第40話 とりあえず、居場所が出来たということで。

 翌日、俺は冒険者ギルドを訪れた。

 冒険者ギルドの受付は、いつもは雑用をしている別の人が担当していた。

 いつもの人、まだ出勤してないんですよ、と教えてくれた。

 そこにギルドマスターが現れて、俺を部屋に通してくれた。

 通された部屋は、エールが泊まった部屋だった。

 その横で、ミーアが椅子に座ってうとうとしている。


 エールは、起きていた。


「おはよう、エール」


 エールは俺を見た。

 その目は泣き腫らして真っ赤になっていた。

 瞼もブヨブヨだ。


「…………」


「引っぱたかれにきた。

 と、その前に」


 俺は、ミーアの肩を叩いて起こした。

 そして、エールと二人で話したいからと部屋を出てもらう。

 ミーアは、その願いを聞いてくれた。

 部屋に、俺とエールが残される。


「ごめんなさい」


 罵詈雑言を覚悟していたが、彼女の口から出てきたのはそんな言葉だった。


「エールは、謝ることなんてしてないだろ?」


 エールは、首を横に振った。


「ウィンさんの手を汚してしまいました。

 ウィンさんに兄を殺させてしまいました。

 そんなこと、させたくなかった。

 なのに、貴方は私を止めた」


「魔方陣のこと言ってるのか??」


 今度はコクン、とエールは頷いた。


「昨日、本当なら私たちを置いて貴方は討伐に行けたはずです。

 でも、わざわざ私たちを連れていった。

 なんでそんなことをしたのか、ずっと考えてました」


 そこで言葉を切って、エールは俺を見た。


「昨夜のデートのことも聞きました。

 ギルドマスターに聞きました。

 全て、聞きました。

 そう、デートの時のようにドラゴン討伐にも行けた。

 一人で行けたはずなのに、貴方はあの時だけはそうしなかった。

 なんでだろう?って考えました」


「答えは出たか?」


「はい。

 ウィンさんは、兄が殺されるところを私に見せたかったんですね。

 ちゃんと死んだと、殺されたと。

 回復や復活の余地すらないのだと、思い知らせたかった」


「当たり」


 そこから俺は、先代たちの遺志のようなものを話した。

 あの時、言葉を交わした内容。

 それを話した。


「エール、お前は守られた。

 少なくともお前が、ひどい迫害を受けることは無い。

 そうそう、お兄さん達の葬儀の手配はギルドマスターがやってくれるってさ」


「聞いてます」


「そっか」


「はい。

 あの、それでウィンさんはこれからどうされるんですか?」


 そこで、初めてエールの瞳が不安そうに揺れたのを見た。

 また一人にされるんじゃないか、という不安に揺れていた。


「そうだなぁ。

 とりあえず、冒険者ギルドに預けておいた馬車を引き取って、魔族討伐とドラゴン討伐についての報告書、書かないとだな」


 さすがに、事が事なので報告書を書いて提出しろと言われているのだ。


「まあ、それが終わったら、エールが出ていけって言わないなら、まだちょっと世話になりたいんだけど、いいか?」


 兄とその仲間を殺した奴などお断りだ。

 そんな反応かなと思ってはいたが、エールの答えは違った。


「当たり前じゃないですか。

 あそこは、ウィンさんのクランのアジトですよ」


 色々思うところもあっただろうに、エールはここにいていいよ、と言ってくれた。


「そっか、ありがとうエール」


 俺の言葉に、エールは泣き笑いの顔を向けてきた。

 あの日、心が折れかけてた俺に居場所を与えてくれた子だ。

 だから、その子のためなら悪者になってもいいと思っていた。

 けれど、思った以上にこの子はいい子だったようだ。


「こっちこそ、ご迷惑をおかけしました。

 これからも、よろしくお願いします、ウィン総長さん」

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【しかも】冒険者クランに入ろうとしたけど、門前払い受けた件【百回】 ぺぱーみんと @dydlove

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