第18話 塾なんてお金のムダ

 始業式の日は午前中で終わり。

 というのは一年生と二年生に限った話で、ユウナたち三年生は実力テストを受けて帰るらしい。


 終わるのは夕方の四時半。

 普通の平日と大差ない。


(それでユウナ、朝から落ち込んでいたのか……)


 ハルトたち二年生はLHRロングホームルームが終わったら解散となる。

 人によっては部活で自主練していく感じだ。


 帰り道、ハルトはスーパーに寄り、晩飯の食材を買うことにした。


 いつもメニューで迷う。

 コスパを重視するなら冷凍パスタや冷凍ギョーザあたりが最強だろう。


 自炊は意外とお金がかかる。

 野菜だって安くはないし、牛肉や豚肉も去年に比べて値上がりしている。


 今日のユウナ、きっと疲れて帰ってくるよな。

 好物を用意した方がいいよな。


 そこまで想像して、ひき肉を手に取った。

 それから調味料コーナーへ行きハンバーグの素を買っておく。

 日本人なら誰でも好きなメニューだろうが、ユウナは特に好きなのだ。


 牛乳だったり粉コーヒーも一緒に買って家路についた。

 忘れない内に『今夜はハンバーグだから』とユウナに送っておく。


 すぐに返信が来た。

『恩に着るぜ!』と。

 ハルトからは『テスト頑張れよ』と返しておく。


 家にハルトしかいないのは珍しい。

 ちょうどいいので掃除することにした。


 まずは一通り掃除機をかける。

 それからトイレ、お風呂、洗面台も洗っていく。


 冷蔵庫のドアポケットに白いカピカピの汚れがあった。

 ユウナが雑に牛乳パックを置くから、衝撃で中身がこぼれるのだ。


「あいつ、本当に乱暴だよな」


 ここにいない姉に向かって文句を言いつつらしたティッシュできれいにしておく。

 汚れを落とすのは何気に楽しい。


 リビングの机にユウナの私物が転がっており、邪魔くさいので部屋まで運ぶことにした。


「ユウナの部屋って、地味に汚いよな」


 使用済みのタオルがベッドと壁の隙間に挟まっている。

 丸まっている靴下だって洗濯すべきやつだろう。


 見ているとイライラしたので全部回収しておいた。

 濡らしたタオルはカビの原因になりかねない。


 昼飯のおにぎりとサラダを食べて時計を見ると、午後一時になっていた。

 今頃ユウナはテスト用紙とにらめっこしているだろう。


 今回のテストは偏差値が出るやつらしい。

 どこの大学なら受かるのか、実力が一目で分かってしまう。


 全滅だろうな。

 春休み、まったく勉強していなかった。


 家の近くに学習塾があり、ハルトの高校の生徒もたくさん通っている。

 ユウナも入塾するよう両親が電話をかけてきたが『塾なんてお金のムダだから〜』と耳をほじりながら笑っていた。


 確かにムダだろう。

 ユウナの場合、そもそものやる気が不足している。

 塾へ行っても落ちこぼれる未来が待っている。


「まあ、現実を見たら、いつかバカ姉貴も変わるだろう」


 ハルトはソファに横になり昼寝することにした。

 心地よい春風がレースのカーテンを揺らしていた。

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