第60話 魔力なしの真価

 この国の者は殆どの者が少なからず魔力を持っている。

 雀の涙ほどの者もいれば、溢れるほどの力を持ち合わせている者もいる。

 しかし陽妃にはその魔力がまったくない。

 小石のひと粒ほどでもあればと思わないでもないが、ないものは仕方が無い。


「その呪符は、触れた者の魔力を吸い取るようです」

「吸い取ってどうするの?」

「魔力を吸い取って貯めて、何かにその魔力を分け与えているのではないでしょうか。同時に転移魔法もかけられています」

「転移魔法・・どこへ?」

「そこまではわかりません」

「これ、剥がせる?」

「魔力に反応するようです。少しでもその呪符を作成した者以外の魔力が触れれば、その者は呪われる。そんな術式も描かれています。魔力が無いもの。植物や小動物が触れても大丈夫なように考えているのでしょう」

「魔力を吸い取りどこかに送る術式と、特定の者が触れるとそれを拒む術式。ふたつもあるってこと?」

「これを描いた者はかなり強い力を持ち、高度な知識を持った者のようです」

「でも、さっき私が触れた時も、一瞬ぴりりとしたものを感じたわ。私には魔力はないでしょ」

「陽妃自身に魔力はなくとも、我々の守護がありますから、恐らくそれに反応したのでしょう」


 紫水が陽妃に対し、致死に至るほどの衝撃などを受けたときに、それを回避できるよう守護の魔法を掛けている。それはこの世界に来てから紫水が毎日毎日陽妃に重ね掛けしてきたもの。

 本来ならその者の魔力に馴染んでいくので、それほど頻繁に掛ける必要はないのだが、陽妃は魔力が無くせっかくの魔法も保持しておくことができない。

 それ故に毎日掛ける必要がある。


「じゃあ、それがなかったら触れる?」


 今のところ瀕死に至るほどの衝撃を受ける予定もないので、その効力がない内なら触れられるのではと考えた。


「何もないという保証はありませんよ。私はお奨めしません」


 他者の接触を拒むための呪符だ。たとえ魔力を持たない陽妃と言えど、何があるかわからない。


「それでも、魔力の流れを止めることができたら、何かが変わると思う」

「わかっているのは、魔力を吸い取ってどこかに送っているということ。他者の接触を退ける防御魔法がかかっていることだけです。その他にもまだ何かあるかも知れません」

「わかっている。でも、魔力無しの私だからできるかもしれないじゃない?」

「あなたが決めているなら、私たちは従うまでです」


 陽妃は箱の周りに持っていた瓶から水を垂らしぐるりと円で囲む。

 

「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まに・・」


 真言を唱え、陽妃は鎖に巻き付いた布に触れた。

 ドクン

 それ事態が命を持っているかのように震えた気がした。

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