第20話 それって実質夫婦じゃん
肩をトントンされて目を覚ました。
「お客さん、終点ですよ。起きてください。もしも〜し、お客さん」
一瞬にして意識がフル
乗り過ごした! と焦ったが、視界に映っているのはユウナのドヤ顔だった。
「なんだよ、驚かすなよ」
「ほら、目的の駅に着いたよ」
荷物をまとめて電車から降りた。
ホームに立つと心地いい風がハルトのシャツを膨らませた。
眼下に広がっているのは傾斜のある街並み。
レトロな建物が多いから、昭和にタイムスリップしたような気分に浸れる。
走っているタクシーも年季が入っており、時間の流れがゆっくりしている。
「ハルくん、お腹減った。甘いものを食べに行こうぜ」
「その前に写真を撮らないと」
駅名看板の前にユウナを立たせて一枚撮っておいた。
生存報告の意味を兼ねて両親へ送信しておく。
旅館にチェックインできるのは午後の三時から。
時間に余裕があるので商店街を散策することにした。
「はちみつアイスがあるよ」
「あれ、全国のどこにでもあるお店でしょ」
「でも、アイス食べたい。美味しけりゃ何でも良くない?」
「まあ……」
ユウナって意外と正論をいう。
アイスを食べたいのはハルトも一緒なので、一個を買って二人で半分こする。
出てきたのは純白のアイス。
パッと見はバニラ味と変わらない。
「どう? はちみつの味する?」
「おっ⁉︎ するする! ハルくんも口を開けたまえ」
スプーンで一口食べさせてもらった。
「思ったよりもはちみつだ」
「でしょ〜」
あっさり完食した。
冷たいものを食べたら今度は温かいものが欲しくなる。
次にユウナが目をつけたのは温泉まんじゅうのお店。
こっちは一人一個買う。
黒糖を練り込んだ生地の中にホカホカの
「うめぇ〜な、温泉まんじゅう。日本のお菓子ってレベルたけぇ〜」
「うん、久しぶりに食べると美味しい」
少し歩いたところに無料の足湯がある。
せっかくなので利用することにした。
「タオル一枚五十円だってさ。安いから二枚買うか」
「チッチッチ」
ユウナは家から持ってきたハンドタオルを取り出す。
何かの役に立つと思って持参したらしい。
「本当にユウナ? やけに準備がいいね」
「ゴールデンウィークだからね。いつもの私より性能が良いのだよ」
靴下を脱いでお湯の中に両足を突っ込んでみた。
思わずため息が出てしまう水温である。
「ふぃ〜、足湯に浸かりながらコーラ飲みたいな〜」
「気持ちが分からんでもない」
混んできたので早めに上がっておいた。
旅先でも
それから水車を見たり、古民家を見学したり、お土産物屋をのぞいてから旅館へ向かった。
フロントの人にユウナがフルネームを告げる。
「二名でご予約の水瀬様ですね」
「そうです。夫婦で予約したら特別サービスを受けられるって、ホームページに書いていたのですけれども」
「はい、当館で使えるデザートの無料券をプレゼントしております」
「じゃあ、私ら夫婦ってことで」
おい! とその場で突っ込んでおいた。
「いやいや、ハルくん、私の婚約者でしょ。それって実質夫婦じゃん」
「俺がいつプロポーズしたんだよ」
「さっきの足湯で」
「
やり取りを聞いていたフロントの人がアハハと苦笑いする。
ユウナは意地でもデザートの無料券が欲しいらしい。
夫婦じゃなくても、婚約者だったら支給してもらえるらしく、無理やり特典をゲットしておいた。
「こういうのは前もって相談しろよ。そもそも俺たち未成年だろうが。どんだけ食い意地張ってんだよ」
「私はデザートが食べたいのではない。無料のデザートが食べたいのだよ」
名言っぽい言い方をしているけれども単なるアホである。
義妹じゃないもん! ゆで魂 @yudetama
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