第7話 ダークエルフ

 バネットとミネアは、エルフの村人たちに話を聞いて回る。しかし、村長から聞いた話以上の目新しい情報は特になかった。


 どの村人たちも出火の原因は分からないし、心当たりはないと答えた。速やかに避難できたのも偶然とのことだった。


 また、村長から聞いたとおり魔術が使える村人は数名だった。しかし、水と風の魔法が多少使える程度である。


「これで、村長も入れて46名から話を聞いたことになりますね。あと、残り1名。ザッパートさんという方がいるはずですが……」


 ミネアは、名簿をチェックする。名前だけの名簿で、年齢や性別などは書かれていない。バネットは、ため息をついて答えた。


「ようやく、あと1人か…… どこにいるんだろうな? そのザッパートという人は」


 その時、ミネアは最初にテントの陰に見かけた小柄な人物のことを思い出した。フード付きのマントを被っていたが、背格好からして子供だと思われる。


「そういえば…… ここに最初に来た時に、子供のエルフがいました」


「子供のエルフ? そういえば、今までの村人は全員大人のエルフで、子供のエルフはいなかったな……」


 バネットの言うとおり、村長も含めてここまで話を聞いたエルフの村人は、全員が大人のエルフだった。ミネアは、腕を組んで少し考える。


「じゃあ、その時の子供がザッパートさんですかね? どうします? 先輩。その子を探しますか?」


 バネットは、面倒そうな顔をした。


「いや、いいだろう。子供から話を聞いても大したことは聞けないだろうし。今日のところは引き揚げよう」


 結局、バネットとミネアは最後にもう一度村長に挨拶をして難民キャンプを後にした。


 事務所に戻る道中、ミネアはバネットに尋ねる。


「結局、火災現場に残っていた魔力の痕跡は何だったんでしょう? 炎の魔術を使った痕跡とは限らないんですよね?」


「今の時点ではな…… だが、それについては俺に考えがある」


 バネットは、やや含みのある表情で答えた。



 そして、翌日――――


 ミネアたちのいる保険事業部の調査室に、見慣れない顔の人物が現れた。


 それは、魔術師のような灰色のローブを着たエルフの男性だった。人間でいえば20代くらいの若者に見える。肌の色は白く、顔立ちはエルフだけに整っている。


 室長が、ミネアたちにそのエルフの若者のことを紹介する。


「こちらは、今回の件について特別に協力してもらうことになった冒険者の方だ。バネット君に頼まれて、急な話だったが依頼することになった」


 エルフの若者は、一歩前に出ると自己紹介する。


「魔術師のウェンディと申します。どうぞ、よろしく……」


 バネットとミネアも挨拶をする。


「俺は、バネット・バックラーだ。よろしく」


「ミネア・ストーリアです! よろしくお願いします!」


 挨拶を終えると、さっそくバネットが話を進める。


「さっそくだが、ウェンディ。俺たちと一緒に、火災現場に行ってもらいたい。そこに残っていた魔力の痕跡について、あんたに調べて欲しいんだ」


 それを聞いてミネアは、ようやくバネットの意図を理解した。バネットもミネアも魔術に関しては素人である。だから、専門家に分析してもらおうという話だ。


 エルフの魔術師ウェンディは、爽やかな笑顔で答える。


「分かりました。お任せください」



 それから、バネット、ミネア、ウェンディの3人は、東の森にあるエルフの村だった火災現場に訪れた。


 バネットが、ウェンディを魔力の痕跡があった場所まで案内する。今は焼け焦げて跡形もないが、元々は村長の家があった場所だ。


「この辺りで魔力感知器の反応があった。何か分かるか?」


「ちょっと待ってください。調べてみましょう」


 ウェンディは、そう言うと目を瞑って手のひらを地面にかざした。そして、何か呪文のようなものをつぶやいた。


 しばらくして、ウェンディは目を開けるとバネットとミネアに向き直る。


「確かに、強い魔力の痕跡があります。魔力が使われたのは、1週間前くらい。ちょうど火災があった日のようですね。そして、魔力の種類は炎の魔術によるもので間違いありません」


 それを聞いて、ミネアは驚きを隠せない。


「そ、それじゃあ…… やっぱり火事の原因は、誰かが炎の魔術を使ったからなんですね? つまり、人為的な火災だと……」


 ウェンディは、静かに頷いた。


「そう考えて間違いないでしょう。しかし、かなり強力な炎の魔術です。この村に住んでいたのは、森エルフたちですから…… 彼らに、これほどの炎の魔術が使えるとは考えられませんが」


「じゃあ、炎の魔術を使ったのは村人以外ということですか?」


「それは分かりません。しかし、エルフというのは本来は森や山に住んでいます。私のように、街エルフと言って冒険者になる者もおりますが。元々は、私も山エルフの出身です。ですから、魔術の素質はあっても、炎の魔術だけは禁呪として習得は禁じられているのですよ」


 この話は既にミネアも知っている。森や山に住みエルフは、何より火災を恐れているからだ。


「ただ…… 同じエルフでも1つだけ例外があります」


 ウェンディは神妙な面持ちで言った。


「同じエルフでもダークエルフ…… 彼らだけは、生まれつき強力な炎の魔術を使えるのです」


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