第3話 道筋
街の外れの廃屋に一時的に退避した僕たち。
「うーん、何も見えないのだ。」と言うトララ。
僕は今トララに手をつないでもらって、未来視を行なってもらっているところだ。
人間姿のトララは片手をプラスフィアにかざしてこう続けた。
「やっぱり何度やっても見えないのだ」
がっかりする僕。
「だから言ったでしょう。成功するには条件があるって。」と横から口を出すミーナ。
ミーナは先程までの紫のローブを脱いでいる。
今の服装は南のエルフ族がよくきている感じ。
ざっくり説明すると上が短めのワンピースで下にレギンスを履いている。
「でもやるだけやってみないと、やっぱり納得がいかなくって。」僕は言った。
「まあ一理あるわね」と顎に手をやるミーナ。
「ごめんなのだ、もう疲れたから、元に戻ってちょっとだけ寝るのだ。」
そう言ってトララは元に戻ってミーナの鞄に潜って寝始めた。
「ありがとうトララ。」ともう聞こえてないかも知れないが、礼をいう僕。
「ミーナ、まだ僕未来視がよくわかってないんだけど……、教えてくれる?」
「そうね、わかったわ、私が知ってる限りで話すわね。まず未来視って言っても、未来は確定じゃないわ。先の話つまり何年も先になるほど未来は変わってしまう可能性が高いわ。」
「え?未来って決まってるんじゃないの?」
驚く僕を尻目に話を続けるミーナ。
「例えば、次の目的地を占うとして“次は道は右行く“と未来視で出たとして、私達が断固として左の道にいこうとすれば、“左に行く“こともできるわ。」
「え、じゃあ、明日の晩御飯を当てるってのは?」
と、僕は先ほどの話を思い出す。
「言葉のあやよ、言って仕舞えば予言に近いものと思ってもらってもいいわ。」
「予言……。」
「そもそも、そんなに具体的に見えることは少ないらしいわね。やっぱり強い想いがないと難しいみたい。」
「じゃあ、どんなふうに見えるの?」
「未来視を始めると強い想いを持った者とトララが未来のイメージを感じ、情景が目に浮かぶって感じかしらね。」
「なるほど。」僕は納得した。
「まあ、仕方ないわね、とりあえず、この街ケントルムにいるのは危険だし、多分未来視成功のアテもなさそうだし。街をでましょう。」と言いミーナは続けて「街を出る準備をしましょう」と、言いながら、ローブを羽織った。ちなみに今度は怪しげな紫のローブではない。
それからのミーナの行動は早かった。慣れた様子で水や食料、その他必要な物を買い揃えていく。
ミーナに指示されてどんどん物をもたされていく僕。
「ところで、ミーナ!とりあえず、この都市をでるって言ったけど、どこへいくの?」
「言ってなかった?今がここ!首都"ケントルム"よりやや南側にいるわよね?とりあえず私も用事があるし、ミコーも行きたそうにしているから、ちょっと寄り道しながら南の街"アウステル"に向かうつもりよ」と地図を広げて指でなぞりながら言った。
ちょっと寄り道と言った時に指した場所は南より大分東寄りの所を指していた為、何故という顔をしているとミーナが話を続け出した。
「どうしてって顔をしてるわね。いいわ教えてあげる。その南東の街"ウェスペル"では、前にトララが未来視を発動させるのに成功した場所なの。」
だからもしかしたらまた上手くいくかもしれないわねーーーそう言ったミーナの顔は真剣そのものだった。それを見た僕は、彼女にもきっと何かしらの願い事があるのだと悟った。
だが、僕には僕の目的もあるので考えあぐねていると、ミーナはこういった。
「どうすべきか、迷ってる顔ね。それなら試しにあなたの風にでも行く先を訪ねてみたら?」
「僕の風……あ!いや、でも……。」
シルフの事を言っているのだと気付いたが、あの時は必死だったから出来たのであって、今そう言われてもどうしたらいいのかわからないのが正直な所だ。
「とりあえず、やってみなさいよ。強い気持ちがあるなら、きっと呼応するはずだから。」というミーナ。
「わかったよ。」とりあえずやるだけやってみるかの精神だ。
道の真ん中では目立つので、路地裏に入った。
そこで、適当に右腕を振るう。何も起こらない。
「もっとちゃんと強く念じて!」とミーナはいう。
「そんなこと言われたって、わかったよ。もっとちゃんと念じてみるよ。」
今度は強く念じて右腕を振るう。するとなんとなくだが風が集まってくる感覚があった。なんだろうと腕の方を見ると薄い緑色の小さな精霊が手の甲に腰掛けていた。
「やった!できた!」と喜んでミーナの方を見ると、おぉーと言った表情でミーナとが見ていた。
「やれば出来るものね。」と他人事の様に言うミーナ……実際他人事なのかも知れないが……。
シルフはふわりと浮き上がって、先程ミーナが地図をなぞったのと同じ様に再びなぞってみせた。
「これは……ミーナの言う通りがいいって事なのかな?」
シルフは頷くと光って拡散する様に消えた。
「どうやら、決まりの様ね、まずはウェスペルを目指すわよ」とミーナは僕の顔を見つめてきた。
ミーナの深い緑の瞳に見つめられるとなんだか戸惑ってしまう。
するとトララが僕の肩に乗り、「なんなのかな?照れてるのかな?」と耳打ちしてきた。
「ち、違うよ。」と慌てて否定する僕。
「えー、違うの?ちょっと残念、なんてね」
いたずらっ子のようにミーナは言った。
なんで聞こえたんだと動揺しながら呟くと、ミーナはこう続けた。
「それはね、森はいろんな音が聞こえるのだからエルフ族は耳がいいのよ。」とくすくすしながら言った。
それを聞いた僕はミーナのいるところであまり変なこと言うのはやめようと思った。
「エルフ族ってすごいんだね……あまりあったことがないから知らなかったよ。」
「エルフって言っても私は南の森の“ミディオネイリス“のハーフエルフなのよ。だからこれでも耳はエルフの中では小さいから小さい音に鈍感な方なの。」とミーナは言った。
ミーナは続けて、「ミディオネイリスには行ったことある?」と聞いてきた。
「そこになら行ったことあると思うよ。とても綺麗な湖があった気がする」
幼い頃の朧げな記憶を頼りに答えた。そうだあの時母さんも一緒にいて、月明かりが反射する湖を見た覚えがある。
「そう、そこ綺麗な湖だったでしょう?私はあの湖の近くで暮らしていたの。静かで美しくて大好きな場所だった。」
ミーナは遠い目をしながら言った。望郷の眼差しとでも言うべきか、とても美しくしかし儚げな顔をしていた。
「あっ!」と僕は気付いてしまった
「確かあの森って……!」と言いかけて口を塞いだ。
ミーナの顔が険しくなる。
「そうよ、北と南の内戦で最初に犠牲になった場所。北の人があの森を放火してそれに怒った南の人たちの怒りが爆発して内戦が始まったと言われてる場所。」
とミーナは悲しそうな顔で言った。こう続けた。
「確かに、北と南は当時いざこざあって、内戦寸前だったわ、だからあれがきっかけで内戦になってもしょうがなかった……、でも、本当は違った、放火したのは黒帰団だった。理由は内戦を始めさせる為。私は見たの黒のローブの者たちが放火する現場を。それが黒帰団だと気付いたのは、後になってからよ。」とミーナはうつむいた。
「そ、そんなことって!」僕は驚愕の事実にビックリした。
「どうしてその事実をみんなに言わなかったんだ。」とミーナの気持ちも考えず、内戦のせいで母さんとはぐれた僕はついそう言ってしまった。
「火の回りが早くてね、南の森に居た人は全員助からなかった。だから当時の私の話をきいてくれる人は居なかった。」だから内戦は止められなかったと悔しそうにいうミーナ。
「そうだったのか……ごめんひどい事言って」と謝る僕。
「いいのよ!知らなかったんだから」気にしないでというミーナ。
「私は黒帰団を憎んでる。」と決意した表情でいうミーナ。
「だから、黒帰団の企みを阻止しようと動いていた。そこで出会ったのがトララよ。」とトララの方を見る。
「そうなのだ、捕まりかけた所を助けてもらったのだ」とトララは言った。
「だから一刻も早く黒帰団に対抗できる力をつけないといけないの……。」とミーナは真剣な顔で言った。
ミーナはぐずぐずしてられないと言いながら話を戻した。
「それで行き先はウェスペルを経由してアウステルへ向かうで大丈夫かしら?」
それでいいなら早速出発したいんだけど、とミーナはいう。当たり前だがソワソワしているように僕には見えた。
何かあった時に対応できるように構えつつ、僕は「うん、それで行こう。」と返した。
Carpe diem(カルペ・ディエム)ーー今を生きよーー 女の子と魔法で苦難を乗り切る話 @qs0724
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