11. 至
『マンチニールのお礼よ』
そう言って女王は、鍵の在り処らしいと彼女が聞いているところを教えてくれた。
『ある者がそう言っていた気がするわ』
女王を本棚に戻し、イグアナに別れを告げ、私は女王の言う通りに、赤い本棚の最下段を探した――その中で一番古い英英辞典を開いてみると、中がくり抜かれていて確かに鍵が入っていた。
さて、迷路を抜けたその果てに、扉が佇んでいた。鍵をスッと挿し込む。カチ、と頼もしい手応え。
――やっとここまできたんだね!
あ。また、あの声。私はあの人に待たれているのだろうか。
けれども、私が扉から出たそこは、やっぱり無人だった。レファレンスカウンターだというのに。
ふつうなら、確かにレファレンスカウンターの近くには出口がある。でも、ここでもそうかはわからない。だから、気を緩めちゃ駄目……。
行儀悪くカウンターに腰掛け、それからカウンターの内側に降り立つ。メモが散らばっていたり、空のインク壺が転がっていたり。
メモを手に取る――〔八月二十日 持ち主不明 麦藁帽子〕、〔延滞者 電話連絡入れる〕。事務的なものばかりだ。すると。
――リボン、あるよ。
「え……」
リボン? リボンって、何の? 私の? まさか、そんな遥か昔の話じゃあ――。
「あ、あの……。あなたは、どこにいるの? 姿を……見せて……」
蚊の鳴くような弱々しい声で、見えない相手に向かって話しかけてみる。どこを向いたらいいのかも、見当がつかない。
――それは、むり。
背中がぞわ、とした。今までは遠くから呼びかけてくるような感じだったのに、背後から声がしたのだ。振り返ったら誰かいそうなのに、でも気配は全くしない。とても不気味だ。
――ちゃんと、みつけてね。
今度は、頭の中で直接響いたように感じた。ただただ気持ち悪くて、むしろ不愉快だった。
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