外伝その1・私は悪役……いえヒロイン?
メリジェーン・オックタビア。そうオックタビア家の娘メリジェーン、それが私。地球と呼ばれる前世での名前は忘れたけど、私は転生した。このゲームの世界に。タイトルは「何度でも君を愛する」とか何とか。肝心なところだけ記憶が曖昧なのよね。
でも転生した原因とかゲームの内容は覚えているから不思議。
原因は地震による、多分建物の崩落。学校にいて立ってられないほどに地面が揺れたのは覚えてる。そして頭上から塵が降ってきて、気がついたらメリジェーンになってた。
目が覚めたら全くの別人になっていて、パニックになったのを覚えてる。赤ん坊だったから普通に泣いてるようにしか見えなかったでしょうけど。
だけど、自分がメリジェーンだとわかった時私は最高に喜んだ。愛してやまないゲームの世界に転生してるんだもの。
最推しはヒロインちゃん。底抜けのバカで抜けてるところがチャーミングなのよ。もちろん可愛いんだけど、ゲームのヒロインって感じじゃないのよね。言うなれば転生悪役令嬢系の小説に出てくるヒロインって感じで。どうしようもないダメさが最高なのよ。
攻略対象を攻略するために悪事もする、ヒロインという名の悪役令嬢みたいなキャラ。しかも周回を重ねるとシナリオも変わって、選択難易度でゲームジャンルすら変わる異色のゲームなのよね。まあ、前世の私はゲームが苦手だからイージーモードだったけど。
とにかくダメなあのヒロインちゃんをこの目で見れると思うだけで心拍数が跳ね上がる。
でもシナリオが壊れてしまって。悪役令嬢にされるはずの私が、ヒロインの証である白魔法が使えるようになってしまったのよ。
白魔法が使えるとわかったのは、教会での洗礼の儀式の時ね。大量のお布施が必要だから、貴族ぐらいしかしてないけど。
魔法の種類を調べられる水晶玉に手を乗せた途端に、部屋中が
教会はもちろんのこと、私も家族も王宮も大騒ぎ。それだけ聖女は特別だから。そうでもなきゃ、ダメヒロインが悪事を働いても隠し通せるわけが無いのよね。
私が聖女になったことを受け入れるのは早かった。最初は混乱してたけど、とあることに気がついたから。ヒロインちゃんが聖女じゃ無くなったのならシナリオは壊れたことになる。つまり、あのヒロインちゃんを私のモノにすることが出来るかもしれないということ。
一番いいのは私の専属メイドにする事ね。そうすればほとんどの時間を一緒に過ごせるもの。ただ、最大の問題も同時に起こったんだけどね。ヒロインちゃんの居場所が分からないのよ。
どこの村にいるのか分からないし、探そうにもその手段が私には無い。聖女じゃないヒロインちゃんが学園に来るかも分からないし。嬉しさ半分、悲しさ半分。それが聖女になった私が得たものだった。
聖女になった私は当然のごとく第一王子の婚約者となり、王妃教育と聖女のお勤めで忙しない毎日を過ごした。そして学園に入学して私は感謝した。そう、ヒロインちゃんを見つけたから。
「アンナ、です。黒魔法が、使えます」
見た目も名前もゲームと同じだった。違うのは黒魔法が使えることくらい。聖女じゃないなら別の魔法が使えるようになっていてもおかしくは無いから、ほぼ確実にヒロインちゃんよ。
「アンナさん、お昼をご一緒にいかがかしら?」
ヒロインちゃんは昼休みになった途端に、逃げるように教室を出ようとしていた。掴み取ったチャンスを逃すまいと、私は誰よりも早くヒロインちゃん。いえ、アンナさんに声をかけた。
「あ、あの私」
ゲームのような苛烈な性格じゃなくて、大人しそうなおどおどした雰囲気が可愛いわ。容姿も画面越しに見るよりもとっても美味しそ……いえ可愛くて。声は脳内フォルダに保存しておいたわ。
「メリジェーン様と一緒に───」
アンナさんが何かを言い出そうとしていると、その声を遮るように邪魔が入った。
「どうしたんだい、メリジェーン」
私の婚約者、フォルスター。王子でまあカッコイイけど興味無いのよね。いずれは結婚するのでしょうけど、本当に好きなのはアンナさんだけよ。婚約者ってだけでアンナさんとのお話を邪魔するのは許しませんわよ。でもこの際だから利用しちゃいましょう。王子からのお誘いは断れないはずですわ。
「フォルスター様。実は今、アンナさんをお昼に誘っていましたの」
「メリジェーンは優しいな。アンナと言ったか、どうだろう一緒に食べないか?」
フォルスターの言葉にアンナさんは目を泳がせて、一生懸命に考え事をしているみたい。そんなところも可愛いですわね。ただ気になることが一つ、一瞬フォルスター様の表情に変化があったような気がするのよね。シナリオが壊れてるのだから、好きになることは無いと思うんだけど。少し注意が必要かしら。
ヒロインだった村娘 幽美 有明 @yuubiariake
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