第6話
アーヴィンが村に帰り、ケネスと共に暮らすようになってから一ヶ月が経った。
「ケネスさん、王国騎士団に入らなくて良いのですか?」
「……アーヴィンが行きたいのならば、一緒に入っても良いが……」
ケネスはアーヴィンを実の息子のように思っていた。
アーヴィンは母を失った悲しみを抱えたまま、何が出来るのかを見失っていた。
二人がいつものように朝食をとっていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい……」
アーヴィンがドアを開けると、二人の騎士が立っていた。
「王妃からの言伝です。是非、ケネス様とアーヴィン様に騎士団に入って頂きたいとのことです」
騎士はそういうと、ケネスとアーヴィンを馬車に案内しようとした。
「あの、僕は盗賊として生活していました……。騎士になれるような立派な人間ではありません」
「そう言うと思いましたわ」
馬車から降りてきたのは、王妃だった。
「渡しから直接お願い致します。これほど腕の立つ剣士が二人、埋もれてしまうのは国にとっても損失でしかありません。どうか、騎士団に加わってください」
王妃は真剣な目でアーヴィンを見つめた。
「……父は、王国に使える剣士だったんですか? ケネスさん」
「そうだ、アーヴィン。俺も、あいつも、共に戦った仲間だ」
アーヴィンは父の形見の剣をじっと見つめた後に、王妃に言った。
「期待に応えられるかは分かりませんが……僕も父のような剣士になりたいと思います」
「では、騎士団に入って頂けるのですね!」
王妃は嬉しそうに微笑んだ。
「では用意ができ次第、この手紙を持って騎士団にきて下さい」
王妃は騎士を経由してアーヴィンに手紙を渡した。
「お二人の紹介状です。ですがアーヴィン様は、先日の剣術大会での勇姿を皆が覚えていますし、剣聖ケネスと言えば誰もが知る名前。無用の長物かもしれませんね」
アーヴィンは受け取った手紙を鞄にしまった。
「それでは、王宮でお会いできる日を楽しみにしております」
王妃と騎士は馬車に乗り込んだ。
「……よろしくお願い致します」
アーヴィンとケネスは、王妃の乗った馬車が見えなくなるまで敬礼をしていた。
「アーヴィン、町を離れることに後悔はないか?」
「ありません。僕は父の見た光景を見てみたいんです」
「そうか……」
アーヴィンとケネスは荷物をまとめると、王宮に向かった。
何もない道をただ歩く。
アーヴィンは母親のことを思い出す度に、剣を握りしめた。
王宮についたアーヴィンは王妃から貰った手紙を、衛兵に渡した。
しばらくすると、騎士団長がアーヴィンとケネスを出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。これからよろしくお願い致します。ケネス様、アーヴィンさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
騎士団に入り三年が過ぎた頃には、アーヴィンはその活躍を評価され王妃直属の騎士となっていた。
「アーヴィン、たくましく成長されましたね」
「王妃、ありがたいお言葉ですが、私はまだまだ未熟です」
「……アーヴィン、貴方はもう少し自分の魅力を信じた方が良いですよ」
「え?」
王妃はアーヴィンの手をとり、口づけをした。
「私の目には、あの時、闘技場で勝利した貴方の姿が焼き付いております」
「王妃……」
「誰よりも勇敢なアーヴィン、私だけの騎士になってくださいませ」
「……喜んで」
アーヴィンは王妃の目を見つめ微笑んだ。
もう、アーヴィンは孤独ではなかった。
孤独なアーヴィンは王妃から溺愛される 茜カナコ @akanekanako
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