この村の村人であるという証で、左手に指輪をする決まりですが……」
「私たちが、ダンジョンで見つけた死体も左手に指輪をしていたのですよ。そして、遺体を回収して指輪を調べたところ、裏側に名前が彫ってありました。ザッパートという名前がね」
それを聞いて、村長は青ざめた顔で黙る。
「そして、さらにザッパートさんの遺体を同じエルフの魔術師の方に調べてもらいました。彼の遺体には、魔力の痕跡が残されていました。炎の魔術による痕跡が…… それも、村で火災が起きた日によるものでした」
村長は、うつむいて黙っている。額からは汗をダラダラと垂らしていた。
「つまり、私たちはこう考えています。今回の火災の原因は、何者かがザッパートさんを炎の魔術で焼き殺そうとした。これは、殺人事件だったのだと。そして、その時の炎によって村が焼けてしまったのだと」
村長は、黙ったままだ。しかし、ミネアは話を続けた。
「その何者かとは誰か? 現在、この村には47名の村人がいます。亡くなったザッパートさんを除いて47名いるという事は、1人数が合いません。そして、その1名はおそらく子供のエルフですね? 私は、最初にここに来た時、フード付きのマントを被ったその子を見ているんです。そして……」
ミネアは、少し間を置いてから言った。
「その子供のエルフは、ダークエルフなんですね? そうであれば、子供でも強い炎の魔術が使えたことに説明がつきます」
ミネアが話し終えると、黙ってうつむいている村長にバネットが言った。
「どうなんですか? 村長。本当のことを話してください」
「分かりました…… 全てお話しましょう。その前に……」
村長は、立ち上がるとテントの入口から顔出して、他の村人に「あの子をここに連れて来てくれ」と声をかけた。
しばらくすると、テントにフード付きのマントを被った子供のエルフがやって来る。
「リディ―。マントを取って、この人たちに顔を見せてあげなさい」
村長がそう言うと、子供のエルフはフード付きのマントを脱いだ。その顔は、他の村人のエルフたちと違って浅黒い肌だった。
村長が、ミネアたちに話し始めた。
「この子は、わしの孫娘でリディ―という名前です。ミネアさん。あんたの言うとおり、そして見てのとおり。この子はダークエルフです」
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