第19話 ゴー・ゴー・GW

 五月になり大型連休の季節がやってきた。

 高校はカレンダー通りで、最大でも三連休だ。


 ハルトとユウナは朝から旅行カバンに荷物を詰め込んでいた。

『温泉旅行に行きたい!』とユウナが言い出して、勝手に予約しちゃったのである。


 目的地は隣県。

 一泊二日である。


『ユウナ一人で行ってくる』という案もあったが、ハルトも温泉は好きだし、姉だけ楽しい思いをするのは悔しいので、二人で出かけることにした。


「ハルくん、充電器とか入れた?」

「大丈夫だよ。そういうユウナこそ酔い止め薬は持ったのかよ」

「あ、いけね!」


 家を出る前に互いの荷物をチェックして、忘れ物がないのを確かめた。


 今日は夏日だ。

 ユウナは花柄のワンピース、ハルトはシャツにデニムという格好で出発する。

 たった一日とはいえ家を留守にするのは久しぶり。


「今夜はね〜、カニ鍋なんだよ〜。楽しみだな〜」

「全然カニって季節じゃないけどね」


 旅行のことは両親にも伝えてある。

 ユウナは受験勉強が大変、だから息抜きも必要。

 そんな理由で許可を取りつけた。


 信頼されているのか、親が甘いだけなのか、判断に迷うところである。


「受験勉強はいいのかよ。前回の学力テスト、散々な結果だったでしょ」

「い〜の、い〜の。夏休みになったら本気出すから」

「それ、部活動を頑張っている人のセリフだから」


 このままじゃ悲惨な卒業式を迎えると思う。

 弟が心配することじゃないが。


 駅に到着したので、あらかじめ時間を調べておいた電車に乗り込んだ。

 ゴールデンウィークということもあり行楽客の姿が目立つ。


「旅行といったら、ユウナは卒業旅行、どうすんの? クラスの友達と行くの?」

「おい……」


 露骨に嫌そうな顔を向けられる。

 その質問を今するかね? と。


「あと一年したら、みんなは大学生だろう。でも、私一人だけ浪人しているだろう。気まずくて一緒に旅行できるかよ」

「浪人する前提なんだ。まあ、一人だけテンション低いメンバーがいたら気まずいよね」

「そうそう。れ物に触るような扱いなんてゴメンだね」


 体は小さいくせに、プライドだけは一人前だったりする。


 電車が動き出して、ゆっくりと景色が流れ始めた。

 ユウナはトートバッグからスナック菓子を取り出して開封する。


「旅行の移動中に食べるお菓子が一番美味しいよね」


 遠足のお菓子は美味しい、みたいな意味らしい。


 二人で交互につまんでいると、あっという間に空になった。

 最近のお菓子は量が少ない! とユウナが文句を垂れる。


 電車の振動が心地いい。

 ハルトは欠伸あくびをもらし、目元をゴシゴシする。


「眠そうだね」

「うん、ゴールデンウィークにアニメを一気に観ようと思ってね。ちょっと夜更かししたから」

「分かる〜。後で観ようと思ってマイリストに加えるけれども、消化できずに次のクールに入っちゃうよね」

「そのせいでマイリストがどんどん増えていく」


 ハルトもユウナもアニメが好きだ。

 最近はどんなアニメが良かったか、よく情報交換している。

 昨夜にハルトが観たアニメも、実はユウナが激推ししていたやつだったりする。


「えっ⁉︎ もう最終回まで観たんだ⁉︎」

「面白かったから止まらなくなってね。本格的なSFアニメって観るの久しぶりかも」

「十年くらい前の作品だけど、今でも普通に面白くてさ」


 ハルトが作品の良かった点を並べていくと、ユウナは我が事のように喜んでいた。

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