第84話 エピローグ 二人の気持ちの先に


 次の日、私は塾の帰り送ってくれた柚希に

「今日、お母さんと会ってくれない?」

「えっ、なんで?」

「お母さんがあなたを連れて来てと言われて。あの件に関係あると思うの」

「…分かりました」




 玄関のドアを開けて瞳さんが入った後をゆっくりと入る。自分でも相当に緊張しているのが分かる。


「お母さん、ただいま」


 奥から瞳さんのお母さんが出て来た。

「お帰りなさい、瞳さん。いらっしゃい、山神君。さっ、上がって」

「お邪魔します」




 応接間に通された。リビングではない。俺ががちがちになっていると

「柚希、そんなに緊張しないで」

「そんな事言われても…」


「お待たせ」

 瞳のお母さんがトレイに紅茶とお菓子のセットを持て来た。三人分のティーカップに紅茶を注ぐと

「召し上がれ」

「ありがとうございます」


「山神君、説明して貰えるかな。今回の事」



 俺はここまで来たら言葉を飾っても仕方ないと思い、瞳を俺から誘ってラブホに行った事、気を付けて入ったつもりだが、なぜか北川さんにその所を録画されてしまった事。そして彼女から瞳と別れるか、映像を学校に教えるかどっちか選べと言われた事等すべて話した。


「まあ、瞳さん。そこまで彼と…。ふふふっ、若くて羨ましいな」

 お母さんは紅茶を一口飲むと


「でも困ったわね。瞳さんのそんなふしだらな映像が学校に漏れるのも、もしかしたらネットに流されるかもしれないし。そうすれば会社にも要らぬ流言飛語が出回るかも知れないわね。

 ところで山神君、あなたはどこまで瞳さんを守れるの?」


 どこまでと言われても俺はただ瞳さんが好きで…。でも


「俺はまだ高校生です。力も何もありません。でももしあの映像が学校に出されて、二人が停学や退学になって、周りから色々言われても俺は体を張ってでも瞳さんを守ります」


「ふふっ、若いわね。でも高校生じゃあ、何も出来ないわ。今回の事もし不問にさせても、また同じ事が起きるかもしれない。そうしたらどうするの?」

「お母さん、それは柚希に意地悪な質問です」

「意地悪ではないわ。大切な事よ。こんな事に答えられなかったら、瞳さんと別れて貰うわ」

「えっ?!」


「ふふっ、どうかしら山神君」

 

 どう答えれば良いんだ。


「格好つけなくて良いわ。貴方の気持ちを教えて」


「俺の気持ち…。俺は瞳さんと出来れば、ずっと一緒にいたい。高校を卒業しても大学を卒業しても、社会人になっても。だからその為には俺が出来る事は何だってします。

 それに今回の事、もしネットに公開されても俺は瞳さんを必死で守ります。退学になっても一生守ります」


「ふふふっ、若いわねえ。山神君、瞳さんをそこまで思ってくれる気持ちは嬉しいわ。でもそれだけでは駄目よ。実を伴わないと。

 もしあなたが瞳さんと一生連添う、伴侶とする考えがあるなら、それに見合う知識経験を着けて欲しいわ。それが出来てこそ、さっきあなたが言った言葉が生きる。その覚悟が有って?」


「そ、それは…」

 俺ではとてもじゃないが、瞳さんと引き合うだけの頭も器量も何もない。今からやっても間に合うかどうか。


「あらっ、さっきの言葉は口先だけだったの?」

「そんな事ありません。俺は瞳さんと釣り合う、いや引っ張って行けるだけの知識経験を積みます」

「どうやって?」

「高校の内に一生懸命勉強して、国立大学に入って、優秀な成績で卒業して瞳さんに釣り合う男になります」

「柚希!」


「まあ、それはそれは素敵な事。その言葉信じていいかしら?」

「はい」


「…分かったわ。今回の件、無かった事にしてあげる。でも山神君、今言った事忘れないでね。もし途中で挫折や実現できない様な事になったら瞳さんの事は諦めて貰うから」

「はい」


「瞳さん、あなたはどうなの?」

「私は、柚希を支えます」

「良く言ったわ。しっかりと支えなさい。この上坂精密機器の将来の為にもね」


「「えっ?!」」



 瞳のお母さんが応接室から出て言った後、彼女の顔を見ながら

「瞳、俺言っちゃった」

「責任取ってよね。ゆ・ず・き」




 さて、久しぶりだわ。北川喜朗さん、元気かしら。私はスマホで彼のプライベートスマホに連絡を入れた。

「もしもし、お久しぶりね喜朗さん」

「久しぶりです。上坂さん」

「今ね。娘から困った事を聞いたの。相談に乗って貰えるかしら」

「上坂さんからの依頼に断る術は持っていません」

「そう、ではお願いする事を言うわね」





 翌日の朝、いつもの様に登校して教室に入り北川さんと目が合うと彼女は気まずそうに目を避けた。



一限目が終わった中休みに北川さんに声を掛け廊下に出て、あの事は北川さんの好きにすればいい、俺は瞳を絶対に守ると言うと


「何の事かな?」

それだけ言って自分の席に戻った。それ以来彼女は俺に声を掛けて来る事は無かった。



そしてあの映像は何処にも出て来ることはなかった。瞳のお母さん、何をしたのかな?


 姉ちゃんも相談に乗って貰った以降、この件で俺に話してくる様子もなかった。





 でもそれからが大変だった。直後の一学期末試験は塾のお陰で順位を維持できたものの、それを瞳さんのお母さんに報告に行くと、瞳さんのお母さんは納得できず、最低でも五位以内、出来れば今後ずっと一位を維持しなさいと言われた。

 

「ふふっ、柚希頑張ってね。私達の為に」



お・わ・り。


―――――


 如何でしたでしょうか。少しでも楽しく読んで頂けていれば嬉しく思います。


 運命の神様の気まぐれで知り合った山神柚希と上坂瞳。途中、柚希の元カノがよりを戻そうとしたりクラスメイトの渡辺さんに好意を持たれたりと色々有りましたが、最後?の苦難も乗り越えて何とか瞳のお母さんにも認められる…たはずの関係にまで成りました。

 まあ、この後は柚希と瞳の運命がどうなるかは二人の努力次第でしょう。


 今まで本作を読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました。


 次作考案中です。またお会い出来る事を楽しみにしています。



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

 

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先輩どういうつもりですか(69話からいよいよ第三章に入ります) @kana_01

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