9. 問
『――マンチニールのページ自体、警戒すべきかもしれないわ。覗くだけならまあいいでしょうけど。まあいいの、あなたに頼んだところで叶うとは到底思わないし、植物図鑑はしまってしまえば?』
「いえ、それでも……女王のお願いですし」
『気をつけることね。わたくしを開いたままにされたら困るから。何があっても、ちゃんと本棚にわたくしを戻しなさい』
女王にとって何よりも大切なことは、「戻されること」のようだった。それもそうだ、ここに開かれたまま放置されてしまえば、彼女は無防備に虚空へと晒し続けられるのだ。
「少しここらを回ってみます」
女王にそう告げ、私は付近を歩いた。
すると刹那、視界の端で濃い灰色のものが動くのが見える。不思議に思って近づくと――。
「……イ、イグアナ?」
床にお腹をぺたーっとつけて、のんきな表情をしている……ように見える。
「さっきはコウモリ、今度はイグアナって……ここって、図書館じゃなくて動物園なの?」
女王からも遠いし、反応する人なんて誰もいないと思ったのに――私が
『まさか! みんなが好き勝手にうろついてるだけさ!』
「喋った!?」
ケラケラと楽しそうに、イグアナは話し続けた。
『何だい嬢ちゃん、さっきだって誰かと話していたじゃないか』
「だってあなた、本の外にいるのに話しているじゃない」
こう言った直後、私は、「本の中でなら話していてもおかしくない」という認識をしているということに気がついた。そんなことは決してないというのに。
『もしかして、そいつは絵だったのかい? 俺みたいに写真ならこうやって出てこられるんだがな! 可哀想に、絵はそれができないんだ』
そうなのね、と相槌を打つ。確かに、絵が出てきてもペラペラしてそうだわ……なんてぼやっと考えていると、イグアナに咎められた。
『嬢ちゃん、あの高飛車な女は、放っといて大丈夫なのか?』
「あ」
ここに留まっていても仕方がない。でも戻ったところで何も変化はない。どうしよう。
「……ねぇ、マンチニールって知ってる? あの人、マンチニールが欲しいんだって。でも私にはできない。どうしたらいいと思う?」
『ふむ、なるほどな。……じゃあ、ちょっと俺の暇つぶしに付き合ってほしいね』
イグアナは私に、マッチを持っていないか尋ねた。暇つぶしって、何するんだろう。私は早くここを出たいのに。
「えっと、あったあった」
ポケットを漁ると、ひしゃげた極彩色の小箱が出てくる。
『俺はパズルが好きなのさ』
そう言って彼は器用にマッチ棒を並べて、いくつかパズルを出題してきた。
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