第6話 今でも
神様が十分だと話した次の日、公園の周りには、越えることのできない高さの隙間のない塀が張り巡らされた。不動産会社の物とは違う。塀には張り紙がしてあった。
『花山公園改修工事のため、一時閉鎖します。』
神様に会おうと公園へ来た啓介たちは、がっかりしてしまった。しかし、これは改修工事だ。東屋や池ができた時のように、工事が終わればまた公園がグレードアップして戻ってくるのだ。秘密基地にも行くことができる。
工事が終わるころには、啓介たちはもうすぐ4年生を終わろうとしていた。
「おい、今日から花山公園行けるらしいぜ!」
大輝の誘いで、啓介と美海は放課後急いで公園へ向かった。
公園はとても美しくなっていた。もともとあった東屋や池、遊具などはそのままで、広場が大きくなりキャッチボールなどをできるようなスペースになっていた。木々も増えている。しかし、一番変わったものは啓介たちの秘密基地だった。
「え…神社?」
美海が愕然として言葉をこぼした。秘密基地があった場所は小さな神社になっていた。小ぶりな鳥居と賽銭箱、お社があった。それだけなら、そこまで不思議ではない。
「…新品じゃないよなぁ。」
啓介たちは間近で鳥居やお社を見てみた。木でできていたが、真新しいぴかぴかな感じではなく、何年も雨風にさらされたように年季が入っている。お社の手前に看板があり、「花山神社の由来」と書かれている。それによるとこの神社は江戸時代からあるらしい。憩いの場の神様が祭られていると書かれていた。
「すみません、この神社ってどこかから移設したんですか。」
公園を掃除している町の清掃員のおじさんに美海が尋ねた。
「さあねぇ…でも改装工事の前からずっとここにあるから、もとからここのものじゃないかな。」
おじさんはなんでそんなことを聞くのだろうか、と不思議そうに美海を見て答えてくれた。三人は顔を見合わせた。罰当たりかもしれないとは思いつつこっそりとお社の扉を開けてみたが、中には汚れた鏡のようなものがあるだけだった。
あとからいろいろな人に聞いてみたが、掃除のおじさんが言うように、その神社は昔からあったと言う。ただ、お供え物をしに行った子供たちだけは、そこには秘密基地があったと断言した。
父親は、お社の方を指さす。
「…だから、今でもほら、お社の脇にまつぼっくりとか丸い石とか並べてあるだろ?もちろんお賽銭でも構わないんだろうけど、ここの神様はああいうものもお供え物として喜んでくれるって話が伝わってるんだよ。」
啓太は騙されないぞ、と心に決めて話を聞き始めたことをすっかり忘れていた。父親と一緒に落ちていた帽子付きどんぐりを拾い、お社の脇にまつぼっくりと並べて置いた。
「嬉しいのう。」
啓太はばっとお社の方へと顔を上げた。何もいない。神様の声…?空耳かもしれない。
試しにまた、公園に来た時には何かをお供えしよう、妹も連れてこよう、と啓太は一人心に思った。
ひみつ基地の神さま 鈴木まる @suzuki_maru
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