第8話 ミネアの確信
「ダークエルフですか? 確か、それって肌が黒くて悪いエルフのことですよね?」
ミネアもおとぎ話などでダークエルフのことは聞いたことがあった。ウェンディは静かに答える。
「そうですね。昔から、ダークエルフというのは暗黒の力に取り込まれた悪しきエルフと言われています。エルフの中にも彼らを忌み嫌う者は大勢います。しかし、実際には突然変異によって、黒い肌と強力な魔力を持って生まれただけのエルフだとも言われています。まあ、実際には、私も本物のダークエルフを見た事がないので…… 詳しくは分からないのですが」
「今回のエルフの村で起きた火事とダークエルフは、やっぱり関係があるんですか?」
ミネアが聞くと、ウェンディは静かに首を横に振った。
「いいえ。それは分かりません。あくまでダークエルフなら、エルフであっても強い炎の魔術を使うことが可能であるというだけの話です。今回の火事と関係があるという訳ではありません。少なくとも、村人の中にダークエルフはいなかったはずです。もし、いたら。同じエルフである私の耳にも入っているはずですからね」
その時、ミネアは難民キャンプで見かけた子供のエルフのことを思い出した。その子は、フード付きのマントをすっぽりと頭から被っていた。まるで、何かを隠すように。
ミネアは、ウェンディに再び尋ねる。
「ダークエルフというのは、子供でも強力な炎の魔術を使えるんですか?」
「それは、おそらく使えるでしょうね。ダークエルフは、生まれた時から強力な魔力を持っていると言われています。子供のダークエルフでも強力な炎の魔術を使うことは可能でしょう」
ミネアは、それを聞いてしばらく考え込む。今まで見聞きしてきたことが、思考の中をグルグルと回っていた。やがて、それがひとつの線になって全てが繋がった。
ミネアは、バネットの方を向くと何かを思いついたかのように声を上げた。
「先輩! 今回のエルフの村で起きた火事…… これは、単なる放火事件ではありません!」
「何だ急に、何か分かったのか? 新人」
バネットが聞くと、ミネアは強く頷いた。
「ザッパートさんですよ! 先輩。私たちは、ザッパートさんを見てるんです!」
「何を言ってるんだ? そのザッパートさんというのは、お前が見たという子供エルフのことだろう? 俺は見てないぞ……」
バネットが不思議そうな顔をすると、ミネアは強い口調で言った。
「違いますッ! その子は、ザッパートさんじゃありません!」
そして、ミネアはウェンディの方を向いた。
「ウェンディさん。もう1か所、魔力の痕跡について調べてもらいたい場所があるんです。いいですか?」
「それは、もちろん。私は、かまいませんが……」
ウェンディもミネアを不思議そうな顔で見た。彼女だけが何かを思いついたようだが、バネットにもウェンディにもそれが何なのか分からなかった。
しかし、ミネアには強い確信があるようだった。2人の方を向いて自信あり気に言う。
「今回のエルフの村で起きた火事。これは、ひとつの事件が起こした事故に過ぎません。犯人は、村を燃やすために炎の魔術を使った訳じゃあないんです。そして、村人たちは私たち1つだけ嘘をついています。犯人をかばうために……」
「犯人だと? おい! 新人! お前は、その犯人が誰だか分かっているのか?」
バネットが聞くと、ミネアは真剣な表情で首を横に振った。
「いいえ…… まだ、私の推理は確証がありません。まずは、それを調べないといけません。先輩! ウェンディさん! 力を貸してください」
バネットとウェンディは、一瞬顔を見合わせたが。ミネアの方を向くと2人とも頷いた。彼女が、ここまで言うのだ。何か確信があるに違いない。
そして、3人はエルフの村の焼け跡を後にして、ある場所にむかったのだった……
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