10. 魔

『――やるじゃないか、嬢ちゃん、全部正解するとはな』

 はあ、どれも難しいものばかりだった。ちっちゃな脳味噌に、よくもぎっしり知能が詰まっているものだ。

「それで……マンチニールなんだけど……」

『ああそうだった、あのなぁ、俺は触れられるんだ』

「え? でもあれ猛毒なんでしょ?」

『ほとんどの生き物にはな。でも俺、あれ食えるんだ。旨いぞ』

 食ってみるか? とイグアナは笑った。

「いや、遠慮しとく。あなたは、というか写真は、自分自身の写真以外にも入りこめるの?」

『できるぜ、さっさと行こうか、あの女はお前を待っているんだろう?』


 

 女王のところに戻ると、彼女は御機嫌斜めだった。

『長いことふらふらしていたのね。どこかで死んでるのかと思ったわ』

 極端だな、この人……。イグアナが随分と常識的で人間くさいものだから、女王の異質さが際立っている。

 イグアナは女王に対して、私に話しかけるのと同じように話し始めた。

『おめぇか、マンチニールが欲しいってのは』

『誰よあんた』

「えっと……女王、どうかあまりお怒りにならないでください。この方がマンチニールを取って来てくれるそうで……」

『そうなの? ふぅん、じゃあさっさと取ってちょうだい』

『あいよっ』

 植物図鑑のマンチニールのページを、床に広げる。するとイグアナはするん、と砂上にごろごろと実が転がる写真の中に入り、あっという間にマンチニールを二つ抱えて出てきた。

『ほれよ、一個は俺が食うぜ』

 むしゃむしゃと、イグアナは本当にマンチニールを食べた。その横で、女王はうっとりと微笑んでいる。

『マンチニールがやっと手に入ったわ……これで研究ができるわ』

 ……え?

 私は自分の記憶を総動員させた。

 グリムヒルド。女王。毒林檎。

 もしかして、と思って女王の本を手に取る。

 

 題名は、『白雪姫』だった。

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