第7話
これは、一昔前の帰り道のことだ。
「ねぇ、灯。高校でも続けんの?」
「当たり前だろ!何でそんなこと聞くんだ?」
「ううん。いつか灯とやりたいな~、って思って。」
「よし。じゃあ、次会ったら一緒にやろうな。」
「うん!」
響きのいい声と、飾りのない百点満点の笑顔と共に、俺たちは、約束した。
「「「ともる~~~~!!!!」」」
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんn・・・・。」
(やばいやばいやばい・・・。これは、あの入学式の寝坊よりやばいかもしれない。なんだこの三人からの訳のわからん圧力は!人間はこれほどにも怖がらせることができるのか!みんな笑っているのに、誰一人目が笑っていない!いや、もう雰囲気というかオーラがやばさを増している!)
(何でこうなってんの?!?!俺何も してないよ!)
(んん、くっ、っと今日は何曜日だっけ?毎日がハチャメチャすぎて曜日感覚がなくなってきた。)
起きたばかりで全然頭が働いていないまま目の前においてあるスマホを手に取る。
(金曜日か。色々あった入学式からもう二日が経っているな。早かったなこの三日間。うん、一瞬のように過ぎていったものだ。)【んなことどうでもいい】【早く用意しろ。遅れるぞ】(・・少しはこっちの見方になってもいいじゃん)【ありえない】【それはお前が・・】(言うと思ったわ。はいはい、俺が悪かった)
毎日朝からこんなやりとりはマジでゴメンだと思いながら一階に降り洗面所に向かおうとした。
だが、体を起こしてみて気づいた。
(なんだこの身体の重さは!)
これまで以上に体が重く言うことを聞かないのだ。足を動かそうとしてもいつもの半歩分しか出ない。
(これもお前らの仕業か!)【ばかか】【いや、こいつはホントにバカだ】【た、確かに】(確かにじゃねえよ!おい、天使くらい俺の味方をしてもよくね。)【差別だーー】【そうだそうだ】(・・・くっそ、俺がこいつらに話を振ったのが間違いだった。)
二重のストレスを抱えながら重い足取りで部屋を出た。
洗面所で顔を洗い、台所で朝食を用意し、テレビを横目で見ながら食卓でいただく。食べ終わったらシンクに食器を持って行き洗う。それが終わると服を脱ぎながら脱衣所に向かいシャワーを浴びる。浴室を出ると自分の部屋に向かい制服を着て学校の用意をしてリュックを持って一階に降りる。昨日用意しておいたお弁当箱にご飯と残ったおかずを詰め込み、リュックに入れる。そしてお気に入りのあめ玉を口に放り込み、靴を履いて急いで学校に向かう。これがいつもの俺の日常だ。
だがなにか今日は違った。まずテレビの内容が不穏なニュースばかりだ。食器洗いを始めると食器は割れるわシャワーは水しか出ないわ制服がなぜかほこりまみれだし、お弁当箱はなぜか欠けてるし・・・、なんか嫌な予感がするのだ。【いやいや】【制服はお前のせいだろ】(・・こいつらにかまうとさらに嫌な予感がする)
とにかく家を出ないと遅刻するからとりあえず家を出た。
嫌な予感というのは今日の体の重さもその一個ではないのか。起き上がろうとした途端に動かないほどになったのだ。昨日まではめちゃくちゃ軽かったのに、一日でこれほどにまで変わるのか。昨日何かしたのだろうかと考えるが別に何もしていない。だけど、なぜだろうなんだろう。これはやばいぞ、俺の勘は大体当たるのだ。昔から、ホントによく当たる人だったからな。
「はい、じゃあこれで説明終わりにするね。なんか質問がある人いる?」
・・・すーすーす。
「いないなら、これは宿題で授業を終わるね♥じゃ号令係も寝ているから解散ということで。神井さん、明石君を放課後に職員室ね」
「かしこまり~!」
・・・・・ガヤガヤ、ごそごそ・・
(・・ほえ?・・あ、あっやっべ)俺は知らぬ間に寝ていたらしい。ふあ~ぁ。あの先生の声なんか寝やすいんだよ、オレは悪くないはずだ。
寝ぼけ眼まなこで時計を確認する。まだ一時間目だということを確認した後俺は再度寝ることにした。一時間目の学活なら、どうせあの先生のくだらない恋愛話でもしてたんだろ。
(ホントあの先生学活という時間を何と勘違いしてるかわからないが、いつも一人の語りで始まりそして長々と話し、終わってくんだ。まともに学活やったのなんて昨日の委員会や係を決めたときくらいだ。この前なんか・・・)
と俺が言い訳と共に先生を愚痴っていたら
「おはよー、灯、今日もいい寝顔だったね!」
と、目覚めの人にはまぶしい太陽のような笑顔とそのままどこかへ逝ってしまう前に聞こえる声を携えた月が、ぴょこぴょことやってきた。しかし今日はなぜだか雰囲気が違う・・・。
「おはよー、月。お前なんか今日雰囲気違うな」
俺はゆっくりと机から顔を起こし月に向けた。
「えっ!!やっぱり灯にはわかるんだ!!今日は、髪型を少し変えてみたんだ~。結び目を少し高めにしたんだよ!」
月は声を響かせながら嬉しそうに笑顔をこちらに向けた。これだから月が入学して一週間しかたっていないのに学校中で有名なることを当然のことのように思えた。
そして言われてみればいつもの結び目より高めにあるかもしれない。ちょっとしたことで意外と大きく印象が変わるのだなと思った。
「へー、そうか、だからなんか違く見えたのか」
「ね、ねっ、どう、なんか感想は?」
月は顔を近づかせながら体を少し横にぶれさせてこちらに寄ってくる。
そんなことされたら男子としては目の置き場に困ることを月は分からないらしい。
だが、もしこれをいろんな男にしているのだとしたらと考えるとなんかイヤだな。
「うん。めっちゃアクティブに見えてに月に合ってると思う」
実際ポニーテールには変わりはないのが・・、
(めっちゃ今の月にスポーツ服を着させたい!)
「えへへ~~~。照れるな~~」
月はくずれた笑顔で嬉しそうに照れている。
そんな美少女の姿を見て、男子が月に目を向けてしまうのは仕方がない。こいつも例外ではない。
「だ~か~ら・・・」
「「海、シャラーーーーップ!!」」
「俺、まだ一言も言ってないんだけど?!」
(こいつの登場の仕方は一パターンしかないいのか?少しはレパートリー増やせよな)
「海君、あなたねぇ、少しは学習しなさい」
「そうです。もうちょっとは、綺麗な心を持って挨拶してください」
ここで瑞木と土屋さんが入ってきた。
瑞木は相変わらずの、クールビューティーの女王みたいな圧倒的なオーラを出している。土屋さんもそれに負けないほどの小動物パワー(?)を発揮しているようだ。
変なうめき声を上げながら海が目の前で四つん這いの姿になっているが、土屋さんが持ち前の技で海をK.O.にしてしまうのはもう慣れてしまったので、放っておくことにした。
「おっ、瑞木ぃ、あやねちゃ~ん、おはよー」
「よう、二人とも」
「おはよう。月、灯」
「おはようです。月ちゃん、明石さん」
「ちょっ、みんな俺に対する反応ひどくね!?俺がかっこいいことを恨んでも仕方がないことなんだよ!?」
海は朝から元気だ。少し無視しただけでぎゃーぎゃーとわめく。【わめかせてんの】【お前だけどな】(・・だっおもしろいじゃん)
「うう~ん」
「くたばれ」
「どっかいって」
「もう吐きそうです!」
「・・ドサッ」
海はとうとう床に倒れ伏してしまった。おそらくはメンタルが破壊されたのだと予想できる。
だが、考え方を変えると何回もやられてるのに未だにやられに来るのだ。海は、もしやナルシストではなくドMなのでは、と思えてきた。それがどうであれ、これは海の自虐としか言い様がない。
それより、土屋さんの言葉がきつい。土屋さんが一番心に刺さる人なのに、さっきから一番刺さりそうな言葉を発している。これは同情せざるを得ない。
そんなことを考えていると瑞木が口を開いた。
「ところで、月。髪変えたのね」
「そうなの。わかる?」
「似合ってるわね」
「かわいいですよ!!」
「やばっ、あやねちゃんに言われるとめっちゃ自信になるんだけど!!」
「はいはい、どうせ私は無感情ですよ。」
「瑞木、ゴメンって~。冗談だから~。そんなにすねないでよ~」
「え、冗談だったんですか?」
「もう、二人ともごめんね~!」
(・・・この三人は海はもともといなかったように会話をしている。まじかよ、こいつら鬼かよ。やばいな、俺も一歩間違えたらあの立場になり得るのか・・・。いや、一歩じゃまだ大丈夫か。)
「あ、そうだ。灯、なんか後で職員室に来いって琴ちゃん言ってたよ」
一週間も経っていないがすでに先生を琴ちゃん呼びには尊敬の念を覚えた。俺の知っているあの先生のイメージとかけ離れているからしっくりこないのはしょうがないな。
「えー、マジかよ、また説教かよ。んで、今日、先生何話してたんだ?」
一応、大事な話かもしれないから内容は聞いとかなくては。
「何だっけ。瑞木覚えてる?」
(・・・おい。忘れんの早くね。まあ、寝てた俺が言えたことじゃないんだけど・・・。)
「はぁ、月、そんなのも覚えてないの?えっと、確か・・、部活動の説明だったわよ」
結構重要な話じゃないかと内心焦った俺はさすがに寝るのはやばかったかと反省した。
「部活動か。それで?」
「んーっと、『・・・皆も知っているようにこの学校は、部活動に対しても力を入れています。だが、他の高校と違う点では、兼部・新設が自由ということだ。兼部は、各顧問の先生に許可を取るようにしてください。あと、新設には五人以上の部員が必要となります。各自それも頭に入れて、部活を選んでください。・・・』のような感じで言ってたわよ」
「そうです。そんな感じです。瑞木ちゃんって、ものまねが上手ですね」
土屋さんがパチパチと拍手をしながら瑞木を褒めていた。
「初めて言われてのだけれど・・・。でも私、モノマネなんて、あなたの方が上手い気しかしないわ」
「ねえねえ、瑞木とあやねちゃんは何の部活にするの?」
月が二人の顔を交互に見ながら顔を近づかせて聞いていた。
「私は、まあ・・・・。」
モノマネの話はどうでもいいこととして、部活のことだ。
部活動は高校生活をリア充らしく送るためには必要不可欠な要素だ。そこでは仲間との熱い物語や輝く青春があふれるほど起きる。部活動でこれからの人生の明暗が分かれると言っても過言ではない。
と偉そうに言ったものの、俺が入る部活は元々決まっている。
菅野tはそれ以上に気になることを言っていた。
〝兼部・新設〟が許されるだと!!
そうなると、少し話が変わる。たしか俺のやりたいことは部活はこの学校にはなかったはずだ。それも別におかしな事ではない。ないところも少なくないと思う。
もう少し後でもいいと思っていたが、もう話が出たということから新設するとしたら急いで人集めをして、すぐに申請したほうがいい。早くて悪いことはない。
部活として活動が許されるのならば、俺らの練習時間が増えると意気込んで部員を集めることに専念することを決意した。
「ねえ、やっぱり灯はハンドボールにするの?」
俺が一人、頭の中で盛り上がっていたことも知らず、月が首をかしげながら俺に質問してきた。かわいらしさが異常だ。尋常じゃない。
「ああ、まあな。この高校は、ハンドボールも強いってきくからな。そのために入学したと言っても過言ではないな。」
「灯さん、ってハンドボール得意なんですか?」
ハンドボールという競技を知らないのかあやねは頭の上にハテナマークを浮かべながら言った。
「何?知らないの?まぁ、有名じゃない当然か。灯はね、この県で無名だった中学校をたった一人と言ってもいいくらいで全国ベスト16にまで行かせた人よ。」
改めて他の人から言われるとめちゃくちゃ嬉しいし人から言われると凄く恥ずかしい。
月に言われて、あの時は俺の無双ゲーだったことを思い出す。
「そうだったんですか?!スゴいです!!!それほど上手なんて!!」
(ぐっ。スゴいぞこれ。土屋さんから褒められるとスゴく気持ちがいい。天に上っていきそうな心地良さだ。)
「そうよ。灯はあの時全国で優勝できるんじゃないかってぐらい強かったんだから。」
「でも、それなら、色々な高校からオファーが来たんじゃないですか?ここより強いところもあったと思うんですけど・・・。」
瑞木からもお褒めをいただいて自分の周りに天使が十体くらいいるのが目に見えて分かる。
だが土屋さんの言うことは間違いではないしむしろ当たっている。確かにここは強いとは言っても去年の成績は県で準優勝。十分強豪校だが、全国優勝まではまだ遠い。
「俺はハンドボールに人生かけているわけでもねえし、それに下克上ってのがたまらないんだよ」
これは、俺の本心だった。この日本という国は、サッカーやバスケのように○○リーグってのがない。だから、ハンドボールだけで生きていくのは、不可能ってことだ。それでも、全国ベスト16のプライドていうものはある。どうせやめるなら他のやつをぶっ倒してからやめる、と決心したのだ。
「んんん、なんだよ、お前ら。楽しそうにしやがって。俺も混ぜろよ」
楽しく四人で会話を弾ませていると地面から不可解な声が聞こえてきた。一斉に声が聞こえた方を振り返ってみると、残念イケメンが息を吹き返し起き上がってきただけだった。
「「ひいぃ・・」」
そんな二つの悲鳴と共に軽めの戦闘態勢になる一人。瑞木が本当に戦闘なんてできるか知らないが、みんなして海への仕打ちがいよいよやばくなってきた。
「おっとまてまて。もう海を潰さないでくれ。今からみんなに大切な話をするから。」
これ以上海を、死んだままにすると、一向に次の話題に進めなくなってしまう。頼むから、海を人として接してやってくれと俺が思うのも変だがさすがにこれ以上は目も当てられない。
「何ですか。灯さん。急に大声出して」
「そうだよ、灯。まさかこいつともうできて・・・」
「たまるか!ったく、月、バカなこと言ってんじゃねぇよ。」
「なに、灯、大切な話って?」
三人とも改まって俺を見てきた。このクラス、いやこの学校ののトップ美少女の三人がみんなして俺の方を向いていると考えると、俺がいつ他の男子に刺されてもおかしくないなと悟ってしまう。
「うん。それはだな・・・」
「アカペラ部を新しく作ろうと思う」
「「・・・ぇ??」」
「うん。いいと思う」
「へー、いいんじゃない」
俺が「実は女なんだ」と告白したときくらいの驚きを見せた土屋さんと海。二人は俺が何を言っているのかまだ頭では理解していないだろうと言うことが明らかだ。
そして、俺がこう言うということをわかっていたようなリアクションをした、月と瑞木。二人とも快く賛成してくれた。
「・・うーん?それはアカペラ部ってのを新しく作るからぜひ入ってくれってこと?」
頭の中を上手く整理できた土屋さんは俺の誘いを考えているようだ。
「そういうことだ」
「それで二人は知ってたの?」
「当然よ!」
「灯は昔から音楽というか歌うのが好きだったの」
土屋さんに聞かれた二人はその問を予想していたかのごとく即答した。
「で、ど、どうすんだよ灯?」
海は、見るからにまだ動揺を隠しきれないおらず声を震わせたまま話している。こいつにしては珍しくマジの顔をしている。
「どうするって何を」
「いや、俺でもそんなことしないのに、一人でやる気かよ」
「「「はあぁ?」」」
俺と月と瑞木のハーモニーがこの辺りに響きわたった。俺は新しい発見をしたのかもしれない。海は、ナルシストということは知っていた。だが、今のでわかった。こいつは〝バカだ〟。さっき、瑞木が大事なことを言ってたじゃないか。やはりここは言い直す必要がありそうだ。
「いいかバカイ。新設には五人以上の部員が必要なんだ。さて、ここで問題、ここには何人の人がいるでしょうか?」
「おいてめぇ。バカイって言ったの取り消せ」
「はいはーい」
月は俺の質問に対して高らかに手を上げ、自信満々の笑みを浮かべている。
「はい、月」
「無視すんじゃねぇ!!」
「四十一人!」
「違いますよ、月ちゃん。先生も合わせて四十二人です」
(こいつらド天然じゃねえか!!知ってたけど・・。いや、俺の質問が悪かったのか?!)
このグループには、まともなやつが一人しかいないのは危機的状況だ。
「・・お、おい・・瑞木・・・頼む・・」
「はいはい。つまり、ここにいる五人でやるってことね。」
あきれた様子で言う瑞木はいつもこいつらの暴走を止めてくれる。【こいつらにお前は含まれるよな】【当たりめえだろ】(・・くそっ。何も言い返せない)
「さっ、さすが瑞木だ。その通り!」
「はあ?冗談じゃねえよ。俺もう部活決まってんだよ」
海はようやくわかったようだが納得はしていなそうだ。だがここで詰めの一言。
「だ・か・ら、兼部オッケーだって言ったじゃん。そんな時間とらねえからさ」
「だからって・・・。俺、歌だけはそんなに上手くねぇし・・・。」
これは予想していなかった。海がついに消極的になった。やはりこいつにも弱みはあるのか。今のうち握っていて損なんてないだろうと考え、俺の脳内に瞬時に記憶した。
だが、俺もそこまで意地悪ではない。念のための記憶だ、そんな悪いことには使う予定は無い。
今重要なことは部員を集めることだ。海を入部させたい。その一心で俺は海に言った。
「えっ。もったいね~な~。海って、顔マジでイケメンで、日本で一番って位にルックスがいいのに、歌がダメなのか~。へー、歌がね~。まじもったいねえなー。歌上手かったらもっと有名になれんのにな~。まあ、本人がやりたくないって言ってるならな。じゃあ、しゃぁねえな。他の人誘うわ」
言い終えると周りの女子三人が俺をアジの開きのような白い目で見つめていた。これは、まさか俺の今の言葉に惚れて・・・。
「「「はぁ~~」」」
(ぐほっ!)
月の声って毎回食らうごとにダメージ大きくなってる気がする。ため息だけでこれだから、海はもっとやばかったんだろうと同情してしまう。
「おっ、おい。そんなに大きなため息つくなよ。俺だってどうしようか色々迷った結果の行動なんだよ。でも、この方法がこいつには一番いいと思ったんだよ。少しは大目に見てくれって」
(だから、その目を瑞木にされるとめっちゃ心にくるから、やめてくれー!)
「べ、別に俺はやりたくないんだけど!!と、灯がどうしても、って言うなら入ってあげてもいいけど・・。」
(や、やめろーーー!!その、ツンデレテンプレ発言!!お前がやると、くそ気持ち悪いから~!!そういうのは、女子のかわいい子がやるっていうお約束なんだよーー!!)
【追加ダメージ】【灯。HPやばいぞ】(・・俺が一番わかってるわ!!)
と心の中で想おもっていると
「なになに、あの海っていう男子。」「なんか、かわいいんだけど・・・。」「えっ、あの、かっこよくてかわいいとか・・・。もう神じゃん!!」(・・・なんでだーー!!)
クラス中の男女問わず、生徒たちが、ガヤガヤと海のことでうるさくなっている。いや、普通はそこ引くところだろ、と思うのは俺だけなのか。ここまでの状況的に、周りの奴らの好感度、こいつに負けてる気がする
まてまて落ち着け。この三人は、大丈夫だろう。なにせ本当の海を知っているからな。
「海、これからそっちのキャラでいなさい」
「先ほどの、あなたよりましです」
「そうね。これは、義務ね」
(おわった。こいつらまでこいつの味方かよ。そりゃ-ね、さっきのキモシストよりはいいけど・・・。ねぇ・・。こんな美男子が・・。)
「俺別に、そんなこと考えてねぇし!俺にはかわいいよりカッコいい方がふさわしいからな。」
(おい、やっぱこいつ何も考えてねぇな。そ・れ・も、ツンデレ発言なんだよ!)
「さっきから、あんたたちピーチャラうるさいわね。あれのどこがいいの・・よ・・。・・・あ」
俺が一人で悶々と考えていたところ向こうの方の一つのグループから、我が強そうな女子の声が聞こえてきた。いや、正確に言うと、クラスにいた人全てがそちらを向くほどの音量だった。この女子グループは、それに気づいたらしくどうしたらいいかわからず固まっている。が、俺としては凄く安心している。
(よかったーー。俺にも味方がいたんだ)【おい、灯。そこじゃねえって】【あいつの高校生活終わっちまうぞ!】(・・・やっべ、そうだな。やっぱ、なんだかんだ言っていいこと言うじゃん)
「だよなー、こいつのどこがいいのかさっぱりだよなー。瑞木たちがドウカシテル。」
「「なんですって~~!!」」
思惑通り、天然コンビは俺の煽りに乗ってきた。ここで場を固まらせては変な間ができてさっき爆弾発言した女子がクラス内での居場所がなくなってオワルパターンだったからな。ひとまず何事もなかったことにするのが最優先だ。
って、何か、そのグループから発言者らしき一人立ったぞ。見た目として、髪はロングでクルクルしていて、少しピンクがかっている。(あれ?この学校髪染めんのオッケーなの?)顔立ちも非常に綺麗で少し化粧もしているように見える。足はスラッと長い、というのもスカートが他の生徒よりも短いからそう見えるのかもしれない。それでもバランスが整っていていかにも美脚だ。爪なんかも、色はついていないが、なんでかキラキラしている。
(・・これは・・・・〝ギャル〟・・か。まさかのギャル系美少女か。俺人生で初ギャルだ!えっ!それに、こんな、かわいい子!やっべ、テンション上がってきた。)
だが、どこか違和感も感じる。
「おい、灯。お前、いい加減にしろよ」
俺が大切なこと考えてたところ、海の一言でこの辺の空気が淀んだ。
まさかとは思ったが見る限り、海、ガチでキレてる。これはまったく想定してなかった。今海が入ってくると逆効果なのは明確だ。「今のは演技だから!!ゴメンって、あとでラーメンおごるから~~」って頭で考え、目と心で死ぬ気で伝えてたら、俺の思いが届いたのか納得した顔ですっと身を引いてくれた。さすが海だ。こいつはバカだが、空気を読むことには長けている。これは今が勝機だと思い、ここまで冷静に動いている瑞木に目をやった。そして、瑞木もそれを察したのかこちらを向いてコクっと頷いた。
(さすが瑞木サン。わかっていらっしゃる)
「ねぇ。あなたもなんだかんだ言って、この人のことかっこいいとか思ってるんじゃないの?」
(・・あ、あれ?瑞木サン)
瑞木が珍しくアホな質問を投げかけている。こいつがぼけるとは、なにか瑞木なりの深い理由があると考えるのが自然だろう。
なぜなら瑞木には〝目〟がある。特殊能力があるわけではないが、それでも普通の人よりは、発達しているらしい。どう発達しているかはわからないが、こいつが今日に限って、そんなバカをするということはないだろう。
「は、は、はあぁー!!!何言ってんの?!?!あ、あたしがそんなこと思ってるわけないでしょ?!そ、そいつを、か、か、かかかっこいいなんて?!?!」
(なぜだーー!!この世には、俺の敵しかいないのか!俺を裏切ったな貴様!!)【元々お前の味方じゃないぞ】【一人で盛り上がるな】(・・いいじゃねえか、少しくらい)
こいつの今の発言で気づいたことがある。ギャル系の美少女だと思ったら、にわかギャルのツンデレだということだ。一瞬でも期待した俺がバカだったと思う反面、ギャルになりきれていないギャルっていうのもなぜかグッとくるところがあるという新たな発見もした。
「ねえねえ、あなたも彼をかっこいいと考えてんの?」
「私たちは、たださっきよりはましと言っただけですから。いいとは言ってません」
「否定はできませんが肯定は決してできません」
三連続で強烈パンチを喰らった偽ギャル美少女はその場で固まってしまった。何かを考えているように見えるが、口を開いくことはできないだろう。俺が彼女だったら逃げ出してるからな。俺はこの子がしゃべりやすいように、この沈黙を解いてあげようと思い言葉を発した。
「君はあれだろ。ホントは海のことかっこいいと思ってたけど、恥ずかしくてつい逆のことを言っちゃったんだろ?」
「な、なっ、なぜ私が・・・・」
と言い始めた瞬間、瑞木が人差し指を一本立て、それを彼女の口元に持ってきた。そして、小さく首を横に振り、クラスのみんなの方をさりげなく指さした。こいつなりに、俺の考えを解釈して、協力してくれているのだろう。
彼女も周りを見渡して瑞木の意図気づいたらしく、はっと顔を上げになり
「・・・ば、バカ。そんなこと素直にいえるわけないし。」
と一言放った瞬間、クラスのピリピリした空気感が薄れていった。彼女が、どう反応するか皆も気になっていたらしい。・・よし、これで一安心。こいつの高校生活が初めからのほうからオわることは避けられた。瑞木のおかげだぜ。さっきは全然違う方向に走ったがおそらく瑞木はここまでの流れを考えた上で行動していたのだろう。やっぱ、こいつが・・
「やっぱ、俺のかっこよさには誰にも負けぬようだな。」
(最後もで言わせろヤーー!!海の言葉は一つ一つがいらついてしょうがない!)
「「「「ッチ!」」」」
女性陣四人の舌打ちが、美しい(?)ハーモニーを作り上げた。
(お前ら、もう十分仲いいじゃねえか。これも海のおかげか?・・・ったく、海は何も学んでないらしいな。まぁ、放っておこー)
(・・・んん?・・あ、あれ??なんだろう、この違和感は)
と頭によぎった瞬間から俺の脳内で一つの回路ができあがった。またその瞬間から抑えきれないほど俺の心がドキドキしてグツグツしている。
自己紹介の時からなんだかこの女子には既視感というか彼女の名前に驚いていた。俺は早く話しかけたいとは思っていたが彼女の周りとかに迷惑かけたくなかったし、なにより俺の心も保もたなかった。
「よう火花。久しぶりだな」
「うん。灯。久しぶり・・。」
「「「・・え、ええーー!!」」」
この場にいた俺と火花以外の人が驚きの悲鳴(?)をあげた。
(マジか・・)彼女の名前を呼んだ俺も内心結構ビビってはいる。あの火花がここに、この学校にいること自体が思ってもいなかった。自己紹介の時、名前を聞いた瞬間から気になってはいたが、俺の知ってる火花とは全然見た目が変わっていて、確信が持てなかった。だが、先ほどの会話を聞いて納得した。彼女はたしかに小夜火花さよひばなだと。
(マジで夢じゃないよな!!記憶と全然見た目が違くてビビったぜ。雰囲気変わったとはいえ早く話しかけておけば!気づいてたらもっと早く仲間になれたというのに・・・。・・ふっ・・ふふ・・すげーすげーよ、すげーよ。だって、俺、あの、火花と再開しちゃったんだから)
「あああ!!この子あの時の!!」
「まあ、言われてみればわからなくもないわね」
月と瑞木も同じく彼女が誰かわかったらしく、すっきりとした表情をしている。
「うん。私もあなたたちは知ってるわ。私は小夜火花。よろしく。」
「森瑞木。よろしく。」
「私は神井月。よろしく!」
火花たちは軽めにお互いに挨拶を交わした。
「それでさ、なんで灯たちはお互いのこと知ってるの」
そこの所は瑞木も疑問らしく月と一緒になって俺を怪しい目で見てくる。
「それに互いに名前呼び。これは怪しい。」
さっきもそうだったが、瑞木は本当に人の弱点をよく突いてくる。
「別になにもないって。あの時少し話しただけだって。」
超リア充(オレタチ)にかかれば現実も異世界もイージークエストだぜ!! @TetsuP27
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