ぼくらのプロローグ【MF文庫J evo】

三浦勇雄/MF文庫J編集部

ぼくらのプロローグ

     1


 赤羽あかばねアゲハはいつだってひとりだった。休み時間はもっぱら自分の席で読書に勤しみ、帰りの会が終わればすぐに姿を消してしまう。僕は彼女が誰かと談笑しているところを見たことがない。最初は「あの子いつもひとりだな」程度の認識だった。

 でもある日ふと、彼女の読んでいる本が僕の目に留まった。正確にはその本にかけられたブックカバーが、だ。カバーは布製で、表紙の部分に紫色の花が刺繍されていた。

 あれは何の花なんだろう?――何故だか無性に気になった僕は帰りの会が終わってから図書室に駆け込んだ。大判の植物図鑑を借り、翌日それを教室で開きながら、読書にふける赤羽の手許を彼女のやや後方から何度も覗き見て、カバーと図鑑を比較しながら確かめた。僕は完全な不審者だったけれど、幸いにして彼女がそれに気付いた様子はなかった。

 そして――ブックカバーに刺繍された花の名前がライラックだとわかった瞬間、どういうわけかわからないけど、僕の目に赤羽の姿が妙にはっきりくっきり映るようになった。

 少し赤みがかかり、櫛目の通ったさらさらの髪。黒目の大きな瞳で真っ直ぐに本を見つめる横顔。背筋をすっと伸ばして座る様子は、植物図鑑で見たカラーの花みたいだった。

 それから僕は赤羽アゲハから目が離せなくなった。友人たちと話しているときも、授業中も、給食を食べているときも、無意識に彼女のほうを見ていて、何度見ても少しも飽きなくて、ただただ彼女の姿を目で追い続けて、でも話しかけることはずっとできなくて。

 気が付くと三年が経っていて。

 そして小六の春、僕は赤羽と初めて隣同士の席になる。僕らの物語はここから始まる。


 ある日の、給食後のお昼休みのこと。僕の席の周りには友人たちが集まっていた。

 みんなの話題はこの春に始まった新アニメのことで持ちきりだった。

 アニメのタイトルは『最強魔法使いの世直しぼっち旅』。


「『ぼっち旅』、やばいくらい面白くない? 話が燃える」「主人公のチヨチヨがカッコよすぎ。変な名前だけど」「女子なのに男子よりも男子してる。変な名前だけど」


 うんうんと相槌を打っていた僕は、はたと気付いた。

 右隣の席。赤羽がいつも通り読書にふけっている……と思ったのだけど、なんだか様子がおかしい。よくよく見ると彼女の身体が少しこちら側に傾いているような気がした。

 まるで僕らの話に聞き耳でも立てているみたいに。


「ハルタは『ぼっち旅』、どう思う?」


「え? あ、ああ」


 赤羽に気を取られていた僕は、うわの空で頷き、つい口を滑らせた。


「あの主人公、エロいよな」


 教室の喧騒の中、僕らのいる一角だけが水を打ったように静まり返る。友人たちの凍りついた表情を見てようやく、僕は自分の失言に気付いた。

 もちろん僕らだって、ごくまれに、エロについて熱く議論することはある。ただそれは誰が聞いているかもわからない、ましてや女子のいる教室でするような話題じゃない。

 でも――でも、だ。女主人公チヨチヨがエロい。これは僕の正直な感想なのだ。

 困ったことに僕というやつは、物語の中に少しでもエロい要素があったりすると、話の筋がこれっぽっちも頭に入ってこなくなる。話の筋を追うことよりもエロいシーンを探すことに意識がいってしまうからだ。『ぼっち旅』でも、胸とお尻が無駄に大きくて不自然なほど露出の多い鎧を着たチヨチヨの動きにばかり目が行ってしまう。みんなは一体どうやってあの数々の誘惑を断ち切ってストーリーを楽しんでいるんだ?

 僕の疑問はさておき、失言は失言だ。僕の声は言うほど大きくはなかったけれど、それでも隣の席の赤羽には聞かれたはずだ。友人たちは声もなく一様に顔面を蒼白にしている。

 誰もが動けずにいた中、他のクラスメイトが僕らのところへ駆け寄ってきた。


「グラウンド行こうぜ!」


 友人たちは渡りに船と言わんばかりに教室の外へと飛び出していった。

 僕は咄嗟に席から離れられなかった。隣の席から赤羽が僕のことをじっと見ていたからだ。真っ直ぐな視線に射抜かれて、僕は全身が痺れるような感覚に襲われて動けなかった。

 僕らはどれくらい見つめ合っていただろう。しばらくして赤羽は何やら机から一冊の本を取り出した。いつも通りライラックのブックカバーがかけられた本。

 赤羽はそのカバーを外し、本の表紙を僕に見せてきた。表紙に描かれていたのは僕らが今しがた話題にしていたアニメの主人公、チヨチヨだった。つまり――


「……漫画版?」


 違う、と赤羽はすぐに否定してきた。


「これは小説」


「小説。へー。あのアニメ、小説にもなってるんだ」


「違う。こっちが原作」


 へー。相槌は打ったものの、何が違うのか僕にはよくわからなかった。


「好きなんだ? それ」


「うん。好きすぎて、作品とか主人公が褒められると自分のことのように嬉しい」


「……へぇ?」


 僕が返事に困っている間にも、赤羽はさらに畳みかけてくる。


「だからさっきの、本気で言ってるのかなと思って」


「さっきの?」


主人公チヨチヨがえっちだって」


「……あ、うん……ええと、うん……」


「ほんとにアニメ見たの?」


「み、見ました」


「見たのにあの感想なの?」


 この話題を掘り下げられると個人の尊厳が危うい。僕は誤魔化すよりなかった。


「ほ――他にはどんなの読んでるの? やっぱり同じようなファンタジー系?」


「これしか読んでない」


「……え?」


「全十巻。ずっとこのシリーズだけを読んでる」


「ずっと……そのシリーズだけを?」


「うん。今は三十五周目、だったかな」


 赤羽アゲハはやばいやつなのかもしれない。そう思った矢先、はたと気付く。僕は読書する彼女のことを三年前から見続けてきた。つまり「ずっと」というのは、少なくとも。


「三年間、ずっと?」


「うん。三年前に始まったシリーズだからそれくらいかな。……どうして知ってるの?」


 赤羽アゲハはやべーやつだ。僕は確信に至った。


「……なんかすごく失礼なこと考えてそうだけど、あなたも同じでしょ?」


「僕?」


「隣の席になってから知ったけど。いつも同じ本、読んでるじゃない。あなたも」


 虚を突かれている僕に、赤羽が手を差し出す。見せてよ、と言うように。

 僕は操られたみたいに机の中から一冊の本を取り出す。赤羽の文庫本よりも何倍も大きくて分厚い植物図鑑。三年前に図書室で借りた物と同じ図鑑で、あれから気に入って何度か借り直していたんだけど、今年とうとう我慢できずにお年玉で購入してしまった。

 植物図鑑を赤羽の手に載せると、彼女はパラパラとページをめくる。


「いつもこの図鑑を眺めてるよね。好きなんだ?」


「……うん。特に花のページが好きで……写真がすごくキレイだから」


「この図鑑すごく重いけど、いつも学校に置いてるの?」


「……毎日持ち帰ってる。家でも見たいから」


 赤羽は図鑑から顔を上げ、にやりと笑った。


「ほら。私と同じだ」



 それから僕と赤羽はちょっとだけ親しくなった。当たり前に挨拶をし合い、休み時間になれば僕は植物図鑑の話をしたり、赤羽は『ぼっち旅』の話をしたりするようになった。

 軽口だって平気で叩けるようになった。


「昨日の『ぼっち旅』のアニメ見た? 魔法の構成も表現も完璧な原作再現だった」


「爆風でチヨチヨのスカートがまくれてお尻が丸出しだったのも原作再現?」


「ばか。すけべ。もう話さない」


 そんなふうに怒っても、赤羽は次の休み時間には普通に話しかけてくれた。

 そういえば赤羽に『ぼっち旅』の原作小説を薦められて読んでみたけど、一巻の途中で挫折した。やっぱりエッチな挿絵に気を取られて中身がまったく頭に入ってこなかった、と赤羽に素直に白状したらこっぴどく怒られた。


 そうしていつしか僕が赤羽のことを「アゲハ」と呼ぶようになり、赤羽が僕のことを「ハルタ」と呼ぶようになった頃――季節は夏を迎えていた。

 ある日の放課後のことだった。その日はひどく蒸し暑くて、でも窓から入ってくる風はとても涼やかで、ぽつりぽつりとする会話が妙に心地よくて、なんとなく帰るタイミングを逃してしまって、いつの間にか僕とアゲハだけが教室に残っていて。

 ふと会話が途切れたとき、アゲハがそっと言った。秘密を打ち明けるように。


「ここは私の本当の居場所じゃない。そんな感覚がずっとある」


 それは唐突極まりない告白だった。僕は一瞬面食らうも、その戸惑いを呑み込む。すぐに察したからだ。彼女は今、彼女にとってとても重要なことを伝えようとしていると。


「いつもなんだかものすごく物足りなくて。ずっと空腹が続いているような状態なんだ」


 ひどく抽象的な物言いだったけれど、僕は不思議と彼女の言いたいことが理解できた。

 物足りなくて、ずっと空腹が続いていて――たぶん退屈で仕方がなくて。


「だからずっと同じ本を読んでるの?」


 だから大好きな本ぼっち旅でそれを誤魔化しているの?


「……うん。そうなのかもしれない」


 僕は少し寂しい気持ちになった。僕は君と過ごす時間がこんなにも愛おしいのに、君はそうじゃなかったのか。……なら、なおさら見過ごすわけにはいかない。君の退屈を。


「夏の定番は向日葵だよね。見てるだけで元気になる」


「……え?」


「低学年の子たちが朝顔を育ててるけど、あれもいい。全部表情が違う」


 僕は花が好きだ。植物図鑑を開くときも花のページばかり見てるし、通りがかりに花壇や花を咲かせた雑草があるとついつい立ち止まってしまう。ただただ目を奪われてしまう――気が付けばアゲハのほうを見てしまうように。


「雨の日の帰り道はよく紫陽花を探す。今朝、近所の庭に咲いてたマリーゴールドがまたいいオレンジ色してた。バス一本で行ける距離に植物園があるんだけど、毎年そこの池にきれいな睡蓮が浮かぶんだ。植物園には今言った花も全部あって……だから、その、さ」


 目を瞬いているアゲハに、僕は勇気を振り絞って言った。


「今度、一緒に行かない?」


 アゲハはしばらく無言で僕のことを見つめてから――うつむいた。


「……ごめんね。私、いきなり変なこと言って」


「そんなことない」


「さっきみたいなことをね、毎日ずっと考えてたらさ、気付いたらひとりぼっちになってて。友達の作り方もわからなくて。……最近ちょっと、本当にちょっと、寂しかった」


 顔を上げたアゲハは薄く笑っていた。はにかんだみたいに。


「行こうね、植物園。連れていって」


 僕は頷く。首が折れそうなくらい強く、何度も。



     2


 僕らの住む町は、全国的に見ても雨の日が多い地域らしい。

 なのにアゲハは傘やカッパをよく忘れる。というか僕と仲良くなってから彼女が雨具の類を持ってきているところを見たことがない。雨が降ったら当然のように僕の傘の中に入ってくる。上手く利用されている感が否めない。……まあ、不満は全然ないのだけど。

 その日の雨も突然だった。お昼を過ぎた辺りからパラパラと降り始め、帰りの会になる頃にはざあざあ降りになっていた。ぬかりなく傘を持ってきていた僕を、アゲハは「さすがだねハルタ」と褒めてくれた。僕はチョロい。

 僕らは小さい傘の下で肩をくっつけ合いながら帰り道を歩く。

 雨脚はどんどん強くなっていった。バケツになみなみ貯めた水を延々とぶちまけ続けるような土砂降り。風は行く手からびゅうびゅうと吹きつけてきて、僕らの小さな身体なんて今にも吹き飛んでしまいそうだ。ほとんど意味を成していない傘を一緒に支えながら、僕は「やべー!」と笑い、アゲハも「やばいね!」と笑って、嵐の中を少しずつ進んだ。

 アゲハの家の近くには川がある。急な土手に挟まれ、海まで続く大きな川――その川沿いを歩いていたときだった。ごう、と一際強い風が吹き、僕らの傘が弾き飛ばされた。

 ぱっと開ける視界。同時、僕らは目撃した。茶色く濁った水の塊が土手から這い上がる瞬間を。それは地鳴りみたいな轟音とともに、あっという間に僕らを呑み込んでいった。


 甘い香りが鼻をくすぐった。ライラックの香りだ、と僕は目を開けた。

 直後に息を呑む。花、花、花──無数の花たちが視界の隅々までを埋めていたからだ。

 赤、青、黄、橙、白、黒。色取り取りの花たちはどれもこれもライラックに似ていて、でも何処かライラックとは違う形をしていた。少なくとも図鑑では見たことがない。甘い香りは僕の知るライラックよりももっとずっと濃厚な匂いで、思わずむせそうになる。

 のろのろと上体を起こすと目映い光が目に刺さった。頭上には絵具で塗ったような青空とコンパスで描いたような丸い太陽。僕は目を細めながら辺りを見回し、ぼんやりと呟く。


「花が……?」


 高さは僕の膝上くらいだろうか。ライラックに似た、色の異なる花たちが空中をふわふわ漂っている。それは群れとなって広がり、いっそ高級な絨毯のような模様を描いていた。

 漂う花畑の下には草原が続いている。不意に大きな影が落ちたのが見え、顔を上げる。

 青空を泳ぐように鳥が飛んでいた。……いや、鳥にしては大きすぎる。あれはまるで。


「…………ドラゴン?」


 ひどく現実感のない景色の真ん中で、僕は金縛りに遭ったように動けなかった。


「おはようハルタ。気分はどう?」


 声に振り返るとひとりのが僕を見下ろしていた。


「…………アゲハ?」


 彼女――アゲハは大きく目を見張った。


「どうしてわかったの?」


 なんとなくというか、直感が働いたというか。平たく言うとアゲハは大人になっていた。腕も脚も背丈もすらりと長く伸びて、高い位置から僕を見下ろしている。丸っこかった顔立ちは少し痩せてシャープになり、その分、目鼻立ちがくっきりしたように見えた。

 服装も彼女がいつも好んで着ていたシャツとスカートの組み合わせではなく、ゆったりとして丈の長い、黒いローブを被っている。まるで魔法使いみたいだった。

 見た目は違う。けれど目の前の女性は赤羽アゲハの面影を確実に残していた。三年間、盗み見ばかりしてきた僕だからわかる。ただし街中をすれ違うだけだったら気付けなかったと思う。すぐに察することができたのはこの異常な状況があったからに他ならない。

 川の氾濫に飲み込まれ、目覚めたらこの不可思議過ぎる景色だ。常識とか現実感とかそういうものは脇に置いやられ、何よりも直感が先に立つのもおかしな話じゃない、と思う。実際、僕の意識はまだふわふわとして夢見心地だった。


「……アゲハ。僕らは死んだのか?」


「死んでないよ。生きてる。私もハルタも」


「じゃあ……ここはどこ?」


「異世界だよ」


 アゲハの手を借りて立ち上がりつつ、事もなげに言われ、僕は瞬きを繰り返す。


「いせかい」


「うん、異世界。私は来るの二回目。異世界での記憶って、元の世界に戻ると薄れちゃうらしくて。だからずっと忘れてたみたい。私は前にもここに〝招かれた〟ことがある。そして今日また〝招かれた〟」


「それは……アゲハが大きくなったことと関係があるの?」


「ある。この世界に〝招かれた〟人間は、その招待に適した姿に変化へんげする……らしいよ」


「招待に適した姿……」


 僕ははっとして自分の身体を確かめる。が、アゲハと違って子どもの姿のままで、服も母がセールで買ってきたTシャツとパンツから変わっていない。少しがっかりした。


「ハルタは〝招かれて〟いないから。私の招待に巻き込まれたんだと思う。ごめんね」


 僕は首を横に振った。がっかりしている場合じゃない。訊きたいことはまだまだある。


「アゲハはなんでこの異世界に〝招かれた〟んだ?」


 アゲハは答えず、ローブの袖から何かを取り出した。一冊の本。紫のライラックが刺繍されたブックカバー。『ぼっち旅』の文庫本だ。


「〝招かれた〟ときに身に着けていた物はこっちの世界にも持ち込めるみたいでさ。私たちの鞄は肩掛けのやつだから流されちゃったけど、この本はポケットに入れっ放しにしてたから無事だった。……ねえ、この表紙のチヨチヨ、誰かに似てると思ったことない?」


「え? ないけど」


 身も蓋もないことを言ってしまったらしい。話の腰を折られたアゲハは唇を尖らせる。


「……私に、似てると思わない?」


「アゲハに?」


 本を受け取り、カバーを外して改めて表紙を観察してみる。写実的な絵ではなく、いわゆる萌え系のデフォルメされたイラストではあるけれど……なるほど、そう言われてみれば特徴は捉えているのかもしれない。しかし僕ははっきりと断言した。


「似てないよ。アゲハはもっとかわいい」


 また口が滑った。


「……ハルタ。話が進まない」


「ご、ごめん」


 アゲハはため息をつくけど、彼女の頬が赤らんでいるのを僕は見逃さなかった。


「この本の内容は憶えてる? 大筋だけでもいいから」


 僕は拙い記憶をたどる。脳裏にちらつくチヨチヨのエロいシーンを振り払いながら。


「ええと、確か……魔法使いがひとり旅をしながら悪い魔王を倒しに行くみたいな、今どき珍しいくらいに捻りのない王道ファンタジーだったような……」


「魔王じゃなくて『禍王かおう』。『禍王』は世界そのものを壊そうとしていて、この本の主人公はそれを食い止めるために冒険を始めるの」


 よかった。大体合ってた。


「で、その主人公が私」


「……うん?」


「三年前、私は『禍王』を倒すためにこの異世界に〝招かれた〟。脚色はされてるけど、この本はそのときの私の旅路を描いてる。記憶が戻ってわかった――これはたぶん、現地の作家が私の噂話をかき集めて執筆したものなんだと思う。それがどうして私たちの世界で出版物として売られてアニメ化までしちゃってるのかはわからないけど」


 彼女の言葉を咀嚼し、飲み込むまでには少々の時間を要した。


「つまり……アゲハは昔、この異世界に来たことがあって」


「うん」


「異世界で悪さをする、えっと、かおーを倒すために旅に出て」


「倒したよ。その後はすぐに元の世界に帰れた」


「元の世界に帰ってきたら、いつの間にか異世界のことを忘れていて」


「うん。今までなんで忘れていたんだろって不思議に思うくらい」


「そして……自分の活躍が描かれた本にどハマりして何年も読みふけっていた」


「わ、私のことを書いた本だって知ったのはついさっきだから」


「でも前に、主人公が褒められると自分のことのように嬉しい、って……」


「実際、自分のことだったんだからいいじゃない!」


「ぼっち旅だったの?」


「ぼっち旅だったよ!」


 強気に言い返すも、アゲハの両脚はがくがくと震えていた。下半身にきているのだろう。

 ふと、違和感に気付く。アゲハの証言には決定的な矛盾がある。


「おかしいよ。話が違う」


「え?」


「チヨチヨの格好はもっとエロい!」


 表紙を飾る女主人公。彼女が身にまとっているのは鎧と呼ぶにはためらってしまうような、不自然なほど肌の露出が多い、秀逸なデザインをした鎧だ。にもかかわらずそのモデルとなったはずの大人のアゲハは、身体のラインすら出ないような、不自然なほど肌の露出が少ない、とても野暮ったいローブを身にまとっている。これは大いなる矛盾と言えた。


「こんなスカスカの鎧で戦えるわけがないじゃない。本の主人公の衣装は作家の脚色。私がこの作品で唯一不満だった部分だよ。明らかに世界観にそぐわない格好なんだもの」


「……ちなみにその黒いローブは何処で手に入れたの?」


「作った。魔法で」


「つ――作った? 作れるの? 服を?」


「作れる。……死んでも作らないよ?」


 この世界に神はいないらしい。僕は話を戻すために「そういえば」と辺りを見回す。


「アゲハをこの世界に〝招いた〟のは誰なんだ? 何処かの国の王様とか?」


「私を〝招いた〟のは人じゃない。この異世界だよ」


「……うん?」


「この異世界は生きている。一個の生命として意思を持っている。だから自分を壊そうとする『禍王』に脅威を覚えて、別の世界の私に助けを求めた。『禍王』は一度私に倒されてるけど、最近復活の兆しがあるだとかで私がまた呼ばれたみたい」


 アゲハは別に、具体的に誰かから説明を受けたりお願いをされたりしたわけではないらしい。彼女はただ、。前回も今回も異世界にやって来た瞬間に、異世界がどんな状況なのか、『禍王』がどれほど危険な存在なのか、そして自分に何ができるのか――そういった必要最低限の情報がすでに頭の中にあったのだという。

 人ではなく、世界そのものが赤羽アゲハを〝招いた〟。


「じゃあ、もしかしてアゲハは、ぶっちゃけ戦わなくてもいいのか?」


「ハルタは本当に察しがいいね。そうだよ。私は呼ばれただけ。誰かに何かを強制されてもいないし、義理もない。ここで何をするも私の自由なんだ。あえて『禍王』と戦わないことだって……たぶん、この世界でずっと暮らしていくことだってできる」


 僕は思い出す。アゲハが前に打ち明けていたこと。

 ――――『ここは私の本当の居場所じゃない。そんな感覚がずっとある』

 でも、と僕は言う。半ば確信を持って。


「アゲハは行くんだろ? 『禍王』ってやつを倒しに」 


「……わかる?」


 わかる。だって僕は知っている。アゲハの大好きな本があること。アゲハがそれを何年もずっと、何度も読み返し続けていること。そんな彼女が旅に出ないなんてあり得ない。


「行こう。一緒に」


 差し出す僕の手に、アゲハは恐る恐る手を伸ばす。


「いいの? ハルタは私に巻き込まれただけなんだよ。元の世界に戻る方法なら私が」


 空中で迷う彼女の手を強く取った。大人になっても彼女の手は細く、儚げだ。


「行こうぜ。アゲハ」


「……うん」


 こうして――僕らは冒険の旅に出る。


「……でも実際、大丈夫なのか? 結構危険な旅になるんだろ?」


「……ハルタはどうして私が〝招かれた〟んだと思う?」


「え? な、なんでだろ?」


 アゲハは少し得意気に口の端を上げた。大人の顔で、子どもみたいに笑う。


「才能があるから。この異世界を救う、ね」


 アゲハの言葉の意味はすぐにわかった。異世界を救うことにおいて、彼女は最適の才を持っていた。それは異世界のあらゆる魔法を持ち、使いこなすことができるということ。

 件の『禍王』復活の兆候を受けて魔物たちの活動も活発になっているらしく、道中では何かの漫画やアニメで見たような魔物たちと何度も遭遇した。九つの頭を持つ大蛇、強靭な爪を持つ獅子頭の鷲、見上げるような巨人の鬼、八本の足で空中を奔る馬、触れるだけで滅びをまき散らす死の鳥――そのどれもが、アゲハにはまるで敵わなかった。

 風を起こせばどんな巨体も吹き飛ばし、火を起こせばどんなに硬い皮膚でも焼き尽くす。アゲハは出会うそばから魔物たちを易々と蹴散らしていった。彼女はその身体一つで最強で、僕らは実に危なげなく旅を続けることができた。


 僕らの旅はもっぱら徒歩だった。


「アゲハは空を飛んだりとかはできないの?」


「できるよ。できないけど」


「どっちだよ」


 アゲハはおもむろに上を指差す。見上げると高い空をドラゴンの群れが泳いでいた。


「基本的に魔物は『禍王』が産み出すものだけど、ドラゴンだけは別なんだ。ドラゴンはこの世界に古くから暮らしていて、常に空を飛び続けて、とされる高貴な生物。空は彼らの住処ものなの。だから私が空を飛べば彼らと敵対してしまう。それは私の望むところじゃない」


「……なるほど」


 歩く道中、あちこちで花畑を見た。やっぱりどの花もライラックに似ているけれど、花びらの形が微妙に違っていて――そして必ず宙に浮いていた。


「異世界の花って、ずっと浮いてるみたい。ドラゴンと同じように古くから異世界にある植物で、その性質から飛花ひばなって呼ばれてる。ハルタ、飛花の花畑で目が覚めたでしょ? 私も前に異世界に来たときは飛花の花畑で目が覚めたの。もしかしたら飛花には私たちの世界と異世界をつなぐ道のような役割があるのかもしれない」


 僕はふと植物図鑑のことを思い出す。やっぱり鞄と一緒に流されちゃったのだろうか。


 アゲハの魔法があれば路銀の調達には事欠かなかった。魔物退治以外にも様々な人助けで報酬を得た。農家の畑に魔物除けの魔法陣を張ってあげたり、橋が落ちて立ち往生している商人のために橋を直してあげたり、青年が婚約指輪を失くしたというので落とし物の痕跡を魔法で探って見つけ出したり。基本的に宿や食事に困ることはなかった。

 立ち寄った街で食事を取りつつ、僕はアゲハに訊いてみた。


「アゲハは前に『禍王』を倒して、本にもなるくらい有名になってるんだろ?」


「うん。装丁は違うけど、同じ内容の本が何処の街でも売られてた」


「じゃあ名乗り出れば、わざわざ働かなくても何処でも歓迎されるんじゃないの?」


「たぶん、信じてもらえない。さっき街の本屋さんに行ったときにお店の人に確認したの。びっくりしたんだけど――私が『禍王』を倒したのはのことになってた。この異世界は私たちの世界と時間の流れが違うみたい。考えてみたら前回は何か月も旅をしていたはずなのに、元の世界に戻ったときは二日ぐらいしか経ってなかった」


 僕らの世界での三年が、こちらの世界では数百年――だとすれば大昔の伝説として語り継がれていた人物が名乗り出たとしても、信じてもらえるわけがない。『禍王』の復活も三年どころかもっともっと長い年月がかかっていたということになる。


「本音を言うと、『禍王』がたった三年で復活したのかと思ってげんなりしてた」


「だろうな」


 とにもかくにも――道中はアゲハの魔法さえあれば困ることはなかった。

 それに比べて僕は、足手まといにもほどがあった。アゲハと違って〝招かれた〟わけでもない僕は彼女のように異世界に適した能力を何も持っていなかった。小六の身体では戦うことなんてできないし、それどころか異世界の人々の言葉すらも理解できなかった。

 でもただ彼女の足を引っ張るのは嫌だったから、食料の買い出しや荷物持ちなど、僕でもできるような雑用は何でもやるようにした。お遣いや宿を取るときはとにかく身振り手振り、大仰な動きで自分の意図を伝えて、積極的にお店の人とやり取りをした。

 上手くいかないことは少なくなかった。初めての街で理解できない言葉で罵倒されたこと。人里にたどり着けず何日も野宿が続いたこと。毎日歩き続けて足の裏にいくつもマメができたこと。アゲハと同じものを食べたのに僕だけお腹を下したこと。こっそり野ションしていたときに魔物に殺されかけてウンコ漏らしたこと。それがアゲハにバレたこと。

 挙げればキリがない。でも断言できる。僕はこれっぽっちも辛くなかった。

 アゲハとお揃いの黒いローブを作ってもらったこと。キラキラと輝く湖で一緒に水浴びしたこと。僕が飛花で作った花冠を照れながらもアゲハが被ってくれたこと。街中の人込みではぐれないように手をつないだこと。野宿の夜、背中をくっつけ合って寝たこと。

 大人の姿に成長したアゲハは本当にきれいで。でも中身はやっぱり小六のままだからかわいくて。露出の多い服を着ていなくたって、彼女との冒険は最高にハッピーだった。


 足手まといな僕でも、一度だけ自分の力でお金を稼げたことがあった。

 小さな町で宿を取ったとき、ちょうどお祭りが開かれるということでその準備を手伝った。アゲハは魔法でやぐら作りを、僕は御馳走作りを手伝った。大人数の料理はとにかく人手がいるらしく、小さな僕でもやれることはたくさんあった。

 お祭りは泰平を祈るもので、メインイベントとして数百年前に『禍王』を退治した英雄チヨチヨの活躍を基にした演劇が催された。アゲハは「『ぼっち旅』の二次創作だ!」とよくわからない喜び方をしていた。演劇が終わると町の人々は踊りや飲み食いに興じ、僕とアゲハは同い年くらいの子どもたちと仲良くなって遊んだ。

 異世界ではお祭りの最後にやぐらを燃やすのがお決まりらしい。日が暮れて辺りが夜闇に包まれる中、炎上するやぐらは美しく映え、やぐらの周りにはたくさんの人だかりができていた。

 人込みの中、僕は炎を眺めるアゲハを見つけた。駆け寄ると彼女も気付いて振り返る。


「ハルタ。何処行ってたの?」


 僕は身長差のあるアゲハを見上げながら、無言で手を差し出す。アゲハは目を瞬いた。


「…………指輪?」


 僕の手の上には、表面に飛花の花びらが彫られた、小さな指輪が載っていた。

 店じまいを始めていた露店で見つけた売れ残りだ。僕は、以前指輪を失くし、それを見つけてくれたアゲハに泣いて感謝する青年のことが妙に記憶に残っていた。大の大人が大泣きしてまで取り戻したかったもの。お祭りのお手伝いでもらったお駄賃だけじゃ足りなかったみたいだけど、身振り手振りで粘りに粘って値切ってなんとか買うことができた。


「……私にくれるの? どうして?」


 感謝してるから。好きだから。結婚してほしいから。添える言葉はいくらでも思い浮かんだ。でも何故だろう、そのどれも言えなかった。僕は黙ってアゲハを見つめ続けた。

 アゲハはぐっと口を噤み、少し迷ってから僕の手から指輪をつまみ上げる。そしてそれを左手の何処かの指に合わせようとして――笑った。でも僕は笑えなかった。

 小さいと思った指輪は、それでも彼女の指には大きかったから。

 ごめん、と謝る僕にアゲハはかぶりを振る。そして今度は彼女のほうから手を差し伸べてきたかと思うと――僕のローブの襟元から何かをかすめ取った。それは夜闇に溶けてしまいそうな一本の黒い糸。彼女はその糸を指輪に通し、首に下げた。

 アゲハが優しく指輪に触れると、指輪が淡く光った。


「私の魔力を込めた。これで絶対に失くさない。一生、大事にする。……返さないから」


 そんな殺し文句の背後で、やぐらが崩れ、火花が舞った。さらに町人の誰かが撒いたのか、知らないうちに飛花が僕らの周りをふわふわと漂っていた。火花と飛花に彩られたアゲハの笑顔はまるで輝いているみたいで、僕はまた言葉もなく見惚れるばかりだった。


 僕らはやがて目的の地にたどり着き、そして旅は終わる。

 魔物を率い、異世界に災厄をもたらすという『禍王』。

 そいつは古い廃城にいた。いや、もっと正確に言えば

 廃城の隅から隅まで満たすほどの体積を持った魔物――僕らの世界では〝スライム〟と呼ばれるモンスターが近いと思う。それが廃城全体に寄生し、卵を産み、延々と魔物を作り続けていた。『禍王』の正体は異世界にいるすべての魔物の苗床だった。


「『禍王』には、触れるものから生命力を吸い上げる習性がある。今こうしている間にも『禍王』は大地から生命力を吸収し続けている。だから」


 廃城の前に立ったアゲハは高々と右手を掲げる。すると唸り声のような地響きが鳴り、廃城が風船のように浮かび上がり始める――それに巣食う『禍王』とともに。


「浮かせて、弱体化させる」


 浮遊する廃城の周りを、自分たちの領域を侵されたと思ったのかドラゴンたちが回り始める。だが彼らが警戒する必要はない。アゲハが掲げた手を握ると、廃城はその中の『禍王』ごと潰れ、凹み、何処までも縮んでいき――やがては塵も残さず消失した。


「これが『禍王』の倒し方」


 感慨にふける間もない。突然僕らの身体を淡い光が包み始めた。


「え。な、何これ?」


「戻るんだよ、元の世界に。私たちは役目を果たしたから」


 わかってはいたけれど、ひどく名残惜しかった。アゲハとの冒険が楽しすぎて、旅が終わるのがすごく寂しかった。でも僕は土壇場で気付いた。アゲハがなんだか泣きそうな顔をしていたこと。下から見上げているからこそよくわかった。僕らは同じ気持ちなんだ。

 僕らはどちらからともなく手をつなぐ。不意に甘い香りが鼻をかすめた。見るといつの間にか足許に飛花がいくつも咲いていた。アゲハが身を屈め、花びらを一枚ちぎり取った。

 瞬間、僕らの身体を包む光が輝きを増し――そして僕らは元の世界へと帰っていった。



     3


 異世界での冒険を通して、僕らは確実に仲を深めた――けれど。

 僕らは『禍王』を倒すまで半年近くかかった。時間の流れが違うせいで元の世界に戻ると数日しか経過していなかった。でもその数日の間、僕らは行方不明とされていた。

 行方不明の間に何があったのか、帰ってきた僕らは大人たちに上手に説明することができなかった。黙ることしかできなかった。双方の親は僕らの沈黙を良くない方向に解釈して――それからはお互いの子どもが極力接触しないよう、手を回した。

 その上――異世界から戻れば、異世界で培った記憶は徐々に薄れていく。

 かつてアゲハが忘れ、そうとは知らずに自分の英雄譚を読みふけっていたように。

 僕らは忘れ、疎遠になった。アゲハはまたひとりで読書にふけるようになった。

 僕はあのお気に入りの植物図鑑を失くして以来、図鑑の類を見ることはなくなった。


 僕とアゲハはそれぞれ別の中学校に入った。……正直この頃のことはよく憶えていない。

 彼女の言葉を借りれば、ただただ〝物足りなかった〟ということだけ記憶に残っている。


 中学を卒業する頃になると、さすがに親たちも油断したらしい。

 僕とアゲハはたまたま同じ高校に入学して――たまたま同じクラスになった。

 けれど僕らは以前のような関係には戻れなかった。

 僕は一番後ろの窓側の席で、アゲハは一番前の廊下側の席。教室の中で最も離れた席同士。その距離が深く大きな崖のように立ちはだかって越えられない。同じクラスになってひとつ季節が過ぎても、僕らは挨拶ひとつ交わすことができなかった。

 ただし……一日一回、ほんの一瞬だけ、必ず、目は合った。


 高一、十六歳の夏。連日猛暑が続いていた中、何の不幸か僕らのクラスだけクーラーが故障し、それでも授業は義務的に行われ、誰も彼もが朦朧もうろうとした意識で過ごしていた午後。

 クラスの中で真っ先に異変に気付いたのは僕だった。


「……?」


 たぶん、最後列の席にいたから気付けたのだと思う。天井に黒い染みのようなものが張り付いていた。それは不気味にうごめき、少しずつ、少しずつ膨らんでいるように見えた。最初はピンポン玉くらいの大きさだったのが、いつしかドッジボールくらいになっていて。

 そのうごめく染みが、アゲハの真上の天井に張り付いているのだと気付いたとき――

 ライラックのような甘い香りが僕の鼻孔をくすぐった。

 僕は椅子を蹴り倒して走り出していた。身体をぶつけながら机と机の間を駆け抜ける。クラスメイトたちの困惑の声。誰かが僕の名前を呼んだ。最前列のアゲハが振り返る。目が合う。彼女の身体を抱き締め、引っこ抜くかのように席から引っ張り出した――刹那。

 アゲハの席の机が爆発した。破片が飛び散り、周りの席のクラスメイトたちが悲鳴をあげて倒れ込んだ。僕はアゲハをかばって背中で破片を受けた。奔る激痛。叫ぶ。


「爆弾だ!」


 咄嗟の嘘っぱちだったけど効果はあった。「教室の外へ――」と教師が慌てて誘導すると、クラスメイトたちが一斉に教室の出入口に殺到した。


「大丈夫かアゲハ!? 怪我はないっ?」


 身体を離しながら訊く。アゲハは何処かきょとんとした顔で頷いた。

 僕は――こんな状況にもかかわらず見惚れてしまった。ぼやけていた異世界での記憶が鮮明に蘇る。四年ぶりに間近で見るアゲハの顔。その四年分、彼女は確実に成長していて、異世界で一緒に冒険した女性とよく似た顔がそこにあった。

 その束の間、扉の閉まる音がつんざく。次いで薄暗くなる室内――見れば教室と廊下をつなぐふたつの引き戸が閉じ、すべての窓が黒い幕に覆われていた。蛍光灯が点いていなければ真っ暗になっていただろう。教室には僕とアゲハだけが取り残されていた。

 そして――アゲハの机の残骸の上で例の黒い染みがのたうっている。不定形に蠢動しゆんどうしていたそれは次第に形を成し始める。四足歩行の獣の形。僕はアゲハをかばいつつ後退した。


「アゲハ。ひょっとしてあれって」


「うん。たぶん――異世界の魔物だよ」


「なんでそんなのがここに……」


「わからない。でも私たちが異世界に行けるんだったら、向こうからこっちの世界に来ることだってできるのかもしれない。……それより」


「それより?」


 背後から首に腕を回され、ぎゅっと強く抱き締められた。


「ハルタだ。ハルタだよ」


「ア、アゲハっ? 僕もすんごく嬉しいんだけど今はそんな場合じゃ――」


「それは今すぐ終わらせる」


 アゲハは後ろから僕を抱き締めたまま、獣の形を取り、今にもこちらに襲いかからんとしている黒い染みに向かって右手を差し伸べる。その手が――ぎゅっと握られた。

 黒い染みが内側から爆ぜるように破裂し、霧散した。教室の窓を覆っていた黒い幕もどろりと剥がれ落ちて消え、薄暗かった室内が眩しいほどの明るさを取り戻した。


「…………え?」


「実はさ、ほんのちょっとだけ異世界の魔法が使えるの。こっちの世界に帰ってきた日から。異世界で使っていたときみたいに何でもはできないけど」


「そ、そうなんだ?」


 頭が追いつかない。と、そこで背中に激痛が走って僕はうめいた。今さらアゲハをかばって怪我をしていたことを思い出す。アゲハが慌てて僕から離れた。


「ごめん! 今治すね!」


 治癒の魔法を施してくれたのだろう。痛みが和らいでいくのを感じた。

 僕の呼吸も落ち着いていく。でも僕はすぐに振り向けなかった。


「……ハルタ? こっちを見て。お顔、見せて」


 恐る恐る身体を向ける。目に涙をためてはにかむアゲハを見て、僕は震える息を吐いた。


「アゲハ――


――ハルタ」


 僕らは子どもだった。こんな異常なきっかけがないと向き合えないくらいに。

 アゲハがスカートのポケットから何か取り出した。一冊の文庫本。ライラックの花が刺繍されたブックカバーを見たとき、僕はなんだか無性に泣きたくなった。


「読む? 新シリーズだよ」


「……新シリーズ? 新刊、じゃなくて?」


「新シリーズ、だよ。私とあなたの冒険が書かれた」


 かつてアゲハの活躍が本になっていたように、僕らの冒険も本になっていたらしい。

 本を受け取ったとき、不自然な膨らみに気が付いた。本に何か挟まっている。開くと栞と指輪が一緒に入っていた。栞はライラックにとてもよく似た、紫色の飛花を押し花にした物。そして指輪は僕が異世界でアゲハにプレゼントした、飛花の絵が彫られた物――

 この四年でアゲハは確実に大人に近付いた。

 そして僕もこの四年で大人に近付いたから、言える。あのとき言えなかった言葉。


「好きだ。小三のときからずっと好きだった。結婚しよう、アゲハ」



 僕らの異世界での冒険を描いた新シリーズ『最強魔法使いの世直しぼっちじゃない旅』は、やっぱり主人公が露出過多な格好になっていて、案の定、僕は一巻で挫折した。ちなみに作中の僕は主人公の従者として登場するらしい。最後にふたりはどうなるのか訊ねたが「ネタばれはダメ」と教えてくれなかった。そう言う彼女の顔は何故か赤らんでいた。



     4


 十六歳。付き合い始めてすぐ、僕はあの植物図鑑をネットの中古本サイトで買い直した。

 十七歳、高二。僕らは初めて身体を重ねた。

 十八歳、高校卒業後。アゲハは大学に進学し、僕は就職した。同時期に同棲も始めた。

 二十歳。アゲハの妊娠が発覚。アゲハは大学を休学し、僕はアゲハの親にぶん殴られた。入籍はその翌日。結婚式については出産後、落ち着いてからまた話し合うことに決めた。

 二十一歳、妊娠八か月。それは記録的な嵐が僕らの町を襲った日だった。僕が仕事に出ている間、自宅にいたはずのアゲハはどうしてか外出し、九年ぶりに氾濫した川に飲み込まれた。嵐の過酷さを伝えるためだろう、ニュース番組に投稿されたドライブレコーダーの撮影動画の中に、身重のアゲハが濁流に連れ去られる様子が偶然映っていた。

 アゲハは帰らぬ人となった。


 僕はほとんど死んだように日々を過ごした。アゲハと暮らした部屋にこもり続け、喪服のスーツも脱がず、仕事も休み、風呂にも入らず、床の上にただただ横になった。

 無気力に時間をやり過ごすだけだった。だから――発見が遅れた。

 床の上で寝返りを打った拍子にテーブルに足がぶつかり、テーブルの上から目の前に何かが転がり落ちてきた。それは黒い糸が通され、花びらの絵が彫られたあの指輪だった。

 …………アゲハがいつも肌身離さず首から下げていた指輪が、何故ここにある?

 僕は弾かれたように起き上がり、部屋の中を見回す。目についたのはテーブルの上に置かれた本……ライラックの刺繍がされたブックカバー。何かに導かれるようにその本を開いた。押し花の栞が挟まっていた。押し花にされているのはライラックに似た異世界の花。その花びらは何年か前に見たときは紫色だったはずだが、今は黒く濁っていて――

 僕は指輪と本と栞を持って部屋を飛び出した。時刻は深夜。屋外に人の姿はない。僕は夜道をひた走る。ある予感が僕を貫いていた。

 ――――アゲハは異世界に〝招かれた〟のではないか?

 近頃は異世界の記憶がいよいよ希薄になっていた。あの冒険は本当にあった出来事だったのかと疑ってしまうほどに。例えばそう、あれは当時川の氾濫に飲まれて死にかけて、意識が混濁していたときにたまたま見た夢なんじゃないか、と。でもそうじゃない。僕とアゲハは同じ体験を認識していた。それだけじゃなく、高校生のとき、僕らは誰もが目撃する形で異世界の魔物に襲われた。僕らが異世界でした冒険は絶対に幻じゃない――

 僕は肩で息をしながら、アゲハを呑み込んだ川の前で立ち止まった。憎き川は夜闇の中でどす黒く横たわっている。ほんの一週間前、暴れていたのが嘘だったみたいに穏やかに。

 僕は考える。高校生のとき、教室に現れた魔物。あれは何のために僕らの世界にやって来たのか。あの魔物は真っ先にアゲハに襲いかかってきた。つまりアゲハが狙いで異世界から送り込まれた? そして――アゲハは今回〝誰〟に〝招かれた〟?

 僕は川に向かって叫ぶ。


「異世界! 僕を連れていけ!」


 もしもアゲハの身に何か危機が訪れているのだとしたら、僕は行かねばならない。


「アゲハは二回もそっちの世界を救った! なら、いいだろ! 僕みたいなオマケだって一度くらい連れていってくれても!」


 僕の声に呼応するように、静かだった川がにわかに騒ぎ出し、波打つ。黒い川の中に淡く光る花を見つけ、そしてライラックの香りが鼻を突いたとき、すべては確信に変わった。


「僕を――〝招け〟」


 僕は土手を駆け下りる。生き物のように隆起し始めるどす黒い川の中へと身を投じた。



     5


 異世界に〝招かれた〟者は異世界の言葉を理解することができ、その〝招き〟に適した肉体を得る――これが基本的なルールだったはずだ。加えてアゲハが言っていた。異世界にやって来た瞬間に、そこがどんな状況なのか、『禍王』がどれほど危険な存在なのか、そして自分に何ができるのか――そういった必要最低限の情報がすでに頭の中にあったと。

 気が付けば飛花の花畑の中に立っていた僕は、確認する。肉体は二十一歳のままで、服も着たきりだった喪服のまま。アゲハの魔法のような特別な力は自分の中に感じない。あれはやっぱり彼女自身の才能だったのだ。それに今回の僕は〝招かれた〟のではなく〝招かせた〟形だ。ここに来られただけでも御の字だろう……いや、来られただけじゃない。

 今の僕はたぶん、異世界の言葉がわかる。異世界の言葉がわかるということがわかる。

 わかることは他にもあった。この異世界は僕が前回来たときよりも数千年が経過していて、再び危機に陥っている。『禍王』が長い年月をかけて力を蓄え、復活していたのだ。

 そして『禍王』は今、この異世界にとって過去最悪の災厄と化している。

 その体内に無尽蔵の魔力の塊――アゲハを取り込んだことによって。

 アゲハは『禍王』に〝招かれ〟――今なお『禍王』の養分となって生かされている。

 彼女がさらわれたのは元の世界では一週間ほど前の出来事だったが、この世界では約一年前の出来事。もっと早く気付くべきだったが、後悔で立ち止まっている場合ではない。

 僕の手には僕の世界から持ち込んだ指輪と本と栞がある。これは推測だが、アゲハは『禍王』の再復活を予見していたのではないか。だから再復活を知らせてくれるセンサーとして異世界の花を密かに持ち帰っていた――が、折あしく『禍王』に先手を打たれた。

 栞を挟んだ本をポケットにねじ込み、指輪を首に下げ、僕は行く。


 僕自身は『禍王』のような怪物と戦う術を持たない。けれどこの異世界に〝招かせた〟ことで唯一備わった能力がある。それは〝異世界の言葉がわかる〟というもの。

 異世界の言葉がわかる、というのは単純に異世界の人々と会話ができるという意味に留まらなかった。異世界に存在するすべての言葉が理解できる――つまりということでもあった。

 前回から数千年も経過した異世界は、人々の着る服や建築物が様変わりしていた。魔法は生活の基盤を支える手段として扱われ、魔法書が一般的に流通していた。僕は最初に立ち寄った町で販売されている魔法書を手に取り、それが難なく解読できることを知った。

 僕は魔法書を探す旅に出た。求めたのは広く流通している物ではなく、異世界の先人が遺した有力な魔法だ。火や風を自在に操る魔法、何か月も寝ず、飲まず食わずで過ごせる魔法、遠視、透視の魔法――アゲハが元々持っていたものを片っ端から集めていく旅。

 有力な魔法ほど獲得は困難を極めた。峻烈な雪山の奥に赴くこともあれば、魔物の巣に飛び込むこともあった。偏屈な魔法使いに、引き換えに自分の左眼球を差し出すことも。

 魔法書の蒐集と同じくらい、その修得にも時間を費やした。何年も歩き続け、また何年もこもり続けた。魔法の事故で右手は義手になり、異世界で流通している中でも特に効果の強い、肉体を強化する薬や魔力を増幅する薬を多用したせいで僕の髪は白く染まった。

 準備には実に十年を要した。十年かけて、これ以上ないほど入念に備えた。

 大量の食料と水、薬物その他を背嚢に詰め込み、僕は万全を期して『禍王』に挑んだ。


 アゲハの魔力を取り込んだ『禍王』は膨大に過ぎた。前回は廃城に寄生していたが、今回は国――異世界でも有数の大国を丸ごと呑み込み、超々巨大なスライムと化していた。

 その正体は魔物の苗床であり、工場だ。卵を産み、延々と魔物を作り続ける。アゲハの魔力を取り込んだことでその産卵の数と速度は凄まじいものとなり、『禍王』が寄生した大国の周辺一帯は魔物どもの群れで長大な壁ができるほどだった。

 僕はその壁を、魔法と薬物を駆使して削り、『禍王』の許を目指して進む。

 初日。不眠の魔法を使用。また、魔力増幅の薬を継続服用。ひたすらに魔物を殺す。

 七日目に食料が尽き、九日目に水が尽きた。飲まず食わずの魔法を使用。

 二十五日目。物量で押し込まれ、大きく後退。魔力回復の薬を大量に消費。

 二十六日目。前日の不覚を取り返すため、大規模な爆炎魔法を使用。前進。

 三十二日目。隙を突かれて負傷。治癒魔法と興奮剤で意識を保つ。前進。

 四十七日目。歩行中、左脚が不意に骨折。治癒魔法と興奮剤で意識を保つ。前進。

 五十日目。閉ざされた正門を前にして、僕は地に膝をついた。胃の奥から込み上げる感覚に襲われ、えずくも胃液すら出なかった。正門の周りにいた魔物どもは一掃したが、またすぐに新たな魔物どもで埋められるだろう。猶予は幾ばくもない。

 今や僕の魔力は枯れ、それを回復する薬は残り一回きり。震える手で丸薬を口の中に放り込み、奥歯で噛み砕く。使う魔法はふたつ――血を吐くような旅の中で手に入れた遠視と透視の魔法。魔法の同時使用は大きな反動を伴う。眼球が直接炙られているかのような激痛に軋むほど歯を食いしばり、瞼を大きく開いて〝視る〟。

 正門の内側は予想通り『禍王』の粘液で満たされていた。粘液は大国の全域に及び、あらゆる建築物を圧し潰して瓦礫と化し、夥しい数の人間の死体を浮かべている。

 この国の地理は頭に叩き込んであり、そしてある程度当たりもつけてある。僕は〝視〟続ける。城下町、繁華街、王城、その中央で朽ちかけつつも突き立つ尖塔――見つけた。

 僕はうめき、右目から涙を流した。枯れ果てたはずの身体でも、涙は出た。


「ああああ……」


 ここから遥か遠く、朽ちかけた尖塔の中で――ひとりの女性が粘液の海を漂っていた。

 眠るように閉ざされた瞳。赤みがかった髪。皺だらけの顔。ボロボロの貫頭衣から覗く皮膚はしなび、四肢が枯れ木のようにやせ細っている。ただし彼女の腹だけは染みひとつなく若々しい肌を保っていて――


「君なら……そうするだろうと思ってた」


 そして僕は透視の魔法で知る。その腹の中で丸くなって眠る、少女の存在に。


「きっと守ってくれていると」


 アゲハは『禍王』に力を吸い取られながらも、ずっと守り続けていた。

 その腹の中で、我が子を。成長し続ける娘を。『禍王』の搾取が及ばぬようにと強力な魔法の膜を張って僕らの子どもを守り続けていた。自分のことを捨て置いてでも、だ。

 アゲハは母親としての役目を立派に果たした。ならば父親の僕もその役目を果たそう。

 食料も水もなくなって荷物はずいぶんと軽くなっていたが、背嚢の奥にはまだ丸薬が数十個残っている。魔力を回復する類でも増幅する類でもないそれをひとつ手に取り、僕は正門に走る亀裂から中へと投げ込んだ。またひとつ、もうひとつと続ける。


「……僕は魔法書を探すために異世界中を渡り歩いた」


 変化は七個目から生じた。唸り声のような地響きが鳴り出したのだ。


「その旅の中で、ある石碑を見つけた。大昔に異世界を救った英雄チヨチヨのことを祀った物だった。古くからある石碑らしく細かな文字は風化して読めなかったけれど、その土地の人間には大事にされているみたいだった。きれいに磨かれ、飛花が供えられていた」


 八個目、九個目。正門がひび割れ、崩れ落ちる。大地が猛烈に震え始める。



 十個目。鼓膜を叩き割るような轟音をあげ、『禍王』が大国の土地ごと浮上を始める。


「それから僕は、魔法書の蒐集と並行して異世界中の飛花をかき集めた。何千何万という飛花を煎じて、魔法で圧縮して、この丸薬をいくつも作った」


 手が届かない高さになる前に、残る丸薬を背嚢ごと『禍王』の中に放り込んだ。

 地上から切り離された『禍王』はいよいよ高度を上げていく。

 すると自分たちの領域そらを侵されたことを察してか、何処からかやって来たドラゴンたちが『禍王』の周りを飛び回り始めた。異世界の竜たち。彼らは死ぬまで飛行を続ける生物として知られている。彼らは死ぬと、墜ち、土に還る。そして――。飛花とはドラゴンの死骸を養分として生まれ、育つ植物なのだ。


「『禍王』。僕はお前の倒し方を知っている。アゲハが前に教えてくれた」


 ドラゴンの花が持つ魔力により強制的に浮遊させられたことで、『禍王』は大地から生命力を吸い上げることはできなくなった。あとは奴の最後にして最大の供給源を絶つだけ。

 僕は胸元に左手を当てる。そこには例の指輪が下げてある。……僕は憶えている。

 ――――『私の魔力を込めた。これで絶対に失くさない』

 僕は指輪を握り、魔力を込める。僕の生命力を還元した魔力を。瞬く間に枯れ果てていく左手で黒い糸を引き千切り、指輪を投げ放った。指輪は、アゲハの魔力によって元の主の許を目指し、僕の魔力によって『禍王』の体液を光の如き速さで貫いていく。


「後は任せたよ、アゲハ。そしてまだ名前のない僕らの子ども」


 僕は知っている――透視の魔法でついさっき知った。僕らの娘がアゲハの才能を余すことなく継承し、さらにはそれを凌駕せんとする力を秘めていることを。


「お母さんを、手伝ってあげて」


 僕は焼ける右目で最期に〝視る〟――光の矢と化した指輪が尖塔に突き刺さり、アゲハたちの許へと届いたのを。その瞬間に僕の魔力が弾け、アゲハたちを取り囲んでいた粘液を一滴残らず払い除けたのを。十一年ぶりに粘液から解放された直後、アゲハの閉じていた瞼が大きく開いたのを。その母を追うようにアゲハのお腹が目映く光り始めたのを。

 輝きは闇を押し退けるように爆発的な広がりを見せて。

 瞬く間に『禍王』を、僕を、世界を包み込み――そこで僕の意識は終わった。



     6


 小六の夏、転校生が僕らのクラスにやって来た。

 彼女はよくわからない子だった。休み時間は誰ともつるまずに読書に勤しみ、本の内容に熱中してか周囲もはばからずゲラゲラと笑い、時にはグスグスと泣く。そのくせ喋るのが苦手なのか、話しかけてもほとんど会話にならない。クラスメイトとの距離は開くばかりだったけれど、彼女自身はそれを気にしたふうもなく飄々としていた。

 彼女は本にいつも同じカバーをかけていた。紫の花が刺繍された、布製のブックカバー。

 時々、ずいぶんと古い植物図鑑を楽しそうに広げていることもあった。

 たまたま同じ出版社の動物図鑑を持っていた僕は、彼女のことが気になって仕方がなくて──目が離せなかった。


 その日は授業参観だった。帰りの会の後の玄関にはたくさんの親子が集まっていて、僕はその中でトイレに行った親をひとり突っ立って待っていた。そしていつものように何とはなしに見ていた。玄関の手前の廊下で祖母らしき女性と話す、転校生を。


「あの子が気になるのかい?」


 びっくりした。振り返ると、いつの間にか知らないおじいちゃんが横に立っていた。


「ずいぶん熱心にあの子のほうを見ていたからさ。違ったらごめんよ」


「……ち、ちがわない、です」


 何故か、思わず否定してしまった。おじいちゃんは「そうか」と目を細める。


「なら、ぜひ友だちになってやってくれ。あの子はまだ友だちの作り方を知らないから。……でもそうだな、付き合うとなったら話は別だ。悪いがそう簡単にはやれない」


 僕が何も言えないでいると、当の彼女がこちらに向かって手を振ってきた。


「おとうさん――」


 おとうさん、と呼ばれたおじいちゃんは、僕のほうを振り返って、子どもみたいに笑う。


「僕らはまだ始まったばかりだから」

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ぼくらのプロローグ【MF文庫J evo】 三浦勇雄/MF文庫J編集部 @mfbunkoj

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