七曜の神殿は星が如く

菅原道磨

訣別、あるいは長き待機期間か

 白い。白くて、白々しい。白すぎる世界に、私という黒はとされた。白き世界は黒を許さず、白の敵として永遠に糾弾きゅうだんする。


 そびえ立つ鉄神像てっしんぞう。どこまでも続きそうなイチイの森。雪に覆われし銀世界。ここは北の大地、タラキダイ州の林海雪原りんかいせつげん。私は姫……ヘイス公の次女ドローレス、ということになっている。

 実は私、前世の記憶を持っている。かつて私は長崎ながさきけいという名前で、日本という国の、ごく普通の女子中学生だった。いいえ、普通の女子高生になりたくてなれなかったヲタ女子だった、というべきか。しかも「先天性無痛無汗症IV型よんがた」という名の諸刃の剣を肌身離さず携えてた。わかりにくいようなので簡単に説明するね。要するに、

「私は、痛いとか、暑いとか、寒いとか、そういうのを感じる機能を神様からもらい損なったの。それで人より何倍も傷つきやすかったんですよ。だって、果物ナイフで自分の腕を切られても何の違和感も覚えられないからさ」

「まあ大変。おいたわしや姫さま」

 執事のムーリエは、心底呆れた顔で私をからかう。

「いいんです。慣れてますから」

 私は、あの奇妙な身体で14年間過ごしていた。痛みを感じないし、ストレスフリーだったが、ある出来事が災いした。

 大震災。

 私は、瓦礫の下敷きになった男の子を助けるために必死だった。身体を酷使して、傷だらけになって、そして……痛みも感じずに死んだ。

 しかし、なぜか生き返った。しかも長崎ながさきけいとしてではなく、長崎珪の記憶を持つキャラクターで、長崎珪が生前プレイしていた乙女ゲームの世界の悪役令嬢として。私の大好きなヒーローと出会えるかも、とウキウキしている一方で、主人公との奪い愛に勝ち目があるかどうか分からずにいて、すごく悩む。

「後はそうだね……助けた男の子、元気にやってんのかな?実は、男の子は私の彼氏だったの。変に気を遣わせちゃって、生涯独身とか決め込まれたりしてないんだといいんだけど。まあ、したらしたで面白そうだけどさ」

「あんたの性格は完全にアウトね」

 ドローレスわたしの姉、シャルロッテも私が転生者であることを知っている。

「まあね。私は何事も自分が一番なの」

「彼氏さんに命を捧げた奴のいうセリフじゃないわよ」

「捧げたっていうか、好きな人が目の前に死んだらヤじゃない?」

「それを分かってて、彼氏さんに『好きな人を目の前で死なせた』をさせたんだね」

「そだよ。後先考えず、突っ走る。人はあっさり死ぬからさ、私がいた世界では。刹那主義でいいんだよ」

 そう。

 刹那主義を貫徹するぞ、そう決め込んでいた時期が私にもあった。たかが乙女ゲーム、たかがワンライフ。その奥深さに気圧されて、ストイックになりかけたと誰が予想できようか。

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七曜の神殿は星が如く 菅原道磨 @sugaw

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