12. 懐

「見つけろって言われても、一体どこ探したら……」

 幼い頃に髪を結っていた、かの二対のリボンの、片割れ。

「そもそも、どういうやつだったのかよく覚えてないしなぁ」

 片方が失われたことによって不完全になってしまったリボン。私は正直それが気に入らなくって、どこかに仕舞い込んでしまっているはずだ。

 カウンター内を巡ると、ちんまりとした金庫っぽいものを見つけた。扉には四桁のダイヤル式南京錠がついている。

 ……うーん、どんな番号を入れたら開くだろうか。

「ああ、そうだ」

 ふと思いついて、先ほどのメモをもう一度見る。――三月二日が、創立記念日。

 ダイヤルを0302にして、ドキドキしながら手をかける。

「わ、開いちゃった」

 ランタンで内部を照らす。するとそこに――ふんわりした黄緑色のサテンリボンが、他の忘れ物たちの上に、横たわっていた。

 ああ。そうだった、これだ。おじいちゃんが私に買ってくれて、お母さんが私に付けてくれた、あのリボンだ。。

 もうなくさないようにと、左手首に結び付けた、その瞬間。


 ――よかった。みつけたんだ。じゃあ、もう、かえる?


 私は、今になってやっと――この声の主の目的を知った。もしや、私が迷い込んだあの日からずっと、返そうとしていたのかもしれない。

「……あ、ありがとうっ…………!」

 善意への感謝と、緊張の緩和と。きっとそういうものがごちゃ混ぜになったからだろう、私は胸が詰まって、これしか言えなかった。

 私の言葉に返事があったのかはわからなかった――視界がどんどん歪んで、再び暗くなっていったから。

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