第2?話 アーシア領にて
魔法局の教生として2年間、魔法の修行に明け暮れたが、その間に他の転生者は見つからなかった。私としては見つかろうと見つかるまいとどちらでもよかったのだが、シャーリーこと円華は事あるごとに探っていた。
「うーん、なかなか見つからないものですね」
「魔法局と魔法学院でしか探してないんだろ。大体、どうやって探してんのさ」
この時は普通に中庭で話していたので、私は15歳の少年のふりをして話していた。シャーリーも伯爵令嬢のままだ。
「それっぽい人の近くで日本語とか英語を使ってみるの」
それっぽい人、ってどんな人だと思ったが、聞くと疲れそうな気がして口にはしなかった。
「それでか。最近教生のアイドルがブツブツ変なことを云っていると噂になっているぞ」
もちろん噂の情報のソースはカイルである。
「え、本当ですか? マズいですね。わたくしのイメージが…」
「もう諦めたら? こういうのって探してるときは見つからなくて、探すのをやめたとたんに見つかったりするんだよ」
「なんか、昔の歌にそんな歌詞があったような」
「歌は知らないけど、僕たちが会ったのだって奇跡的な確率だ」
「奇跡ね。運命的な出会いだとでもおっしゃるの?」
シャーリーがにやにやしながら云う。
「運命だとしたらそれはもう奇跡ではなく必然じゃないのか? 僕らはただの偶然だ」
「つまんない人ですこと。だからおじさんって云われるんですよ」
「他の誰にも云われてないわ!」
2年目になると、みな実際に働く予定の店や会社の見学と研修があった。私とシャーリーもそれぞれ自分が勤める予定の図書館に行くことになっている。
と云うことで、久しぶりにアーシア領に帰ってきた。魔法学院を卒業した後に1回帰ってたから、約1年ぶりだ。
到着した次の日、早速領内の図書館に行ってみた。1年前の帰省の時には行く暇がなかったから、4年ぶりになるが、相変わらず手間暇がかかるシステムのままだ。
研修で実際に業務を行ってみると、本を探し出すのに一苦労、それを抱えて運ぶのにまた一苦労だった。台車すら無いじゃないか。
アーシア家の使用人に手伝ってもらい、木材と鉄を加工して台車を作った。この世界ではゴムは貴重品らしくアーシアの館には無かったので取り寄せたが、届くまでに2週間かかった。研修期間は1か月なので、ゴムを待っていると研修期間の半分以上が台車の恩恵にあずかれなくなる。仕方ないので、ゴムが届くまでは木の車輪で間に合わせることにした。
私にとっては普通のことだから気にしなかったが、王立図書館に台車があったのは王立だからこそのことなのかもしれない。
館長に許可を取り、研修2週目の初日から台車を導入。アルミとプラスチックで作られていた地球の台車と違い、木材と鉄で作った台車自体が重く、最初は取り回しに苦労したが、慣れてくると本の運搬が比較的楽になった。ゴムを巻いた車輪に変更してからは、格段に運びやすくなり、他の職員からも歓迎された。
今回の研修によって、要改善部分を知ることができた。来年の秋に実際に勤めてからは、いろいろな部分を改善しないといけない。
それまでに改善方法を考えておくとしよう。
その日も重い本を何度も運搬して――台車は導入していたとはいえ、本棚と台車との揚げ降ろしは相変わらず重労働だった――疲れ切った私は同僚2人と伴に1軒の食堂に入った。本当は酒場に行きたかったのだが、16歳の外見では入れない。この店は平民向けの店ではあるが、貴族用に個室もいくつか用意されているので、男爵家の者である同僚らも時々使っている食堂だそうだ。
私自身は平民に交じって食べても、何も気にしないが、父親に知られると小言を云われるので、一人で食べるときも仕方なく個室を使う。
注文を済ませ、やがて運ばれてきた料理を見て驚いた。正確には、料理を盛りつけた皿が空中に浮いているのを見て驚いたのだ。給仕の両手はトレイを持ち、トレイに入りきらなかったらしい大皿が給仕の顔の前でふわふわ浮きながらテーブルに近づいていく。
「これは何の魔法だ!?」
「なんだ、お前知らないのか」
同僚――と云っても年齢は20くらい離れている――の一人、ダニエルが云う。
「これは魔法じゃなくて、スキルだ」
「重力制御【弱】のスキルですにゃ」
にゃ?
視線を皿から給仕に移す。若い女の子だと思っていたが、よく見ると髪の毛の間から猫耳が飛び出していた。細長い尻尾もある。
トレイを持ったまま、料理皿やコップなどがひとりでにテーブルに移っていく。いや、これもこの娘が制御してるということか。
「こちらはご新規さんかにゃ?」
「ケイロスと云います。よろしく」
「あたしはナーザ。見ての通りワーキャットだにゃ。あなたも貴族なのか?」
「ナーザよ、聞いて驚け。この方は子爵様のご令息だ」
そう云ったのはもう一人の同僚のイーサンだ。
「じゃあ、あんたらよりも偉いのか?」
「べつに偉くなんかないよ。僕が家督を継ぐわけでもないし」
「そうか。実力もないくせに親の爵位を振りかざして偉ぶる奴らがいるけど、あんたはそうではないみたいだにゃ。ま、楽しんでいってくれにゃ」
「ところで、スキルってなんだ?」イーサンにわざわざ余計なことを云うな、と注意してから聞いてみた。
「なんだ、知らんのか? 獣人族は魔法を使えない。だが彼らはそれぞれスキルと呼ばれる能力を持っていてなーー」
イーサンの話をかいつまんでみると、まずスキルには種族スキルと個人スキルの2種類あって、例えば猫人族の種族スキルは脚力強化や爪牙強化がある。それぞれの身体的特徴を増強するタイプがほとんどらしい。
一方個人スキルは多種多様あって、中には人間族の魔法と似通ったものもある。有翼族が持つことの多いスキル暴風は、風魔法でも同じ事ができる。そして重力制御のように極めて稀な、いわゆるレアスキルというものも存在するそうだ。
これら2種のスキルは自分では選べない。種族スキルは生まれつき備わっていて、親や長老が伸ばしていく。個人スキルは種族差はあるが、大体10歳頃までに発現する。
重力制御というスキルは私が構想する図書館革命を大きく前進させるものだが、そうかレアなのか。早いうちから探すなり募るなりしないといけなさそうだ。
第話 完
転生司書~異世界だってハイテクに! 藍川 峻 @Chiharun
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