第175話
エマとゴロタ達はポルカの奥地を開拓中。
俺とピノは魔物家畜化プロジェクトを絶賛推進中だ!
「うーん。うまくいかないっすね、ししょー」
「うん」
魔物を家畜にすると言っては見たものの、言うは易く行うは難しだ。
ちょっと目を離した隙に、せっかく作った柵は壊され、捕まえた魔物は全て逃げてしまっていた。
先ず手始めに、俺たちはホーンラビットを捕まえてみることにした。ホーンラビットは兎に角が生えたような見た目の魔物だ。
しかし、そもそも魔物を捕まえるのが一苦労。倒すのと違い、傷つけないように捕まえるのが至難の業であった。
かなり腕の立つはずのピノでさえ、「普段やらない事やったんで疲れたっす」と言っていた。
何とか数匹のホーンラビットを捕まえ柵に入れたは入れたのだが、ホーンラビットが暴れる暴れる。そして柵はボロボロに壊されてしまい、今に至ると言う訳だ。
スキルでホーンラビットをテイムする事もできたが、俺以外の者が世話できなければ家畜としては意味を成さない。
そんなこんなで頭を悩ませているところに、馬の嘶きが思考を遮った。
「また、誰か来たな」
俺がポルカに来てから、多くの来訪者が来ていたため、もう驚きはしなかった。考えてみれば、今まで誰も整理してこなかった土地に、曲がりなりにも男爵が統治に行くわけだから、来客が多いのは当たり前のことと言えば当たり前のことかもな。
ただ、今のところゴールズだとかピノだとか、ちょっとイレギュラーな客が多い気はする。
「そろそろ普通の人が来て欲しい」
「なんですか、ししょー。人の顔見て急に」
「いや、気にしないで、こっちの事だから」
外から、「ほら着いたぞ。降りろ」と乱暴に言う男の声が聞こえた。
聞こえにくいが、それに続き「はい」と応える小さな女性の声。
おやおや、なんかまた面倒くさそうだぞ!
俺は、「はいはいどちら様ですか」と言ってピノと建てた出来立てほやほやの小屋から外に出た。
すると外にいたのは、王国の兵士に囲まれ小さくなっている若い女性。
どういう構図かと思ったが、よく見ると、その若い女性には見覚えがあった。
「あ、あなたは……」
俺が次の言葉を話し出す前に、兵士が説明を始める。
「突然の訪問申し訳ありません。ジェイド、いえ、タクト男爵、我々は王からの命で参りました」
俺をジェイドではなくタクトと呼ぶからには、全てを王様から聞いているそれなりの地位にある兵士と見える。
「王からの命?えーっと、王様に手紙書いたけど、なんか失礼がありました?」
「いえ、そうではありません。説明します。まずはこの女、タクト男爵は既にご承知かとも思いますが、我らの城の文官でございます」
「はい、領地もらう時に会いました」
そう、俺がポルカを選んだ時にいた愛想の悪い女性の文官で間違いない。
兵士はこくりとうなづき説明を続ける。
「ご説明させていただくと、この女がタクト男爵に悪意を持ちポルカをあてがった疑いがもたれています」
それはこの前聞かされた。
この女性が何故か俺に敵意を持っている事。
わざとポルカの様な土地を当てがった事。
だが俺の悪評を考えればそれも当然と言えば当然と言える。それでこの女性が処分を受けるのはちょっと申し訳ない。
俺は慌て兵士に言った。
「もしかしてそれで左遷みたいな事ですか?処分は無しでいいって手紙に書いたはずなんだけど」
それを聞き、文官の女性が「嘘!?」と言わんばかりの表情で俺を見た。
俺が庇った事が意外だったらしい。
「城では重い処分をと言う話だったのですが、おっしゃる通り、タクト男爵のお手紙に、『関係者全てに処罰は求めない』旨記載されておりました。タクト男爵の寛大なお心によって、なんとかこの女の死罪は免れました」
それを聞いて文官の女性が思わず声を出す。
「し、死罪!?」
知らなかったのか、女性は目が飛び出るかと思うほど驚いている。
良かった。処分しないよう書いといて。
かなり罪が重かったみたいだ。
兵士は更に話を続ける。
「しかしながら、王の命に背いた事は事実。処分はないと申しましても、それでは示しがつきません。そこで、この女の名誉挽回のためにも、ポルカにてタクト男爵の復興を助けよと、王は命じられました。そして微力ながら、我々兵士5名も、この女の見張り兼タクト男爵のお手伝いにと馳せ参じたのであります」
「なるほど。そう言うことね」
面倒事かと思いきや、これはラッキーかもしれないぞ!
今は猫の手でも借りたい状況。
優秀な文官と優秀な兵士5名が急に戦力になったのだ。
渡りに船とはこの事かもしれない。
「死罪……王が私を……」
文官の女性は余程ショックなのかぶつぶつ呟きながら空を見つめている。
大丈夫かな?
「タクト男爵少し2人だけでお話しよろしいでしょうか?」
そう兵士が言った。
なるほど、何か内密な話かな?
俺は「うん」とうなづき、少し離れて兵士との1対1で話をすることにした。
「ここならたぶん誰にも聞こえないよ。で、どんな話?」
「お時間を作っていただきありがとうございます。しかし、何から話せばいいのか……」
兵士はだいぶ狼狽している。
これは面倒事の予感だ。
ただで戦力が手に入るなんてそんな上手い話は無いよな。
まぁでも勇者とバルバトスさんの因縁以上のインパクトある問題も他にあるはずがない。
小さな問題が今更一つや二つ増えた所で、俺は驚きませんよ!
「心配しなくても、俺も伊達に修羅場をいくつもくぐってきてないから!なに言われても驚かないよ」
「ありがとうございます。では先ず一つ。実を言うとあの文官。名前をミライと言います。実はあの女……壊滅したこの街ポルカの唯一の生き残りなのです」
「なるほどなるほど、壊滅したポルカの……って、ええ!!??」
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