居眠り中に異世界転移した僕はとっても綺麗な女神様からS級スキルをもらい、意気揚々と異世界に降り立つ。そして……
虹音 ゆいが
自分で言うのもなんだけど、僕はとっても合理的な人間です
「以上で説明は終わりとなります! 何か質問はありますか?」
彼女ははきはきとした声でそう言った。
良く分からない白い空間。そうとしか表現しようのない場所に僕と彼女は立っている。いや、浮いている。
彼女は女神だと名乗った。確かに怖いくらいに綺麗な女の人だ。僕の想像できる『世界で一番の美女』を軽々と凌駕してくる美しさ。この世のモノとは思えない。
一つだけ確実に言える事は、これがただの夢じゃないって事。
「えっと……君の言う異世界転移については大体理解できたと思うよ」
要は『異世界救ってこいや』って話。それ以上でも以下でもない。
この空間は、その前準備をする為の場所みたいだ。何の説明もなく異世界に放り出さないだけ親切、と言って良いのかな。
でも、それならもっと屈強な人間を連れて来ればいいのに。なんで運動部どころか文化部所属ですらない、万年帰宅部の僕なんかを選んだんだか。
「だけど、一つだけ聞いていい?」
「はい、なんなりと!」
「僕には世界を救うのに役立つS級スキルが与えられる、って言ってたけど、S級って最上級って意味だよね?」
「はい、そうなります。平たく言えば最強スキルですね!」
「最強かぁ、すごいね。でも、最強なんて概念、人によって捉え方が全然違うと思うんだ。だから、もう少し詳しく教えてくれるかな?」
多分、このスキルが僕の命運を左右する。そう感じて質問をしたわけだけど、女神様はちょっと驚いているようだった。
「そこについて訊く人は珍しいです。さては結構優秀ですね? あなた」
「それはどうも。女神様に言われるなんて光栄だよ」
まぁ学校の成績はいつも学年上位ではある。でも優秀と言うよりは問題児な部類だけどね、僕は。
毎日完璧に予習してるから、授業なんて聞く価値ない。だから家に帰ってからの予習に備えて授業中は大体寝てる。
当然教師からの心証は最悪で、今日もいつものように放課後に生徒指導室に来るように言われて。めんどくさいなぁと思いつつ帰り支度をしてたらちょっと居眠りをしてしまい、気が付いたらこうして女神様とご対面だ。
「ではご説明いたします! スキルについてですが……正直、私にも良く分かりません」
「……はい?」
「スキルの内容は、私が決めているわけではないんです。転移した人が『異世界生活を乗り切る為に必要な能力』として無意識のうちに考えたモノを、私がスキルとして実現できるようにしてあげてるだけで」
「へぇ……随分と曖昧なんだね」
「あなたも言ったじゃないですか。強さの概念とか価値観なんて異世界ごとに違うんです。私の考えた最強スキル! を押し付けられたけどどこが最強だよ全然使えねぇ、ってなったらイラっとするでしょう?」
まぁそれは確かに。相手は仮にも神様なんだし、人間の理解を超えた能力を与えられても持て余しそうだ。
「つまり、この事態を打開する為に必要な能力、として僕が無意識のうちに考えたモノの中で一番の能力が、S級スキルとして僕に与えられる、って解釈でいい?」
「はい! ちなみに、スキルは異世界に飛ばした後に与える形になるので、今の段階では私ですら分かりません。その時をお楽しみに!」
「なるほど……」
出たとこ勝負、か。けど、無意識にとは言え僕が考えている事には違いない。僕の性格から考えて、S級スキルとして選ばれそうなのは……?
「……うん、なら大丈夫かな。異世界に飛ばしていいよ」
「お、自信満々ですね? それじゃお手並み拝見って事で、行ってらっしゃ~い」
ひらひらと手を振る女神様。同時、僕の体は光に包まれていき――――
――――気付けば見知らぬ草原に立っていた。
広がる空には月のようなモノが三つ浮かんでるし、見た事の無い生き物が当たり前のように歩いてるし、なんか今あそこで咲いてる花が僕を見て笑ったように見えたし。
うんまぁ、ここが異世界で間違いないんだろうな。って事で、
「ステータスオープン」
女神様の説明通り、僕の能力を確認する。……ていうか、こういうのを口に出すのって結構恥ずかしいね。
ぶおん、と機械的な音と一緒に僕の眼前に現れた半透明の板。空中に浮かぶそれを順に確認していく。
攻撃、魔力、素早さ……どうでもいい。
所持アイテム、装備アイテム……要らないそんなの。
何ページもあるそれを順に流し見ていくと、ようやく目的のモノを見つけた。そう、スキルについてのページだ。
「……うん、さすがは僕」
望み通りのスキルが与えられている事にほくそ笑んだ僕は、早速スキルを発動させた――――
「――――遅い! 放送で呼び出そうかと思ったぞ」
「すみません。ちょっと寝落ちしてて」
「居眠りが原因で呼び出されたのを居眠りで遅れるとは良い度胸だ」
担任の先生は怒った素振りを見せながらも、少しだけ笑みを覗かせて僕を生徒指導室に招き入れた。
僕が授業中に居眠りをしているとはいえ、成績自体は良いからそこまで問題視していないみたいだ。ただ、他の先生から言われた手前、形だけでも指導しないといけないってだけで。
「まぁいい。俺も他に仕事があるからさっさと終わらせるぞ。さっさと座れ」
「はい、よろしくお願いします――――」
――――まぁ、答えは簡単。
スキル【異世界転移】
このスキル所有者は、一度だけ任意の異世界へと転移する事が出来ます。ただし、スキル所有者が今までに訪れた事のある異世界に限ります。
「……あの、ですね? ルールですからこのスキルをあげますけど、女神の私としてはあんまり使って欲しくないな~、とか思ったりしちゃったり?」
残念でした。次はもっと異世界を救ってくれそうな人に頼んでどうぞ。
居眠り中に異世界転移した僕はとっても綺麗な女神様からS級スキルをもらい、意気揚々と異世界に降り立つ。そして…… 虹音 ゆいが @asumia
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