第176話 記憶喪失ってマジですか?

「ちょと待ってくれ!ポルカに生き残りが?思考が追いつかん」


だってポルカは勇者に壊滅させられてバルバトスさんしか生きている人はいないはずだろ?どうなってるんだ?


兵士の男は驚く俺に丁寧に説明してくれた。


「そうですね。一から説明します。まずポルカが何故壊滅したかご存知ですか?」


そういや知らんな。

いや本当の理由はバルバトスさんに聞いて知っているが、世間的にはどうなってるんだ?馬鹿正直に勇者が、「僕が魔法でめちゃくちゃにしました」なんて言うはずないしな。


俺は「知らない」と首を振ってみせた。


「ではそこから説明致します。ポルカは強力な魔物の襲撃によって壊滅した村です。あの勇者マルス様が必死に魔物と戦ったとの事でしたが、村は壊滅、かなりの強敵だったとのことで、あの勇者パーティでさえもミライ1人しか救えなかったというわけです」


まぁ魔物のせいにするのがそりゃ手っ取り早いはな。勇者崇拝の風潮が強い世界では誰一人疑う者はいないだろう。


「なるほど」


でもあの文官、ミライって女性がポルカの生き残りってのは本当に本当なのか?

勇者マルスが自分の悪事を知っている人間をみすみす王宮に置いていくなんてあるか?そもそも、ミライは勇者の悪事を王に話していないのか?


「ミライは勇者パーティ、特に大聖女ミネア様を神の様に崇めています。何を隠そう、ミライが助けられた時瀕死の重症だったのですが、大聖女ミネア様の治療のおかげでなんとか一命を取り留めたのです」


「えっ!?」


助けられたなんて嘘だ!と叫びたくなったが、そんな事口にするわけには行かない。


ミライさん……勇者達に恨みを持っていてもいいはずが、まさか慕っている?本当訳がわからん。


「ミライは命は助かりました。しかし村が壊滅した時に強い精神的ショックを受けたのでしょう。ポルカにいた時の記憶を全て失っていたのです。……いえ、それどころか、城に来た時は言葉すら離せない状況でした」


記憶喪失!!


「なるほど!それでか!」


「はい?」


いかんいかん。思わず叫んでしまった。


「ああ、ごめん。ちょっとこっちの事」


「はぁ」


なるほど、記憶が無いミライを利用して、勇者達は自分の悪事をまるで美談かの様に演出したのだ……。

いや、勇者パーティの面子性格悪すぎじゃね?


「……言葉も話せなかったはずのミライさんが、どうやって今みたいに復活したんですか?」


「それは同じく大聖女のセシリア様が数ヶ月かけて治療に当たった事で回復したのです」


「ええ!セシリアが!?」


ここにきて身内登場!

まさかセシリアがこの件に絡んでくるとは。


ーーーーーーーーーーーーーー


とある廃墟内。


セシリアはミネアに呼び出され、およそ人が寄りつかない様な不気味な廃墟に足を運んでいた。

かつては人が住んでいたのだろう、住居の残骸が所々にある。

なるほど、内緒話をするにはもってこいの場所だ。こんな場所よく知っているなと、セシリアは関心半分、呆れ半分に思った。


セシリアが顔を見せるとミネアは不機嫌そうに喚く。


「遅いわよ!私を待たせるなんて偉くなったもんね。……まぁいいわ。さっさとあなたの魔法でうちのポーターを探して頂戴!必要な情報はこれに書いてあるから」


そう言ってひらひらと紙を投げて寄越す。

セシリアはさっそく帰りたくなったが、その気持ちをグッと堪え、気になっていた事を思い切って聞いてみる。


「あんたの依頼受けてやらないこともないけど、その前に一つ聞かせて。あんたが大聖女のレベルを7にしたのはいつの事?」


そう言うとミネアはニヤリと嬉しそうに笑う。


「ああそう。悔しいんだ。私に先を越されちゃったもんね。初めの頃は貴方は大聖女として歴代最高って話だったものね。それが今では私は勇者パーティの大聖女で、あんたは国を追い出された嫌われものの大聖女様だものね。それが実力でまで負けちゃってプライド保てないって訳ね!」


別に見下された事については腹も立たなかったが、埒が開かないと思いため息が出た。


「いいから、質問に答えるの?答えないの?」


「そんな無気にならないで、これだから孤児の野蛮人は!ミネアこわーい」


思わずまたため息が出る。

アホくさ。なんでこんな奴の事が気になってしまったのだろう。

元々タクトに不利になりそうな事をミネアに話すつもりはなかったセシリアは、もう帰ろうと思った。


「もういいわ。私も暇じゃないから、帰るわね」


そう言ってセシリアが背を向けると、ミネアは舌打ちし慌てて話し出した。


「分かったわよ!教える!えっとそうね、確かスキルレベル7になったのは、6年前ね」


「……6年前?あんたがポルカから助けた娘を王都に連れてきたくらいか」


そうセシリアがボソリと言うと、ミネアがピクリと眉を動かした。


「あ、ああポルカね。そんな事もあったわねー。そういえばあの娘、私が救ったとはいえ、精神的にも身体的にもかなり厳しい状態だったからね(笑)流石にもう死んじゃったでしょうね(笑)まぁ、よくて一生病院で隔離よねー」


そう言ってケラケラと笑うミネアに、セシリアはドン引きしていた。


「あの子の治療なら私が引き継いで完全回復したわよ。確か……今では城の文官になったはずだけど?」


「はぁ!!!!!?????」


何故か滝の様な汗をかき始めるミネア。


「急にどうしたの?」


「セシリア!その話本当なの?」


「え、ええ。時間はかかったけど精神状態は回復したわ。記憶はまだ戻らないみたいだけど、もしかしたら何かのショックで記憶を取り戻せるかもね。こればっかりは、私の治療じゃどうにもならなかったわ」


「記憶はまだなのね!よっしゃ!なら何とかなる!!はぁー……全くあんたは!昔から余計なことばっかりして私の邪魔をして……」


「どう言う事?それに待って。どこに行く気?」


「ごめんなさい。私急用ができたんでちょっと王都まで行くから。あんたはポーターを探しときなさい」


ミネアの態度に、やはり何か後ろ暗い事がある事をセシリアは確信した。


「ピノだったわよね。勇者パーティのポーター。私その子の居場所、実はもう知ってるんだよね」


セシリアがそう言うと、ミネアはピタリと足を止めた。


「じゃあ早く居場所を教えなさい」


「嫌だと言ったら?」


セシリアがそう言うと、くるりと向き直りミネアが言う。


「うーん、半殺しにして聞き出すかしらね」


そう言ってミネアはまたケラケラと笑った。


「あんたが私を半殺し?できる訳ないでしょ」


そうセシリアが言うと、ミネアはピタリと笑いを止め、眉間に皺を寄せた。


「ああ?大聖堂でのらりくらり生きてた甘ちゃんが、勇者パーティで死線くぐってきた私に勝てるとでも言うんか?」


セシリアはミネアを頭からつま先まで眺め、ちょっと考えて。


「……まぁ楽勝でしょうね」


と軽く言った。


その瞬間、

ブチッ!

とミネアの方から何か聞こえた気がした。

ミネアの顔は引きつり、勇者パーティの聖母と言われたその面影は微塵も無い。

鬼の様な形相でセシリアを睨みつける。


「……あったまきた。元々あんたの事嫌いだったし丁度いいわ。どっちが上か、この機会に身体に叩き込んでやるわ」


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ギルドをクビになり、俺は無職になりました 唐土唐助 @morokoshi-tousuke

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