喫茶店の女

ツヨシ

第1話

高校までの通学路の途中に、閉店した喫茶店がある。

マスターが夜逃げしたと言う。

そこにはある噂があった。

出るのだ。

何人も見たそうだ。

喫茶店には妻子ある中年のマスターがいたのだが、そのマスターがアルバイトの女子大生と不倫をした。

よくある話だが、別れ話のこじれから、女子大生が自殺してしまった。

するとその女子大生が喫茶店に出るようになったと言う話だ。

夜、普通に店に入ってきて、客席に座る。

マスターが店を閉めようと外から鍵をかけると、中から顔を突き出してガラス戸を両手で強く叩く。

いつの間にかカウンターの中にいるマスターの横に立っている。

などなど。

閉店してからも出るそうで、ちょっとした心霊スポットになっていた。

「おばけ怖いけど、一度見てみたいね」

一緒に高校に通う彼女が言う。

怖いけど見てみたいのは俺も同じだが、今まで一度も見たことがない。

夜にしか出ないそうで、帰宅部の俺と彼女は、行きも帰りも出ると言う時間には喫茶店の前を通らない。

かといってわざわざ夜に見に来たいとも思わないし。


その後少しして、工事が始まった。

店を壊すのだ。

しばらくすると喫茶店はなくなり、すっかり更地になっていた。

「お化け見たかったのに、見れなくなったね」

高校に浮かう俺の横で、彼女がそう言う。

俺は喫茶店の跡地を見た。

誰だ、夜にしか出ないなんて言ったやつは。

それなら更地の真ん中に立っている、やけに青白い顔で瞳がすべて真っ黒な女は、なんなんだ。


       終

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喫茶店の女 ツヨシ @kunkunkonkon

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