第6話


「す、すげー」


 月が紹介してくれた店の雰囲気に思わず声が漏れてしまった。店の造りは全体的に木でできていて、ログハウスみたいな感じでアメリカンな一面もある。カウンター席とテーブル席に分かれていて、テーブル席もイスの種類が一つではなく、普通の食卓のイスから少し低いイスと様々な種類がある。また、店にはポップな曲が流れていて、いかにも高校生の雰囲気に合っている。今日開店ということもあってか店内も大変賑わっていてそれも楽しそうな雰囲気にしている。周りのお客さんは、おそらく先輩であろう同じ浦峰生や家族連れ、カップルやお年寄りの夫婦など幅広い年齢層が見られる。


 店で軽い時間待っていると店員さんに呼び出されてテーブル席に促された。


 メニューを見てみると、店のおすすめはクリームが特大にのっているパンケーキで周りのお客さんもそれを注文している人が多い。ページをめくってみると、若者がいかにも好きそうな豪快なハンバーガーや爽やかそうなカレーライス、おやつにピッタリなサンドイッチなどもある。


 みんな決まったということで店員さんを呼びそれぞれ注文をした。俺と海はハンバーガーを頼みセットで付いてきたアイスコーヒー。女子達はそれぞれ違う種類のパンケーキを頼みシェアするつもりらしい。三人ともアイスカフェラテをセットに付けた。




「月、よくこの店のこと知ってわね」


 瑞木は美味しそうなカフェラテを飲みながら、隣に座っていた月に言った。


「あ~、それは、おばあちゃんが教えてくれたんだよね~。この辺に新しくできるって」


「月ちゃんはおばあちゃんと一緒に住んでいるんですか?」


 月の返答に対して気になる点があったあやねは首をちょこんとかしげながら月に言った。


「うん。両親の家から通うと遠いから、学校の近くに住んでるおばあちゃんの家から通ってるんだ~」


 月はこの言葉通り祖父母の家から通っていると学校で言っていた。瑞木はそれに比べたら少し複雑で聞いたけどあんまり理解できなかった。俺らが前住んでいた土地はやはり交通の便が悪かったのだ。隣の隣の街なのに二時間はかかる。俺ら三人がこの地に身を移したのはなにもおかしくはないだろう。移したうえで偶然また同じ街とは予想もしていなかったが。


 ところで海はどこに住んでいるのだろう。一月前まで海外にいたらしいので単純に気になった。


「なあ、海はどこに住んでいるんだ」


「よくぞ聞いてくれた。俺はアメリカに住んでいるグランドファーザーの土地が日本のこの辺にあるらしくてね。そこに俺の両親が家を建てたんだ」


「「・・?」」


 月とあやねが理解したようで分かっていないのが見える。


 俺も理解できんが、多分本能的に理解したくないのだろう。理解してしまったら負けを認めざるをえないから。【それがわかってんなら】【理解してんじゃねぇか】(うるせっ。してねえものはしてねえんだ。)


 だが、ただ一つ、こいつの家が金持ちだということはわかった。


「お金持ちがこの辺に土地を持っているなんて不思議ね。まして海外の方かたが」


 確かに瑞木の言うとおり不思議に思える。このあたりは軽井沢のように別荘地ではないのだが、なにか特別な理由があるのだろうか。


「それはだな、俺の家族を紹介しながら話そう。おっ、グッドタイミング」


 っと、ちょうどいいタイミングで頼んだ料理が運ばれてきた。おやつのというが想像以上のボリュームだ。


「まず俺の祖父母だけど、グランパーは日本人、グランマーはアメリカ人だ。その娘の一人が俺の母親で父親はアメリカ人だ。その長男が俺というわけだ。ついでに言うと兄弟は弟と妹が一人ずつだ」


「そっ、サンキュ。あ!ヤベー!これうめえ!」


「ふんふん。・・っおいし」


「ああー!見てみてこの写真、めっちゃエモくない?」


「とってもおいしいです!」


 海は一人で何か語っていたが俺は半分くらいしか聞いていなかった。それは瑞木も一緒だろう。目の前にこんなにおいしそうな料理が並べてあって夢中にならないはずがない。だが後の二人は海の話に耳を傾けてもないだろう。


「真剣に話を聞け!」


 海はとうとう怒りだし怒声を上げた。


「そっちが話せと言ったのだろう!」


「いや、ごめんごめん。おいしいくて夢中になっちった」


「私は聞いてたよ。つまり海はお金持ちなんでしょぉ」


 月は自信満々にずれたことを口走っていた。


「もう少しわかりやすく教えてくれる?なんでこの土地なのかとなぜ引っ越してきたのか」


 瑞木には強くいけないようで、一瞬戸惑った海はまた説明を開始した。さすがに二回目のシカトはうるさくなるからやめておこう。


「だから、俺の両親は日本人とアメリカ人のハーフと純血のアメリカ人で、俺は四分の三がアメリカの血ってこと。なんで引っ越したかははシンプルに両親の仕事の関係だ。なんでこの辺の土地なのかは、グランパーが昔、その土地に住んでいていまだ手放していなかっただけらしい」


「ふ~ん。まあなんとなくわかったわ」


 月はリスのようにパンケーキを頬張りながら言った。


「海は今は五人で日本に来ているのか?」


 瑞木は海の話に興味があるのか質問が止まらない。


「そうだね。おば・・んんん!グランマーも行きたいと言っていたが、グランパーが必死に止めていたな」


(言い直さなくてもいいと思うのだが・・・。)


「そう、ありがとう」


 瑞木は海に対しても礼儀正しく感謝を伝え食事に戻っていった。目の前の土屋さんはというと


「・・ヤバッ。おいしっ」


 と、もう興味を無くしたのか目の前のパンケーキに熱中している。


 俺は不意に海の方を見てみる。海を見るのに特に理由など無かったが、


(・・イラッ!なんでこいつこんな外見だけはイケてるんだよ!!)




 なんやかんやで始まった俺の高校生生活。待ちに待ちすぎたくらい待った俺の青春。もうやりたいことがありすぎる。にしても、初日から色々ありすぎた感がある。これからの期待感と安心感が一緒に俺に響いている。


 運良く再会できた月と瑞木、そして今日、海と土屋さんとも友達になった。海はあんなやつだが、多分根はいいやつなんだと思っている。土屋さんは少し行き過ぎな部分もあるが、場を楽しませてくれる大事な存在だ。現状としては男二対女三だから、これからもう少し人を増やしてバランス良くして楽しく生活ができればいいなと思っている。


(よし、残された期間はあと三年しかないんだ。やることをやるだけだ。)


 そう胸に誓って俺は眠りに落ちた。


(あと、遅刻はもうやめよ。)

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