終. 像

「……あの? もしもし? 外に出たいんですけど…………えっと。大丈夫ですか?」

 唐突な男性の声で、我に返る。

「…………えっ!? あ、ご、ごめんなさいっ」

 見るとそこは、元いた図書館の出入口であった。

 あっちに迷い込む前、というかにまで時が戻されている……のか、そもそも時は進んでいないのか。

 瘦身の男性は、怪訝そうに私に尋ねた。

「なんかそこで固まってたみたいですけど、具合悪いですか?」

 いえ違います、ご心配おかけしました、と言って彼のためにドアを開ける。丁寧にもお辞儀してくれて、こころよい人だった。

 彼が背筋を伸ばしてスタスタ去っていくのを、扉のガラスに手をついたまま見送る。

 遠く小さくなっていく男性をなんとなく眺め続けていたのだが、突如、ガラスに映った自分、さらに言えば自分の左手にピントが合う。

 今日といつかの変な出来事が、幻ではなかったのだと主張するように、リボンはきちんとそこで揺れていた。

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閉架書庫はそっと囁く 文月柊叶 @Shuka_Fuzuki

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