エピローグ
彼女が笑っている。良かった。私が初めて彼女を見たときは屋上で、今にも飛び降りそうな勢いで手すりの向こう側に立っていた。目は暗く、濁っていた。本当は、こんなことをしてはいけないのだが、私は彼女のことが見ていられなくて声をかけた。
「なぜ、死のうとする。」
彼女はいきなり頭に響いた声に少し驚いた表情を見せたが、またすぐに暗い表情に戻った。
「…私は、生きている価値なんてないの。高校では親友のことを傷つけた。大学でも、人のいじめを見て見ぬふりをしていじめを止められなかった。私は、生きていても人に迷惑をかけるだけ。死んでも心配する友達はいない。だから、死にたい。」
「本当に死んでも良いのか。死んだら何か残るのか。私は、自分から死ぬというのは自分のことしか考えていない、周りが見えない人だと思っている。どうして周りを見ない。もしかしたら心配する友達がいるかもしれないだろう。決めつけるな。」
「そんなこと、あなたに言われたくない。私は死にたいの、邪魔しないで。」
それほどまでに彼女の意志は強かった。それなら、と私はある提案をした。
「お前は、自分の選択を後悔しているのか。」
「しているに決まっている!あの時、私がこういう行動をとっていたら…」
「それなら、書き換えてみるか。過去のシナリオを。」
それを言うと、今まで暗く濁っていた彼女の目に少しだけ光が灯った。
「そんなことができるの?それなら、書き換えたい。」
「良いのか。もしかしたら、書き換えた後、後悔するかもしれないぞ。」
「それでも、少しでもこの苦しみから解放されるのなら。私はやる。」
「…分かった。目を覚ましたら、きっと体が、自分が書き換えるべき本がある場所まで連れて行ってくれるだろう。条件は1つだけ。書き換えるシナリオは自分が考えろ。自分が最善だと思う選択をするのだ。」
「分かった。」
そういうと彼女は、目を閉じた。私は、彼女をあの空間へ送った。戻ってきたとき、彼女はどのような表情をしているのか、私は彼女の最善の選択を見守ることにした。
自分のことよりも他の人を大切にするのはよいことでもあり悪いことでもある。自分をいつか見失ってしまう前にもう一度、自分と向き合ってみよう。もし、見失ってしまったら、今から「自分」という性格を作ろう。昔の自分ではない、今の自分は何が好きで何が嫌いなのか。何が得意なのか。そうして作った性格を今度は大切にしながら今を生きよう。
例え辛いことがあっても、周りを見ることだけは忘れないで。自分がいなくなって悲しんでくれる人が必ずいるから。
自分のシナリオ レイ @juo-0608
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます