理想と現実

@riame222

理想と現実

崩れた建物が、街のあちこちから粉塵を上げ、血走った目や鋭い鉤爪の化け物が瓦礫の間で事切れている。瓦礫に腰掛けると、ほっとして自然と大きなため息が出た。持っていたナイフが地面に落ちる音だけが響く。今日こそ死んでしまうと思った。この街は、人が住める場所では無い。昔は普通の、静かで平和な町だった。いつからか、街は魔獣の襲撃に晒されるようになった。弱い者から魔獣に食われていき、今ではこの街で自分と彼以外の生存者を知らない。

「今回のは大変だったな。」

彼は僕の隣に座ると、大きなため息をついた。彼はこの街にいる、僕の唯一の友人だ。この街が襲撃され始めた時から、共に助け合って戦って、生き延びてきた。

「昔、本で見たんだ。有り得ない話だけど、この世界は神様が作ったもので、ゲームのごとくコントロールして、支配してるんだってさ。俺のする事も神様に決められたことで、もし死んだとしても、死ぬ前にリセットされて、また神様は俺達を操作して楽しむんだとさ。もし神様が本当にいたら、たまったもんじゃないよな。俺達の今までの努力が、神様の気分で決められてるなんて信じたくもない。」

「急にどうしたんだよ。」

「でも、俺は神様を信じてる。そいつが世界を作ったんなら、この街を元に戻すことなんて簡単だろ。だから、俺はただ信じてる。きっとまた俺らは静かに暮らせるって。」

「…まあ、もう神頼みでもしないと、この世界じゃ生きてけないよな。」

魔獣は日に日に増え、貯めていた食料も無くなってきた。今まで努力を重ねて生き延びてきたが、もう神頼みするしかないのかもしれない。理想は、ただ平穏な生活を送ることだ。神様も存在しない世界であって欲しい。しかし、現実はそうもいかない。毎日命懸けで戦い、存在も分からない神に縋るしかなくなってしまった。

「待て、まだいるぞ」

彼が突然立ち上がったかと思うと、瓦礫の間から魔獣が飛び出してきた。不意打ちだ。応戦する間もなく、彼が魔獣に首元を噛みつかれるのが見えた。彼の元へ走り出そうとした時、僕は転んだ。後ろから魔獣に押し倒されて転んだことを、僕は程なく理解した。しかしその時には、僕の視界は赤く染まり、暗転した。


「昔、本で見たんだ。有り得ない話だけど、この世界は神様が作ったもので…」

どこかで聞いた事のある話だ。彼は話し続けている。何か違和感を感じるが、何故なのか分からない。

「神様ねえ…」

目の前には先程と変わらない、崩れた建物が広がっている。魔獣も倒した。もう安全であるはずの場所なのに、やけに違和感を感じる。そして、嫌な予感がする。ふと、自分の手を見ると、ナイフを握っていることに気が付いた。

「待て、まだいるぞ」

僕は、感じていた違和感の正体に気付いたような気がした。彼の言ったことは、案外本当のことなのかもしれない。彼は魔獣に囲まれて、今にもやられそうだ。操られているとか、リセットされてしまうとか、そんなもの、信じたくもない。しかし、僕は神を信じよう。そして、それを壊そう。僕は空に向かって剣を投げた。剣は真っ直ぐと青空に飛んでいくと、ガラスのように、ヒビが入るのが見えた。僕の理想は、現実になるのかもしれない。

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